地獄の109丁目 煉獄第五層 ~強欲~
「煉獄も折り返し地点過ぎたな」
「ええ、残す層はここ、強欲の層を含めて三層です」
「私、山登りに少々疲れてきましたわ」
四層まではとりあえず無事に登ってこられたが、階層が増すにつれて敵が強力になるのはゲームの基本。気を引き締めてかからねば。
「しかしまぁ、なんというか色んな意味で進みづらい層だな」
「これまでの層でもそうでしたが、天界の罰って少々悪趣味ですよね」
「天界も所詮は人間の成れの果てってことですよ。ギヒヒヒ」
地獄の罰は非常にわかりやすい。因果応報だったり、とにかく罪人に悔い改める事をメインの目的にしているせいか苛烈で、体験していない俺でも二度とあそこには近づきたくない。
第五層は強欲の層。生前欲深くあれこれ求めて独り占めしたような奴らが浄罪している。要は、足るを知らなかった人々だ。そんな人々がただただ這いつくばって進む。正直、さっきから何回か踏みそうになっている。中にはベルや妖子さんに踏まれて喜んでいる不届き者もいる。こいつらは第七層でも引っかかりそうだ。
「踏んだ時感謝されるのは、ここが浄罪の場だからでしょう」
「いや、俺が踏んでも同じ反応は示さないだろう。あれはただの性癖だ」
「ここからは全員踏みつけて行きましょうかねぇ♪」
地獄の住人は天国だの浄罪だのとは無縁な位置にいるので気楽なものだ。
「お、また少し開けた場所に出たぞ」
「あ! あそこにいるのは……」
「どなたですの?」
忘れもしない。査察がこじれる元になった奴が立っている。押し通るにしても最低でも竜王の怒りは上乗せして通してもらおう。
「下の階層の奴……、しくじりやがって」
「クロード、多分通してくれって言っても無駄なんだろ?」
「ああ、無駄ですね。それが私の役目なので」
「ここに配置されてるところを見るとあんた欲深そうだな」
クロードは訳が分からないといった表情でこちらを睨んでいる。思い当たる節が無いのかそれとも配置した奴の悪意か……。
「私がここにいる事と欲深いこと、何の関係があるのです?」
「一層から四層まで特徴や能力が階層とリンクしてたから。てっきりあんたは色欲の層で出てくるかと思ったが」
「すいません、敵ながらご教示いただきたいのですが、第一層から四層まで誰と戦ってきたのですか?」
えっ、仲間の配置知らされてないの……? と思いつつ、これまでの門番を説明してやった。
「あのハゲ……、配置に悪意ありまくりじゃねーか」
「うわぁ、あの隊長人望ねーな」
「と言うか、あなたたちはミストを倒してここまで!?」
「そうなりますわね」
「あの脳筋くしゃ頭めぇ……」
クロードは忌々しそうに頭を掻き毟った。
「大方、居眠りでもしてたんでしょう。あいつは頭は悪いが戦闘の腕は並みじゃない」
「急いでいるので通っても宜しいですか!?」
妖子さんがイライラを爆発させる。俺達ももう、相手にするのがめんどくさくなってきたところだ。
「舐めるな! 私とて曇天の一員! 後輩の不始末は私が拭う!!」
「じゃ、ここは俺でイイね?」
「何気にまともな戦闘らしい戦闘は初めてじゃないですか? 大丈夫ですか?」
「た、多分……」
「人間ごときが!? 私の前に立ちふさがる!? はぁ……」
「ん? なんのため息?」
クロードはやれやれと首を振りながらスタスタと近づいてくる。
「いいですか!? 天界に仇成す悪魔共ならまだしも! あなたは天界に管理されてしかるべきただの人間ですよ!? ただ足が少々速く! たまたま! まぐれで私を殴り倒せるだけの!」
傲慢でもある。こいつ一人で七つの大罪をフルコンプリートしそうな勢いだ。暴食と嫉妬がよくわからないくらいか。
「大体あなたはいいですよね! 美人ばかり周りに揃えて! 前回の査察の時いた子は今日どうしたんですか! あの後、悔しくて食堂のご飯食べすぎましたよっ!」
暴食と嫉妬キターーーーーーーーーーー!!!
「おめでとう!!」
「? 何がおめでたいんですか!?」
「いや、こっちの話。さ、時間が押してるんで」
クロードがこめかみをピクつかせながら笑う。
「いい加減に態度を改めなさい!」
クロードの拳が飛んでくるが、ミストに比べて大層ゆっくりに見える。最初の一撃はとりあえず避けてみることにした。
「ほう、なかなか素早いですね。これならどうです!」
こちらの感覚で言うと体操でもしてるのかと勘違いしそうになるので、パンチ、キックに合わせて屈伸したり、伸びをしたりして避けてみた。
「は?」
「え?」
クロードは自分の拳と俺の顔を交互に見つめ、再度殴りかかってきた。手の先やつま先に毒が付いているかもしれないので全部避ける。避ける。避ける。
「なぜ! なぜ当たらん! ただの人間に!!」
「よし、小細工はなさそうなのでこちらからも攻撃します!」
ちなみにベルの時と違って妖子さんからの応援は皆無だ。爪をいじったり髪の毛をクルクルしている。ベルは腕を組んだまま早く終わらせろと視線で訴えかけてくる。
「気づかぬうちに手加減をしていたようですね。いいでしょう。私の全力! お見せしましょう!! はぁぁぁぁぁぁっ!!」
全力(笑)の攻撃をやっとの思いで(笑)かいくぐり、横っ面と腹に一撃を加える。
「ぐばぁぁぁぁっ!!! クッ……、クフフフフフ」
ヤバい。打ち所が悪かったのかもしれない。急に笑い出した。
「ついに、ついに私に必殺技を出しましたね! 私の能力はコピー! 技を受けることで発動するのです! あなた自身の技であなたは敗れ去るのです!!」
どうしよう、何の変哲もないパンチが必殺技認定され、あろうことか自分の能力を語りだした。クロードは力を得たとばかりに殴りかかってくるが、当然今までと何も変わりはしない。
「ハハハハハハ……は……あれ?」
「あ、いやもう大丈夫っす」
俺はクロードにありったけ拳を叩きこむと、ベルと妖子さんと共に次の階層を目指した。
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