第6話 異端と英雄 神と怪物 その境目

時折思う。


異端と英雄。神と怪物。その境目は極めてあやふやで移ろいやすく、それでいて危ういものであると。


時代の先駆者。寵児。超越者。偉人。これらは凡百の人々より遥かに秀でた


知性。器量。力量。実力。素質。これらのような要因を生まれもって授かった傑物である。


しかし皮肉な事に世界中を埋めつくしのさばるのはいつの世も『取るに足らぬエキストラ』。端役。つまりは凡人である。


ピカソも。信長も。キリストも。ジャンヌダルクも。これまでの名だたる英雄や怪物と呼ばれてきた偉人達は人より遥かに秀でて歴史に名を刻み多くの人々の上に立ちながらも、悲惨な筋書きを歩んだ者、その実力認められなかった者、無実の罪により裁かれた者のエピソード等が大変多い。


ではなぜ、このような事が起きるのか。


解は極めて明快。至極単純である。


それは凡人達の卑しくも醜き『畏れ』が原因である。


あまりにも優れすぎた力、知性、才能、カリスマ、資質、実力を有していたが故に。


誰もが『英雄』『怪物』それらの誕生。あるいは支配を畏れたが故である。


皮肉。皮肉。皮肉。


誰も彼もが偉人達を神のように崇め奉り崇拝しておきながら、しかして誰もがその存在を疎んじ最終的には


『不都合なモノ』『在ってはならぬモノ』として弾劾し、排除したのだ。


出る杭は打たれ。過ぎた力は身を滅ぼし。人々と相容れぬ存在はやがて世界からいつの間にやら爪弾きにされる。


この世界はあまりにも陳腐で醜悪で皮肉で汚らわしくも滑稽な舞台である。


しかして何より皮肉で救いようがないのはこの舞台を支配し筋書きを描くのは、誰あろう観客席に居座り続ける愚かなる観客。


凡人達なのだ。


私は平凡を嫌悪する。普通を嫌悪する。人間を侮蔑する。


テーマからは外れるが、今まで私は誰より何より知性も品性も感性もなく、ただの一度足りとて誰にも評価されなかった。


故障品。紛い物。出来損ない。


否。否。否。


失礼。表現が正しくなかった。


人間のなり損ないであるがゆえ。


無頼無冠無才無能の極致であるがゆえ。


私は人間の全てを侮蔑し憎悪し批評する。


かつて全ての人間が私に対してそうであったように。


私の全てを否定し嘲笑い踏みにじり忌み嫌った人々。


私自身の内側から沸き上がる怨の業火。


人々から私に対して吐き捨てられる悪意の泥。


内側からも。外側からも。溢れ返る悪意の全てを。


飲み下し。蓄積させ。練磨させ。


練り上げた呪い、我が怨執。


やがて全てを殺め尽くす。焼き尽くす。


救いは要らず。希望は死に絶え。


なべて万物衆生の行き着く果ては。


無明無惨の塵芥。


全ての人間に罰を。全ての命に滅びを。全ての罪に裁きを。


……………等と長々と書き連ねたが。こんなものはただの暇潰しの言葉遊びに過ぎない。別段これが何かの価値を帯びることも、人目に止まることもない。


私は英雄でも怪物でもない。ただの無個性の無能の成れの果てである。


誰にも理解されず評価されず。


ああ、けれど私にも英雄や怪物達との共通点はある。


それは孤独であることだ。異質であるがゆえだ。その共通点があるだけでも、私は嬉しいとそう感じずにはいられないのだ。


完。




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