第5話 現代における命の軽さとコンプライアンスの呪い
近頃ネットニュースやTVニュースを見ていて色々思うことがある。
コンプライアンス。この言葉を嫌というほど耳にする。法令遵守。
成る程。モラル。道徳。倫理と法に基づき命を大事にし人権を守る。大層耳障りの良い綺麗事である。
だが実際のところどうだろう。SNSでは毎日のように人間同士が罵り合い貶し合い貶め合っている。悪くすればたまに人が死んだりもする。言葉で人が殺せるのが現代だ。
今の時代は何もかもが便利になり栄えたがそれに比例して人間の正しい人間性は腐れ果てた。
犯罪率は圧倒的に上昇し経済も悪化し物だけが進化して逆に人間は衰退した。
挙げ句。コンプライアンスなんて下らないルールのお陰で今は何もかもをギチギチに縛り上げて規制している。
昔は殴り合いの喧嘩なんか珍しくなかったし流血描写、アダルト描写なんてTV番組じゃ日常茶飯事のように放送されてた。先生が生徒を殴ったりなんてこともよくあった。
だが今ではどうだ。人を傷つけてはいけません。責めてはいけません。貶してはいけません。イヤラシイこともしてはいけません。
『正しく、正しく、正しく、在りましょう』。
実に馬鹿げた話だ。つまらない。下らない。
正しくあることなど、そもそも人間には不可能なのだから。
色欲も。暴力も。批判も。堕落も。否定も。差別も。略奪も。策謀も。偽善も。打算も。虚偽も。
全部。
全部全部。
全部全部全部。
ありのままの美しくも醜い人間の本質だろうに。
今更何もかもを押さえつけ抑制したところで。人間の欲望も悪意も。止められるはずがないのに。
誰も彼もが真実から。自分の本当の姿から。願いから。目を逸らして。
その醜く歪んだ素顔を。
綺麗に飾り立てた仮面で覆い隠している。
これが現世の、現代人の有り様だ。
並べ立てる言葉には何一つ誠実性も、真実性もなく虚構にして酷薄、愚劣の極みである。
故に私は思う。
『善悪の別け隔てなく、全ての人間、全ての文明が跡形もなく滅び去った世界』。
これこそが。
『全てに対して平等な、あらゆる罪が清められた、争いも差別もない綺麗な美しい世界』
『唯一無二にして絶対、究極の恒久平和』
であるのだと…。
…………等とほざいたものの。どれだけ醜く腐れ果て朽果てようが世界は廻る。廻り続ける。無数の犠牲と負債が染み込んだ血みどろの脂。
それを原動力に世界の歯車と滑車は廻り続けやがてはいずれ誰も彼もが同じ地獄に行き着くのだろう。
芥川龍之介曰く。『人生とは地獄より地獄的である』。言い得て妙だがまさに現代の有り様そのものだ。実に筋が通っている。
私のこの陳腐な下らない戯曲は誰に届くこともない。
観客はおらずスポットライトが当たることもなく、カーテンコールが鳴ることもない。
真っ暗闇の一人舞台で、私という陰惨で不出来なピエロは今日も人知れず世界の終末を夢見て戯曲を踊るのだ。
完。
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