第2話 デザイナーチャイルドは人間ガチャであるのか?
何処かの誰かが言った。『人生はクソゲー』である、と。
歩いてるだけで腹は減るわスタミナは消費するわ頼んでもいない、待ち望んでもいないクソみたいなイベントが次から次へと舞い込んでくる。残機が増えることもなく運が悪ければいきなりアホみたいな理由やとばっちりで呆気なくゲームオーバー、平たく言うと普通に死ぬ。
かといって歩き回ってもアイテムやお金が手に入るわけでもステータスや装備品がグレードアップするわけでもない。ギルドもなければレイドバトルもなく倒すべき魔王も心踊る素晴らしい物語も素晴らしいパーティーも存在しない。
生まれた瞬間から環境や血筋、見た目や身体能力によりある程度道筋が決められてしまっている、悲しいかなそれが人生だ。
凡人の努力や成果が実を結ぶ等ということもない。殆ど無い。夢や選択肢や可能性は無限に産み出せるが辿り着ける未来も選べる現実も極めて選べるルートは少なく限られている。そこが勝ち組と負け組のいわば分岐点だ。
だがどうだろう。ゲームで言うならいきなりステータスや装備品が最高ランクまで引き上げられた状態で冒険を始められるとしたら。面白味には欠けるかもしれない。ゲームであるなら。だがこれがゲームではなく『リアル』。現実として生まれついて勝ち組であることが約束されているとしたら?最高だと思わないだろうか?少なくとも私は思う。今回はそんな風な例え話だ。
『デザイナーチャイルド』『デザイナーベビー』という単語を貴方はご存知であろうか。
一人辺りの作成に掛かる初期費用はおよそ一万。たった一万で作れる人間。
もちろん、この人間はただの人間では無い。予め科学的に細胞や作りがデザインされた人間なのだ。
例えば、頭脳はシャーロックホームズやアインシュタイン並み、身体能力はウサイン・ボルトや吉田沙保里級、見た目はハリウッドスターやグラビアアイドルのような人間をある程度設定通りに弄くれて思い通りに作れてしまう、といった具合に。
ずば抜けた知能、けた違いの身体能力、加えて誰もが羨み憧れる美しく華やかな容姿。髪の色から瞳の色に至るまで全てを自由自在にデザイン出来るとしたらどうだろう?もし自分がそうであったならばどれ程華やかで素晴らしい人生を送れただろうか、そう思わずにはいられない。
誰に頼ることもなく、誰の助けも必要ともせず、常に勝ち続け『完成された人間』として、勝者として堂々と人々の上に君臨し続ける。私は憧れる。そう在りたいとすらいつも思っている。
ちなみにこのデザイナーチャイルド、世界中でもう何年も前から立派なサービスとして提供されている。
かつてクローン技術は生命に対する冒涜であり神の領域を侵す許されざる忌まわしき技術であると言われていた。
しかし結局、人間はそれすらも最終的に都合よく正当化しクローン技術を使うまでに至った。更に其処から飛躍しゼロから人工的に『最初から完成された天才』を安価で大量生産、大量出荷出来る技術にまで着手した。
しかもそれは人類繁栄の為等ではない、人間の欲にまみれたビジネスの手段として用いられている。現在までで世界中で既に50万人以上の人間が既にこのサービスを利用したというか話もある。人工的に産み出された天才。人の姿形をした怪物が50万人以上世に解き放たれているのだ。
一万で最初から完成された人間が産み出され売り買いされている。これだけでも十分すぎるほど醜くゾッとする話ではあるのだが、私が語りたい本題はそんなことではない。寧ろこの後こそが重要であるのだ。
一万で最初から完成された人間を生産できるのであるならば、『平凡な家庭、平凡な血筋、平凡な親から産み出され、最初から完成されてなどいない、ただの普通の、取るに足らない一般人の命は果たして幾らになるのか』?これこそが私が最も語りたい主題である。
人間の命の価値は所詮能力の優劣で決められてしまうものだ。残念ながら夢でも希望でも愛でもない。如何に個としての能力値が高いか、如何に経済に利益をもたらす存在になるか、そこに尽きる。であればこそ全てにおいておよそ限りなく完璧に近いデザイナーチャイルドはまさに人間の究極系。完成形であるとすら言えるだろう。
そんなデザイナーチャイルドが一体辺り一万で売り買いされている環境で、全てが平均的な普通の人間の命は果たして幾らだろう?10円か100円程度だろうか。
大量生産された人の姿形をした怪物が産み出される世界で、ただの普通の人間は生きていて果たして価値などあるのだろうか?其処を私は問いたい。人間の価値を問わねばならない。
デザイナーチャイルドはいわば『人間ガチャ』である。システムをソシャゲ風に例えるならば下記の通りである。
『料金は一回一万』。
『外れくじはほぼほぼ無しで必ず最高レアリティの商品が当たる最低保証が確定している』。
『パラメーターやステータスは予め自分好みにカスタマイズ可能』。
『生まれてくる人間は紛れもない人の姿形をした怪物である』。
人間が課金して完成された人間を買う。
嗚呼。これが人の夢と理想と願いの果ての末路であるならば、これほど醜悪で救いようの無い悪夢はないだろう。
そして私は何より心の底から憎む。嫌悪する。侮蔑する。絶望する。
人間の果てることの無い醜い欲望を。
最初から完成された人間として産み出されるデザイナーチャイルドの存在そのものを。
私とて好き好んで失敗作として産み落とされたわけではない。
むしろ何故私がデザイナーチャイルドでなかったのか。私がデザイナーチャイルドであったならもっと素晴らしい人生を歩めたはずであったのに。
それは最早永遠に叶わず、私は惨めで無様で醜い自分自身の存在と向き合い生きていかねばならない。そこには夢も希望も愛も理想もない。
だがこれが、このどうしようもなくクソッタレで反吐が出そうなくらい不出来で不愉快で不完全な世界の真実。真理だ。
生憎スーパーヒーローも怪獣も侵略者もサンタクロースも恐怖の大王もイエス様すらも最初から何処にもいやしない。
シビアで世知辛くて理不尽で不毛なバッドエンドが満遍なく絨毯のように敷き詰められた虹色の地獄。果ての無い汚れ腐ったディストピア。これこそがどうしようもない現実だと。
私はまるで苦虫を噛み潰したような形容しがたい笑みを浮かべて、また下らない妄想を脳内で組み立てるのだった。
完。
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