第3話 異夜・1

 ────闇が見えたと思ったら、木製の扉が開いて中へ入っていったッス。


 前回まえまわり受け身をとって素早く立ち上がると、教会のような場所……。


 おや、見覚えがあるッスね。


「あら、お客様ねイブ」

「そうね、ヤエ」


 そこにはゴスロリ衣装のイブさんヤエさんがいたッス。


「え、館?」


 しがみついていた文姫ふみひめさんが私から離れ見回しながら宙を飛んで、ジュマは床に足をつけたッス。


 一週間くらい前、右手にあるハローの試射に訪れて以来ッスね。


「ずいぶんお疲れのようね」

「追われていたのかしら?」


「そのとおりッス」


 無表情で見つめる、イブさんヤエさん。


「わたしが事情を説明するわ」


 息が荒い私にかわって、文姫さんがここまでのいきさつを説明してくれたッス。


「────なるほど、あなたから異なる者の魔力を感じるのはそういう事なのね」

「では、その魔力を取り除かなくてはならないわ」


「ええ、できればそうしたいッスが……」


 高介こうすけ氏の魔力、他の探理官たんりかんさんにも見えるようにマーキングの意思が込められているんで、私の生体波動にも絡んでるッス。


 簡単にいえば、一定期間、私の生命をもとに高介氏の魔力が残るってわけッス。


 いつかは完全に消えるッスが、そのいつかまで待ってられないんで、少々、強引でもやるしかないッス。


秘女ひめなら大丈夫よね、イブ」

「そうね、ヤエ」


 お互い顔を見合わせて確認するイブさんヤエさん。


「ではこちらへどうぞ」

神霊しんれいさま、充魔じゅうまさまはここでお待ちを」


「分かったわ」


「ジュマ!」


 文姫さんジュマが了承し、私はイブさんヤエさんに連れられて奥の扉へ向かったッス。


 おごそかなかんじの大きな木製の扉。


「さあ、中へ」


 お二人が揃ってノブを握り扉を開けると、中から白い光が放たれ私の全身を包んだッス。


 まぶしくて一瞬、目を閉じたッスが、その間に私は別の場所へ転移したみたいッスね。


 ────そこは、一言でいうと夜の庭。


 空も周囲も暗く余計なものが見えない感じなんッスが、足元は大地で芝生が生えているッス。


 そして、もっと不思議なのは私の目の前にある桜の大樹。


 高さ十七メートルはありそうなその桜は、季節を無視したかのように咲き乱れ、幾つもの花びらが舞っているッス。


 バタンと扉が閉まる音と同時に、イブさんヤエさんが私を挟むように並ぶ。


「こちらが当館の主です」

「主が、あなたにつけられた魔力を取り除きます」


「なるほど。それじゃよろしくお願いするッス」


 そう言いながら、私は主の桜さんに一礼したッス。


 乱れ咲くことができるのはその強い力。


 日本さえも簡単に支配できそうな力を持つ桜さんなら、ッスね。


 ────舞い散る桜の花びらが私の方へ流れてくる。


 桜吹雪というほどでもないッスが、ほどよい風にのせられた花びらたちが私の身体に触れて高介氏の魔力を取り除いていくッス。


 花びらは温かく、とても心地よいッス……。


「お願いします」

「頼んだよ」

「頼む」

「ガーッハハハ」

「よろしくでッス」

「お願いね」

「報酬はいづれな」


「!?」


 な、なんッスかいまの。


 なんか声が聞こえたッスけど……。


「我が主は一つの身体ではないわ」

「一人の女性と七柱の神が融合しているの」


「……」


「あなたにメッセージがあったみたいね」

「あなたの目標が、主の思いでもある」


 気がつくと、花びらは再び周囲に向かって舞い、私につけられた高介氏の魔力はなくなっていたッス。


「さあ、戻りましょう」

「神霊と充魔が待っているわ」


 イブさんヤエさんにうながされて、私は扉の方へと向き直る。


 芝生の上にポツンとある木製扉を、お二人が同時に開け、白い光が放たれる。


 それに包まれて私は転移し、この桜主さくらあるじさんがいる場所から、文姫さんとジュマがエントランスに戻る。


 桜────七ツ木なつき


 ふとそんな名前が頭に浮かんだッス。

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