第2話 逃走
立ち尽くす私。
そこには中肉中背でスーツ姿をした四十代くらいの男性がいたッス。
マスクをつけているッスが、やや面長の顔にオールバック気味の髪型。
忘れはしないッス。
────二年前、力に目覚めた私に敵意まる出しでスピールを撃った
でもここは
精神体の彼に私は見えないはず。
なのに声をかけられたッス。
「その顔、どこかで見たことが……」
鋭い目つきでロックグラスの先にある緑の瞳をジッと見てるッス。
すると高介氏の目が細くなって紫になり、背後から異様なオーラが出てきたッス。
「貴様……、あの時の
思い出すのと同時に、左脇のホルスターからスピールを取り出す高介氏!
瞬間、私からタタカイノキオクが発動し身体が反応する────。
スピールを向けようと伸ばした高介氏の右手を引き寄せつつ、一歩踏み込んで
その時、高介氏の膝を曲げるように誘導。
両膝を床につけ、そのまま頬を壁に押しつける形で高介氏を拘束したッス。
叩きつけた反動でスピールはその手から離れたッス。
無様な格好ッスが、いきなり撃とうとしたあなたが悪いんッスよ。
「彩、大丈夫?」
「ジュマ!」
「私は大丈夫ッス」
振り払ったかんじになった
「ぐ……、敵だ! 拘束しろ!」
大きな声で仲間を呼ぶ高介氏。
勢い良くドアが開いて、中から六人くらいの探理官さんが現れたッス。
「次長! て、え?」
私が見えてないんで探理官さんたち、壁にくっつく高介氏に驚いているッスね。
とはいえ、そこはプロ。
皆さん素早くスピールを取り出し、臨戦態勢に入ったッス。
「次長、魔法の攻撃ですか?」
「敵の位置、分かります?」
高介氏に状況を尋ねつつスピールを構える人、周囲を警戒する人、局内に非常事態を連絡する人。
見事な連携ッス。
「……」
無言のまま、目で訴える高介氏。
すると高介氏、接触している私に自分の魔力を流し込んできたッス!
「そこか!」
「くっ……」
私は高介氏を仲間に向かって投げつけ、階段へ向かって駆け出す。
「逃げるッスよ!」
「ジュマ!」
文姫さんは頷くと空中飛行で、ジュマは犬型らしく四本の足で走って、私の後について来るッス。
高介氏の魔力が私の身体を覆っているんで能力者限定ッスが、青白いシルエットのかんじで私を見ることができるッス。
「緊急閉鎖! やつを逃がすな!」
背中から聞こえる高介氏の声。
キーンキーンとあちこちで結界が張られる気配。
警備員も含め、能力をもった人たちが私を取り押さえようと集まる靴音も聞こえるッス。
こうなれば強行突破しかないッス!
ジュマの空間倉庫から金聖魔法が装填されているスピール、ハローを取り出し、線射に切り替える。
予想どおり、一階の階段にある魔導セキュリティが結界を展開。
黒い半透明の壁になっているッス。
私はその壁に向かって、✖の形になるよう、引き金を引いて切れ目をつくり、強射に切り替えその中心を撃ったッス。
バーンとガラスを割ったように結界が砕け散り、そのまま走り抜けていくッス。
当然、外への出入り口も結界が張られているッスが、同じようにして突破ッス。
ハローで斬りつけて撃ち砕き、体当たりするように飛び込む!
結界とガラス戸の破片とともに外へ出た私たち。
私は前回り受け身で体勢を整え、立ったッスが────ん?
桜の花びらが一枚、宙を舞っているッス……。
「彩!」
「ジュマ!」
気づいた文姫さんやジュマが
「そっちに行けばいいんッスね」
なんかよく分からないッスけど、桜の花びらを追うッス。
自動車四十台はらくに停められる広い駐車場のど真ん中を一直線に突っ切っていく。
「追っ手よ」
振り向くと出入口から三十歳くらいのスーツ姿をしたイケメン三人が走ってくるッス。
スタンスタンスタンスタンスタンスタン。
ヤバっ。
軽快かつ異常な速さで私に追いついてくる!
「式神だわ!」
文姫さんのお墨付きを頂いて、私はハローを向け引き金を引いたッス。
被弾した声も上げず金色の炎に包まれ転倒していくイケメンたち。
強射で撃ったッスが、魔法への
全身の炎がみるみる小さくなっていくッス。
でもいまは倒せるかが問題じゃないッス。
逃げ切ることが大事ッス!
桜の花びらは片側二車線の道路を越えていったッス。
「一気にいくッスよ!」
「ジュマ!」
「了解」
文姫さんとジュマが私にしがみつくと、私は足に魔力を込めて大ジャンプ!
およそ十五メートルの距離とトラックなんかにも当たらない高さで跳び越えたッス。
そんでザザーっと、スライディングのような感じで着地。
勢いをなくすのにけっこう滑ったッス。
と、目の前にイワリザクラ。
岩の割れ目から成長したという樹齢三百年を超える大きな桜。
いまは夏なんで花は咲いていないッスが────。
!?
一瞬、私が借りて使った凶悪顔のウサギアクセサリーがイワリザクラに見えたッス。
来い……?
「さっきの式神がくるわ!」
「ジュマ!」
迷ってられないッスね。
「イワリザクラに飛び込むッスよ!」
意を決し、私たちは街を見守る桜の大樹に身をゆだねたッス。
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