第3話 戦夜
「これは……」
それを見て思わず呟く私。
夜の九時くらい。
私は
街自体はいつもどおり。
大通りには背広姿の大人たちを中心に多くの人が行きかっているッスが、何とも不思議な感じの
道路を挟んだ向こう側の歩道。
それだけでも昨日のオオカミ型夜獣さんと違うッスが、一番の特徴は頭が無いことッスね。
頭があったら身長は百八十センチくらいはあると思うッス。
一体だけとはいえ注目度抜群の格好ッスが、みなさん、見えていないんでスルーしてるッス。
「ジュマ、いままでこんな夜獣さん、いたッスか?」
私は足元にいる相棒に、確認のため訊いてみたッス。
「ジュ、ジュマ―?」
首を
なるほど、無かったみたいッスね。
ニュースで、これは世界夜に影響が出るかもと思っていたッスが、予想どおりッス。
これは新型ウィルスによる現実の人々から生まれた夜獣さんだと考えられるッス。
あるのは分かっているんで夜獣として恐怖が具現化されるが、未知ゆえどんな顔か分からないし頭の形も不明。
だから頭が無い、て感じじゃないッスかね。
タキシードなのは、正装ってことで一般的にあるのではなく、特別なものという認識だからだと思うッス。
「────とはいえ、やることは一緒ッスけどね。ジュマ」
「ジュマ!」
声をかけると、私の右手に愛用のコルトパイソン357マグナム・スピールカスタムが現れたッス。
ジュマの空間倉庫。
これのおかげで荷物を持ち歩くことがなくて便利ッス。
装填されている六個の魔法も同じ、あとは必要に応じて変えればいいッス。
「!」
見ると新しい夜獣さん、向かってくる母子に右手を突き出そうとしてるッス!
「だめッス!」
叫びながら反射的に引き金を引いた私。
女神が詩を詠むような銃声を響かせ、
着点の威力と金色の炎が悪意を与えるそれを吹き飛ばし、燃やし尽くしたッス。
事務系の仕事をしている風の三十代くらいの母親と五歳くらいの男の子が、夜獣さんに気づくことなく、笑顔でその横を通り過ぎていく。
そして夜獣さん。
よくも邪魔したなと言わんばかりに
「くっ!」
放たれる黒い霧のような粒の
スプレーみたいに飛ぶそれは、精神体に触れればたちまち悪意に染まり、現実世界の本人に影響を及ぼすッス。
浴びれば私もただではすまないッス。
私は横っ飛びで金聖魔法を撃ち、その霧を焼き払う。
一気に燃え広がって焼き尽くすんで、その点はいいッスね。
対処できるッス。
ただ、それを見て夜獣さん、これはどうだという感じで、次々に放ってきたッス!
ここは大通り。
私の背後には普通に人が通っていくッス。
そして、私と夜獣さんの間には一方通行の車道があって、自動車が走っているッス。
下手に前に出れば自動車に
つまり、このままでは防戦一方で
────こうなれば。
私はタイミングを見計らって金聖魔法から分身魔法に切りかえ、銃口を頭の右側につけて引き金を引いたッス。
自殺のような格好ッスが違うッスよ。
魔法で私の身体から弾き出されるようにして、もう一人の私が姿を現したッス。
そのもう一人の私、分身にパイソンを投げ渡して霧の迎撃を任せ、本体たる私が攻めに出るッス。
「ジュマ! 頼むッス」
ジュマが
簡単にいえば、呪文が刻印された魔法金属製の
それを口にくわえて、夜獣さんに飛び込むッス!
魔力をこめた跳躍で歩道の柵を超え、車道を超えて、六メートルの距離を
夜獣さんの背後に回ったッス。
背中合わせから振り向きざまに、夜獣さんの背中にキス。
と言っても魔力を込めた効果筒越しのキスッスけどね。
これはパイソンに装填されているのと同じ、金聖魔法の効果筒。
魔法が発動し、夜獣さんの身体から黄金の炎が噴きあがる。
勢いよく夜空へと揺らめく炎が夜獣さんの存在力を奪っていくッス。
私はバックステップで離れると、夜獣さん、やりやがったな、てな感じでゆっくり振り向こうとしたッス。
でも夜獣さん、忘れてないッスか。
私はいま一人じゃないッスよ。
反対側の歩道から続けざまに三発の金聖魔法が夜獣さんにヒット。
放ったのは私の分身。
迎撃するものがなくなったんで、ストレートに夜獣さんを攻撃したッス。
ガクッと膝を落とし、そのまま炎に包まれて消えていく夜獣さん。
今回はこんな感じッスけど、次に現れるときはウィルスの分析も進んで、夜獣さんの姿も変わるかもしれないッスね。
炎とともに夜獣さんが完全に消えるのを見届けた私。
ひとまず終わりッス。
私は右手をパチンと鳴らして魔法を解くと、分身は音もなく消えていったッス。
「ジュマ!」
残ったパイソンをジュマが空間倉庫に収納すると、そのまま私の所へ駆け寄ってきたッス。
まあ、来る途中、自動車にビビッて一歩引いてからの猛ダッシュだったのはご愛敬ッスね。
「ジュマ!」
到着しました、という風に敬礼のポーズをするジュマ。
「ご苦労様ッス」
本来であればここで居住空間へ帰るところッスが、今夜はちょっとそんな気にならないッスね。
────母子を見たせいかもしれないッスが。
「ジュマ、パトロールでもないッスが、少し街を歩くッスよ」
「ジュマ!」
元気よく答えるジュマをみて微笑む私。
そして、何気なく月を見上げ、ふと思い出したッス。
家族を……。
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