第2話 続、少年はヒーローと出会う。
僕は物が大きく爆ぜる音とその衝撃で目が覚めた。
慌てて周囲を見渡すも代り映えのない僕の部屋で、夢だったのでは?と一息つく。が、どうしようもない不安に駆られて、僕は階段を降り1階へ向かった。
廊下にはリビングの光が漏れており、ようやく安心した僕はついでに水を飲もうとリビングに入る。
と
そこに立つのは1人の青白の少女だけだった。訂正。空色の髪に瞳。白い肌に服装も聖職者のように白が基調のローブ、そんな姿を少女だった。
しかし、周囲にあるのは赤と黒。
父にはその豊満だった腹部がなかった。
胸部から
飼い犬のゲージは、ひしゃげていた。
壁の一部が削れ、庭側の壁はなくなっている。
彼らごと周囲を染める黒は、先日スーパーで見た色に似ていた。
少女はこちらを向く。
「良かった、まだ生きている方がいたんですね。大丈夫ですか?」
――思考が加速する。
なるほど、少女はヒーローで僕の両親の仇を取ってくれたのだろう。心配や罪悪感、悲嘆するような目を僕へと向ける。
壊れた家。死んだ家族。
なるほど、これは確かに大丈夫ではない。
――思考が加速する。
だが、それは見ず知らずの彼女に関係があるのだろうか。
なぜ彼女が罪悪感を抱く必要がある。僕らは彼女に守られなければいけない、庇護下になければならない存在なのだろうか。
なぜ彼女が悲しむ。両親のことなど何も知らないのに、失ったものの大きさを知らないくせに。
――思考が加速する。
『アンクロート』が現れたら逃げる。ヒーローが殺す。それが社会のルールだ。
一般人に出来るのは、いかに効率的に人を逃がし、迅速にヒーローをぶつけるか。それだけだ。
――思考が加速し、心の中に燻ぶっていた熱が燃え上がる。
ヒーローは当たり前のように助けようとする。まるで助けなきゃ生きていけないのだと見下すように。
【いつから
「どこか痛むの?」
気づけば少女は僕の目の前までやってきており、その右手を僕の頬へ当てようとしていた。
僕はその手首を掴み、目を真っすぐと睨みつける。彼女の表情は驚きへと変わっており、それが殊更愉快だった。
一度唾を呑み込み、口角を上げて笑みを作る。
「あんたこそ大丈夫か?なんだ辛そうな顔をして、どこか痛むのか?」
声は震えていないだろうか。笑みはちゃんと作れているだろうか。
どうか下には気付かないでほしい。震える足を。力いっぱい握る拳を。
ただの虚勢。しょうもないかもしれない意地。
彼女は更に驚いたあと、困惑している。
「この後の処理は僕が警察……いや、なにかあるんだろう?勝手にやればいい。僕は眠いので自室へ戻る。必要のないかぎり、2階にはあがるなよ」
僕は彼女の手首を放し、キッチンで父が毎日飲んでいたペットボトル水をレジ袋に入れ、自室へ持ち出そうとする。
と、僕は仇を討ってくれたことに感謝すべきでは?と思い至り、
「あー、なんというか、その。仇を取ってくれたことには感謝している……」
リビングから廊下に出るときに一つ、なんとも閉まらない捨てセリフを吐く。やっぱり言わなければよかった。どのセリフを?
部屋に戻ってベットへと倒れ込んだ僕は、しかしその夜、怒りと悲しみと嬉しさと悔しさと、その他諸々の感情が荒らぶって、吐き気はあれど眠気など一切なかった。
ヒーロー撲滅 トースター @araisemihito
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