ヒーロー撲滅
トースター
第1話 少年はヒーローと出会う。
園児のとき、僕はアニメでヒーローと出会った。
小学生のとき、僕はヒーローが実際にいることを知り、自分もなれるものだと思っていた。
中学生になった。ヒーローになれないという事実から目を反らし、その時が来れば秘められた力が覚醒するものだと切望した。
そんな僕こと
――――――Return――――――
卒業式後、無事に高校入試に受かっていた僕は最寄りのスーパーではなく、自転車で30分ほどかかる場所のスーパーに行こうと思った。後から思えば、わざわざ行く必要性は皆無なのだが、単純に浮かれていた僕はアグレッシブに自転車を漕いだ。
商品や品の並べ方、売り方が違っていて、なんとなく特別なことをしている気分に酔っていると、悲鳴のようなものが聞こえ、その後、何かが倒れる音がした。
皆が逃げ惑う中、「何があったのだろう」と、まるで危機感を持っていなかった僕は、そしてソイツと出くわした。
初め、黒い樹木だと思った。しかし、そのような生易しいものではない。樹木の枝と思ったものは首だった。人の顎のようなものが複数、体から枝分かれて生えていた。「目」や「鼻」、「耳」という索敵に必要な感覚器官はなさそうに思えるが、果たして、それを人間の尺度で適用させていいものだろうか。
なんでこんなところにこんなものが?
そのとき、僕の頭に浮かんだ言葉だった。混じりっけなし、純度100%の疑問。ソイツを正しく理解することはなく、ただ樹木があるだけのと同じような反応。
ソイツの顎のひとつがこちらへ伸びてきてようやく、ソイツが生物で、私を食べようとしているのだと気が付いた。脳は対処法と探そうとしているのか、現実逃避しようとしているのか、走馬灯を見ようと判断した。
と
走馬灯より前に、ヒーローの背中が僕の視界を覆う。その背中を認識したときには、すでに化け物はヒーローに切り殺されていた。
「安心しろ、俺が来たからにはもう大丈夫だ」
そのヒーローは20代ぐらいだろうか。男は背中の鞘に大剣を納めると、懐からスマホを取り出してどこかへ連絡をとりだした。
その姿を見てやっと、世界には僕と化け物とヒーローしか登場人物がいないのだという錯覚に気付いた。辺りには逃げ遅れてしまった人々の安堵を浮かべた表情がある。
連絡が終わったらしいヒーローが僕のほう向いた。その眼にはハッキリと彼という人格が映し出されていた。自信、誠実、純粋、正義……
「君、教えてくれると助かるのだが、館内で避難指示や係の誘導があっただろうか?」
問われて、そういえばそのようなものはなかったと気が付いた。人を避難誘導は店の義務のはずだ。しかし先ほどまで視野狭窄に陥っていたんだ。聞き流したのかもしれない。
僕は正直に答えると、彼は他の人にも同じ質問を投げにいった。
――――――Now――――――
帰り道にもなると、先程までの非日常感は完全に抜け去り、思考も回りだす。
直感的に化け物と言っていたが、あれは『アンクロート』と呼ばれるモノだ。あれは前触れもなく現れたかと思うと、周囲のものを壊す。死ぬまで壊し続ける。だが、この世界とは別の原理の
現れたら逃げる。ヒーローが助ける。それが社会のルールだ。
一般人に出来るのは、いかに効率的に人を逃がし、迅速にヒーローをぶつけるか。それだけだ。
ずっと憧れていたヒーロー。それを目にしたときの熱がまだ残っている。不思議と高揚感はなかった。
どころか何かを良くないことを考えようとしている自分を非難していた。
帰宅。決して遅い時間ではないが、既に両親はごちそうを作って待っており、僕の高校合格と中学卒業のお祝いをしてくれた。
外食よりもおいしいなんてことは決してなかったが、僕の好きなものばかりが出て嬉しかったとここの記しておく。
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