Cheerless
金曜日の勉強会は酷い目にあった、と僕は自分のことを棚に上げてぼやいた。
結城くんの家だと瑞希は集中出来ないから喫茶店で、という相川の弁で、土曜日の勉強会は下の店内で開催された。
今日は日曜日。お客さんが入れ代わり立ち代わり訪れるなか長時間勉強をし続けるのはちょっと、ということで今日は自主勉強になった。
瑞希と一緒に勉強でも、とも思ったけれど、おとといの一件を思い出すと若干考えるところがある。
今日は1人で勉強をしよう、というのがメッセージのやり取りで決まった。
のだが。
いざ机に座ってみても、妙に落ち着かない。
参考書とにらめっこしたまま、そのままシャープペンを置いてしまった。
こういう時は、なにも考えずに取り組める暗記系の方が良いのかもしれないと、社会系の科目に取り組んでもイマイチ。
とうとうテキストを放り投げて椅子にもたれかかってしまった。
瑞希は今、何をしてるのかな。
そう呟いて、金曜日の事件を思い出した。
自分のしでかした事を思い出して頭を抱えつつも、自分の口元は緩む。
自分が気色の悪い笑みを浮かべていること、そして僕の少ない集中力はとっくに切れていることに気がついた。
非常によろしくない。どうにかしなくては。
…たまには少し散歩がてら、普段行かないところで勉強してみるのもいいかもしれない。
そう思い立って、図書館で勉強することにした。
時間は11時半。朝、母親が作ってくれたお弁当とテキストをバッグに詰めて、僕は家を出た。
ーーー
むう、と小さな唸り声を上げて、私は机に突っ伏した。
来週の頭にはテストが待ち受けているというのに、私の勉強は遅遅として進まなかった。
顔をノートを見返すと、証明問題の途中でペンは止まっていた。
何度参考書と問題を見返しても分からない。
ここは明日沙羅に教えてもらうことにしようと思って、私はノートを閉じて休憩に入ることにした。
葵成分が致命的に不足している。
事の発端は一昨日のことで、葵にいっぱい甘えているところを沙羅と内村に見られてしまったのが始まりだ。
あの時の沙羅は本当にこわかった。頭にツノが生えているように見えたのは後にも先にもあれっきりにしたい。
あんな後だったからか、葵にメッセージを送ろうかなとスマートフォンを開いても、なんとなく手が進まないのである。
昨日のやり取りで今日は別々に勉強しよう、と決まったのも拍車を掛けているかもしれない。
ちょっとしょんぼりした気持ちを紛らわそうと、私はベランダに出た。
下を向くと、男の人がてくてくと歩いている。その歩き方に、私は既視感を覚えた。
あれは、もしかすると葵かもしれないと。
どこに行くのだろう。
…図書館、かな。
もうこの時点で家の前を通っていた人が他人の空似かもしれないなんて考えは吹き飛んで、そそくさと勉強用具をカバンに詰めて、ドアを開ける。
靴を履くところで、お母さんからご飯よ、と呼び出しがかかった。お腹がぐうと鳴った。
また暴走しかけていることに、そこで気がついた。
冷や水を浴びせられたような気分になって、私は靴を脱いでとぼとぼとリビングに向かう。
ドアを開けると、微笑むお母さん。
「ちょっとご飯食べて落ち着いて、そうしたら行ってらっしゃいな」
そんな声が、落ち込んだ私の心を落ち着かせてくれた気がした。
ーーー
図書館には、およそ20分程で到着した。
道の途中で瑞希の家を横切ることになったことには若干驚きつつも、どうにか誘惑に打ち勝ち無事たどり着くことができた。一安心である。
時間は12時前といったところ。いい時間なので、先にお昼を食べてから勉強をしよう。
とはいったものの、図書館は原則飲食禁止のイメージがある。
きょろきょろと周りを見渡しても、食事を取っている人は誰もいない。
参ったな、と思わず愚痴がこぼれる。
途方に暮れていると、どうなさいましたか?という声がかけられた。
「お弁当とか、食べていい場所、ありますか?」
「それでしたら、向かって右手にございますカフェテリアをご利用ください。ごゆっくりどうぞ」
親切な人だ。僕はその人にお礼を伝えて、カフェテリアへと向かった。
食事時だからか、カフェテリアには結構な人が座っていた。
どうにか空いている席を見つけて、僕はお弁当の包みを開けた。
レタスの上にハンバーグ、そして目玉焼き。
今日はロコモコ弁当のようだ。
内心で小躍りしつつ、無言で箸を進めていく。
半分くらいまで食べ終えたところで、そういえば1人で食事を取るのはえらい久しぶりだと言うことに気がついた。
とたんに、美味しいはずのお弁当のはずなのにどこか味気ないように感じる。
瑞希に、会いたい。
ひどく女々しいのは自覚した上で、それでも会いたいと思う。
不意に、スマートフォンが震えた。
Mizuki:まえ
ばっと前を向いたけれど、対面にある椅子に人は座っていなかった。
すごい虚脱感に襲われて、またうつむくと、急に視界が暗くなった。
と同時に、聞こえてくる「だーれだ」という声。
うしろに手を伸ばして、僕は愛しい人の名前を呼んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます