Dating
うずめていたコートから顔を出した瑞希のの目は真っ赤で、とても恥ずかしそうに、僕の視線から逃れようとぱたぱたと動いていた。
やがて瑞希の顔が耳元まで近づいて、
「おんなのこの、なきがお、みちゃだめ」
なんて言葉をいただいてしまった。
囁くように絞り出された声が僕の脳を支配して蕩かしていく。
ずるい、という感情を飲み込んで、僕は瑞希の身体を180°回転させて、その背中に抱きついた。
「これで、いいかな」
こくりと頷く瑞希。耳元が赤くなっているのは目をつぶることにした。
「そのままでいいから、少し、話を聞いてくれないかな」
また、こっくり。同意の意を示す瑞希。
僕はふ、と息を吐き、そしてまた、息を吸った。
「好きだよ、瑞希。僕と、付き合って」
一瞬の空白。身体が震えそうになるのを、足に力をこめて必死に隠す。
するりと、抱きしめていたものが抜けていった。
暖かい感触が抜けていった。急に身体の力が抜けていく感覚に襲われた。
狭まっていく視界のなか、瑞希がこっちを向いているのを捉えた。
その虚脱感を、静かな声で、それでもはっきりとした声が、止めた。
「…はい。よろこんで」
相変わらず狭い視界の中で、小さく微笑んでいる女の子。
「葵の、彼女に、してください」
狭まった視界が再び開いていく。幸福感がじんわりと湧き上がって、やがてそれは歓喜に変わっていく。
全身の血が駆け巡っていく感触というものは、きっとこういうことを言うのだろうと、少し遠くで感じた。
震える手で、三度瑞希を抱きしめる。
ほんの数分にも満たないやり取りだったのにも関わらず、そのぬくもりを久しぶりと感じる。
「あたたかい、ね」
「そう、だね。とても、あたたかい…」
喜びに浸るように、僕は彼女の身体を抱きしめた。
座ろう、と瑞希の意見によりのろのろとベンチに腰掛けると、僕の太ももの上に彼女は横座りになった。
「もう、時間がきちゃうから、すこしだけ」
そんないじらしい言葉と共に、僕の胸元に身体を預ける瑞希。
そっと抱きしめると、瑞希はその腕に抱きついてきた。
「もっと、こうしてたい」
と、とてもうれしい事を言ってくれる瑞希。
「そりゃあもういつでも。喜んで」
「ん、くるしゅうない」
僕はくすりと笑って、時間がきてしまうまで瑞希とくっついていたのだった。
-1. Let's talk about old times -了-
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます