-1. Let's talk about old times
Encounter
僕こと結城葵が彼女、一ノ瀬瑞希と知り合ったのはおよそ半年前、去年のクリスマス・イヴの出来事である。
ーーー
「葵ー、放課後時間あるかー?」
雅也が突然寝言を抜かしはじめた。
「暇だけど…今日はイヴだろ。彼女はどうしたの」
その質問はどうやら織り込み済みだったようで、雅也はニヤリと笑った。
「イヴだからだよ。本番はサシだ。もちろん今日も遊ぶが、Wデートというものをしようと思う!」
などととち狂った事をほざいている。相手がいない僕への当てつけだろうか。思わず冷たい視線を投げてしまった。
僕の白い目を向けられても雅也はブレない。
「まあ落ち着けよ葵」
こっちの台詞だよ。
「沙羅がよ、今日は友達を連れて来たいって言うんだ。だから、一緒に、ってな」
ってな、と言われても。
「僕じゃなくても良いでしょうに」
そうぼやくと、雅也は少し困った顔をして、声を潜めた。
「他の奴らさ、今日は日が日だから結構ガッツいてんのよ。ないとは思うが、無理矢理…なんてのも寝覚めが悪い。その点、お前ならそこら辺弁えてるだろうし、信用できる。キチンと段階を踏むだろうしな。だから頼むよ、色男」
と、半ば押し切られるような形で、クリスマスに予定ができたのだった。
1度帰宅して、着替えたりしてから待ち合わせ場所に向かうと、雅也の彼女が既に着いていた。
「久しぶりね、結城くん。あの馬鹿に付き合ってもらってごめんね」
「久しぶり、相川。気にしないで。なんであれ承諾したのは僕だから。申し訳ないけど、ご一緒させてもらうよ」
雅也の彼女に軽く挨拶をして、僕らは雅也ともう1人のお相手さんを待つことになった。
ほどなくして、相川がおもむろに手を振った。見ると、女の子がとことこと歩いてくる。
小柄で、とても整った顔をしている。かわいいな。
「紹介するわね。この子が瑞希。瑞希、こちらが結城くんよ」
瑞希と呼ばれた女の子が、こくり、と頭を下げる。
僕も、こくり。
「はじめまして。結城葵です。結城でも、葵でも、まあ好きに呼んじゃって。よろしく」
「一ノ瀬瑞希です。よろしく」
抑揚のない、少し冷たい声。でもその声に否定的な感情は無いような気がした。
淡白な自己紹介を済ませて、僕らは遅刻している馬鹿を待つことになった。
スマートフォンの中に入っている本を読んでもいいかなとは思ったけど、さすがに失礼か。かといって、話を振れるほど僕の話術は高くない。
こういう時、自分の引き出しの少なさに辟易とする。
無い頭を必死に振り絞って捻り出した言葉は、
「2人はいつからの知り合いなの?」
などという、とても平凡なものだった。
「ことしからの、ともだち」
意外にも、答えたのは一ノ瀬さんだった。
「困ってるところ、助けてもらった。沙羅が彼氏と付き合う相談にも乗った。なかよし」
「ちょっと瑞希!」
同じく抑揚のない声であっけらかんと答える一ノ瀬さんに対して、顔を赤らめて非難する相川。
「僕も、雅也の相談に何度か付き合ったな」
「ん。あなたと私、同士」
場の雰囲気で思わずハイタッチ。ぱん、と小気味のいい音が響いた。
案外ノリがいい。
「…同士とのお近づきのしるしに、飴ちゃんをあげよう」
バッグからごそごそと飴を取り出して、一ノ瀬さんの手のひらに乗せてみた。
「わーい」
そのまま飴を口に入れて、ころころと舌で転がしている一ノ瀬さん。もっととっつきにくいイメージが先行してしまっていたけれど、こうしてみるとどこか小動物チックで、かわいらしいその姿に僕はほっこりしてしまった。
「悪い、待たせた…って、なんかすげえ構図だな」
遅れてやってきた雅也は、目を丸くしていた。
「結城くんに瑞希が餌付けされてたのよ」
合流して早々、相川は雅也にかいつまんで説明している。
「一ノ瀬が男子に懐くのは珍しいんじゃないのか?」と雅也。懐くって失礼じゃないか?
「結城は同士」
同士ってなんだ、と雅也。説明しようとした一ノ瀬さんの口を相川は慌てて塞いだ。
むぐむぐ、ぱたぱた、と暴れる一ノ瀬さん。
まあまあと仲裁して解放された彼女は、そそくさと僕の後ろに隠れてしまった。
「よしよし、こわかったねー、一ノ瀬さん。飴ちゃんもういっこあげよう」
また飴をころころと転がす一ノ瀬さん。気分はまるで孫をかわいがるおじいちゃんだ。
「仲良くなってくれて安心したよ。待たせた俺が言うのもアレだが、そろそろ行こうぜ。冬服買うの付き合ってくれよな」
雅也の鶴の一声で、僕らは歩き出した。
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