青柳(1)
「はぁー海風が涼しくてキッモチいいー」
「呉羽のソレなにけ?」
「ほたるいかソフトです」
「どこが?」
「目のクッキーも耳のクラッカーも、見るからにそうやないっすかー」
「戸破さんのソレなんすか?」
「ほたるいかバーガーやねか」
「えー、ナニ挟まっとるがですか?」
「ほたるいかのフライ?」
「美味しそう」
「そう言う下山ちゃんのソレ唐揚げけ?」
「ほたるいかの唐揚げやちゃ」
「二人とも、ここはソフトクリームやと思いますケド」
「そっおーでっすよねー!呉羽せんぱーい!」
「
「これはお肌つるすべ、深層水つべつべソフトでーす」
「何を女子ぶりおって」
「小春子絶対あとからお腹すいたって言うわ」
「でも……足湯に入りながら揚げモンはないっすわ」
「たしかに……」
「きゃーっはっはっはー」
小春子と戸破部長と下山ちゃんに新入部員の文乃ちゃんは、一年中ホタルイカが楽しめる観光施設『ホタルイカミュージアム』で、観光業研究とは名ばかりの、海洋深層水足湯を楽しんでいた。
この暑いのに足をお湯につけるなんてボクには理解できない。ただ、建物の2階テラスに設けられた足湯コーナーは、眼下に広がる大海原とパノラマブルースカイが解放感バツグンの眺望スポットだって事は理解できる。
だけど、もう一つ意味不明なコトがあると言えば……。
「ほらー、僕の深層水アイスコーヒーどうけー?」
「なんで青柳がおるんよ」
「青柳……なぜ
「女子会やよ、青柳くーん」
「青柳先輩……浮いてます」
女性諸君の言う通り、青柳が女子会に無理やり参加しているコトだ。
「なんでけよ、僕だって足湯入りたいよ」
「アンタは百橋さんと三女子君と神子沢の方を手伝うべきでしょーが」
「いや……誘われてない……」
「マジ?!むしろ忘れられてる感MAXやわ……」
「カワイソー」
声をそろえた女子たちの哀れみが、一層青柳の浅ましさ加減を助長させた。
ともあれ、現在進行中である他の男性陣の仕事というのが『滑川ふるさと龍宮まつり』という、夏祭りと花火大会が県内最大級で行われる一大イベントへの模擬店の出店準備なんだそうだ。猫にとっても人間のお祭りは、普段見られないような楽しみがあってキニナル。
さっきから足湯コーナーに横一列に座ってオシャベリを楽しむ女子部員たちは、とてもじゃないがまだまだ時間が掛かりそうだった。それぞれの白く長い脚が、湯から上がってはまた浸かるを繰り返している。
「今年も合同なんすよね?戸破さん」
「そうりゃそうや」
「えー?先輩、合同ってーなんですかぁー?」
「文乃ちゃんあのね模擬店の出店は毎年、商業実技部と調理実習部が合同で行うことで、飲食店経営を模擬的に経験するっていう目的があんがよね」下山ちゃんがキレイにまとめた。
「へぇー!おっもしろそーですー!」
「……………………」
「文乃ちゃんは……」
「売り子やろ」
「はい決定!」戸破部長が締めた。
そしてやっと終わった女子会だったけど、ずっと蚊帳の外だった青柳だけは満足してなかったみたいだだった。
「青柳ぃ、帰るよ。もう足拭いて」
「僕だけ全然この足湯に入っとらんし」
「イジけられんなよ、はいタオル」
「最近、狎鷗亭に手伝い行けてないけどマスター大丈夫かな」
「最近は息子さんがホールにいるってウチのお母さんが言ってた」
「そっか。よかった」
「あれ、青柳カバンにさるぼぼ付けとっぜ?」
「うん、兄ちゃんと行った飛騨で自分のお土産に買ったん。自分に可愛いさるぼぼ買うなんてお前らしいなって二人で笑った」
「なっはははー」
何だかんだ言って、小春子はコイツと喋ってる時の笑顔が自然だとボクは思う……。
そして数日後、本格的に模擬店出店に向けた商業実技部と調理実習部の顔合わせがあった。
「というわけで、この模擬店を成功させることが私たちの成長につながるものとして、商実と調実が一体となって取り組みましょう」
両部員すべてに向けて、戸破部長が代表して挨拶した。とはいえ場の雰囲気は、部活や学科に違いがあっても同じ高校の生徒同士でもあるため、和気あいあいとしていた。
「この
「誰が女格闘家やねーん」小春子がふざける。
そんな、各々が親睦を深める中――
「京ちゃん、久しぶりやん」
「あ、ああ。麗奈って調実やったんや」
マジでボクは驚いた……。青柳が女子とあんなに親しく喋っていることを……。
そして猫のボクでさえ、それを見ていたボクの主人の表情を見るのが一瞬、超怖かったんだ。
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