第7話

 ーーそして気がつくと、地面に寝ころがっていたわけだ。


そして、上空には絵本や映画でしか見たことのないドラゴン!


 大きな翼を広げたドラゴンは、するどいツメをしのばせた二本の足にこんしんの力をこめながら、恐ろしい目でツミキをにらみつけている。


「ミゲル!こっちよ」

 その声の方向にふりかえると、洞くつのかげからツミキと同じくらいの年のくり色の髪の毛の女の子が手まねきをしている。


「ミゲル、早く!」

 ツミキはまわりを見まわしたが、ツミキいがいにはだれもいなかった。おそらく自分をほかのだれかと見まちがっているのだろうと思ったが、この状況ではそれをいぶかしむよゆうもない。


 ツミキは立ち上がるとふしぎな女の子にさそわれるまま、洞くつにむかって走った。


 しかし、石につまずいてころんだ。


 すると洞くつから女の子がかけよってきた。女の子はすっぱだかである。


「早く立ちあがって!」

 そこへ今にもこまくがわれそうなな音をたてながら、ドラゴンが上空からまっしぐらに飛んできた。


「あぶない!ルチア」

 ツミキは知るはずもないその女の子の名前をさけんでいた。その声も聞きなれた自分の声とはまるでちがっている。


 しかもツミキはおどろいたことにせまりくるドラゴンの目の前に立ちふさがった。そのとき頭の中で男の子の声が聞こえた。


(ツミキ、サイクロン・ブレスを!)


 ツミキは、意味を理解しないままその言葉の力にうながされるように大きく息をすいこんだ。その呼吸でまわりの木の葉がガサコソゆれるほどだったが、ドラゴンはすぐ目のまえにまでせまっている。ミゲルは体じゅうにみなぎる息を、頭から突進してくるドラゴンにこんしんの力でふきかけた。

 

 すると見たこともないようなもうれつなつむじ風がたちまちドラゴンの動きをとめた。ドラゴンはほんのすこしばかりの声をあげたが、なにもできずにそのまま風にのまれてグルグルとまわりながら空のかなたに飛んでいってしまった。


「ルチア!」

 ツミキはそうさけぶと、はだかの女の子のところにかけより、自分がはおっていたマントを着せた。女の子は「ありがとう」と言った。ツミキはやさしく女の子の肩に手をそえている。


(わたし、だれ?、この人、だれ?)


 そこでもう一度その少女の顔をまじまじと見てみた。


 女の子は大きな青いひとみでツミキの顔を見つめてから、少しはずかしそうに長いまつ毛をふせた。さっきまで読んでいた本の中に出てくるモートにつれさられたお姫さまのさし絵によくにている。


(たしか名前はルチア姫だった……)


 あまりにきれいな顔なのでつい見とれてしまった。

「なぜ、じろじろ見るのです?」

 気がつくとルチアが青いひとみでじっとツミキの顔を見つめ返している。


(えっ……?)

 ツミキはなにを言っていいのかわからず、

「いや、なんでもない」

 とさらりとこたえた。


 そのひくい声は完全に男の子の声だった。ツミキは別の人間になっていた。しかも男の子になっている。そればかりでなく、外国人だ。肌がすきとおるように白い。それにふつうの人間ではなくふしぎな超能力をもつ人間になっている。


「ありがとう、ミゲル」とルチアはツミキの手を取った。


(ミゲルって名前もたしかあの本の中にあった……)


 自分の名前がいつのまに勝手に変わっていることに疑問をはさむまもなく、

「だから言ったじゃないか。魔よけのミノだけは、けっしてぬぐなよって」

とツミキ、ではなくミゲルはそう言うとルチアの頭を軽くこづいた。


 ルチア姫はいたずらっぽくわらった。……

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