第6話
そこまで話が進むと、ツミキはとつぜん目の前がくらくらとしだした。そして自分の体が急にふわりとうき上がり、そのまま大空へとんでいくような感覚におそわれた。
ツミキはこわくなって本をパタンととじた。そのとたんにたましいが本の中から体にもどってゆくかのように、気持ちがスッとおちついた。もちろん、体はさっきまでと同じようにイスの上にあった。
ツミキは、大きく息をすった。そして服も着がえず、ふとんを頭からかぶってベッドにもぐりこんだ。
つぎの日、ツミキは学校でサユリにこのことを話した。すると、サユリは目をまんまるにして、
「それは、ゆうたいりだつ、っていうんだよ。自分の体にもどってこれたらいいけど、もしもどってこれないとそのままあの世に行っちゃうんだって!」
と言って自分のことのように心配してくれた。けど、サユリの言うように、ふしぎと死ぬとか二度と自分の体にもどってこれないというような不安は、ツミキにはなかった。
そして、学校から帰るとすぐに机の上におきっぱなしにしていた本をひらき、もう一度さいしょから読もうとした。けれど、きのうは自然と頭の中に飛びこんできたのに、そのときは、いくら読んでもなんと書いてあるのかさっぱりわからない。
そこで、なぜきのう、それまでまったく意味不明だった本の文字がとつぜん読めるようになったのかを考えた。そうしたら、またすずの音が頭の中でなったような気がした。ツミキはカギを手にとって見つめながらカギの上でいねむりをしてしまったことをおもいだした。
(あのカギは、箱のふたを開けるためだけのカギではなく、本の世界につながる見えないとびらのカギなのかもしれない……)
ツミキは、机の引き出しに入れてあったカギを取り出してみた。カギは青く光っている。
ツミキは、本のさいしょのページを開き、その上にカギを置いた。そしてその上におでこをのせてみる。そのとたんに、なにか目に見えない生きものがおでこから体の中に入ってきたような感じがした。そして目をあけて、もう一度本の文字に目をおとしてみた。するときのうと同じように本の文字が、目の前につぎつぎとうかびあがってくる。そして行列をつくっておどりながら行進をはじめた。
ツミキはただその行列の行進を目でおいかけた。するとやっぱりまたそれだけでその本に書いてあることが頭にはいってくるのだ。
やがてきのうと同じところまで読みすすみ、さあ、本をとじようか、それともこのまま読みつづけようかとまよっていると、本の中にぼんやりとした大きな丸いかげができていることに気がついた。そのかげはみるみるうちに黒い穴になり、その中心ではうずまでまいてる。するとツミキの顔がその中にすいつけられるようになった。ツミキは、なんとかのみこまれないように机に両手をついてこらえようとする。
けれど、自分の体から力がどんぬけてゆき、とうとうふんばり切ることができなくなった。ツミキはかくごを決めて、自分の体をあずけるように穴の中に飛びこんだ。
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