第5話

 ツミキは自分の部屋にブリキの箱と本を持っていき、自分の机の上でその本をながめていた。じっとながめていたらもしかしてなにかわかるかもしれないと思ったが、やはり一文字もわからない。ここまでくるともう外国語だ。


 けれどページをめくると二、三ページに一つぐらいの割合で、色のついたさし絵があった。絵にはお姫さまのようなくり色の髪の毛の女の子と空をまう竜と若い男がえがかれている。その絵から、この物語が古い外国の話だということだけはわかった。


 やがてねむくなったので、うとうとしていると目の前の文字がとつぜんうかびあがり、ぺちゃくちゃとおしゃべりをはじめた。そのうちに音楽がなりだし、それぞれの文字は勝手にパートナーを見つけておどりはじめた。文字たちはつぎからつぎへとパートナーをかえて、とんだりはねたりしながらダンスをする。……


 そこで大きなクシャミとともにツミキは目をさました。おでこがウズウズしたので、手でさわってみると、なんとあのカギがおでこにくっついている。


 ストーブもつけずに、本を開いたまま、本にはさんだカギの上でうつぶせにねむっていたようだった。


 (へーんな夢をみたな)と思いながらもなんとなく本のことが気になり、もういちど本をみつめてみた。するとこんどは、どういうわけかふしぎなことに本に書かれている文字がどんどん頭に入ってくる。読めるのだ。というか、文字を見つめているだけで、どんどん本のストーリーが頭の中にはいってくる。まるでだれかが頭の中で朗読をしてくれているようだった。

 

 ーーはるか昔のこと、オーライヤの国に大きな竜にのった魔王があらわれた。


 その魔王は大きなカマをもっていた。魔王の名前はモートという。


 そしてオーライヤの王に向かって姫をよこせと言ってきた。


 王はその要求をはねつけたが、いかりくるったモートは城に火をかけた。


 そして、王とおおくの家来たちをころしてしまった。


 王女ルチアだけは城がもえるまえに城からおちのびようとしたが、城を出たところで竜にまたがったモートに見つけかってしまう。


 そして、竜につかまり、山奥の谷間につれさられた。 


 しかしルチア姫は、魔王と竜がいねむりをしているあいだに、すばやくにげだした。


 すぐに姫がいないことに気がついた竜とモートは姫をおいかける。


 山をこえ、森をぬけ、川をわたり、姫のにおいをおいつづけた。


 姫は王からゆずりうけた、万寿の葉っぱでこしらえた魔よけミノを体にまとい、モートの目と鼻をくらましながら、オーライヤに向かって走りつづける。


 しかし姫はまる五日間走りつづけたためにすっかりつかれきって、あせだくになっていた。


 ちかくに泉があったのでその水を口にふくんだところ、その水はあまくあたたかかった。


 姫は魔よけミノをぬぎ、はだかになった。


 そしてひなぎくの花でこしらえたブレスレットだけを手首につけたまま、温泉に体をしずめた。


 すると竜は姫のにおいめがけて、はるかかなたから飛んできた。 


 姫ははだかのまま竜の両足にとらえられ、天高くつれさられた。


 ルチア姫の悲鳴を聞きつけた木こりの息子ミゲルは、さっそくヤリをもってルチア姫をおいかけた。


 ミゲルは、姫がつけていたひなぎくの花のブレスレットからこぼれおちた花びらを手がかりにして、二日のあいだ、のまず食わずで走りつづけて、とうとう竜と姫においつくことができた。


 さいわい、竜は小川のほとりで休んでいる。


 ミゲルは竜が水をのんでいるすきに姫をかかえて、近くにあった洞くつの中ににげた。


 しかし竜はすぐに姫がいなくなったことに気がつき、二人がかくれる洞くつの中に長い首をなんどもつっこんで、そのするどいキバでかみころそうとした。


 ミゲルはヤリを手にしたまま竜の足をすりぬけて、その背後にまわった。


 そしてトゲトゲのよろいのようなそのしっぽにヤリをつきたてた。


 竜はたまらずさけび声をあげ、のたうちまわったが、ミゲルもそのあおりをうけ、竜のしっぽにはじきとばされた。ーー

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