第3話
そのあと、自分でもどこをどう走ったのかよくおぼえていない。
坂をくだりさえすれば、自分の家にたどりつくと思い、がむしゃらに走りつづけたが、あかりもほとんどない暗いふなれな夜道だったのでいつのまにか行き止まりにまよいこんだり、坂道をぎゃくに上っていたりした。
かと思えば、同じ道をなんども行き来している。走れば走るほど町のあかりが遠くなり、ふかい山の中に来たようだった。じっさい、暗くてほそい、ヘビのようにうねった坂道を下っているとちゅうで、木や草だけがうっそうしげるところにまよいこんだときには生きた心地がしなくて泣きたくなった。
見わたしても家もなければ電柱もない。どんなに耳をすましても車や人の声も聞こえないのだ。遠くの夜空に見える三日月と金星だけが、なにもないかのようにこうこうと光っていたけど、ツミキにとっては、それもまるで地球のうら側から見ている景色に感じられた。
やがて、スポットライトをあびたかのように、しずんだはずの夕日をうけてうす桃色にうかびあがる家が、ツミキの目の前にあらわれた。
それはまさに自分の家だった。そのときは、あまりにうれしくて大声を出してしまったほどだ。それにしても、ほんの目と鼻のさきにあるはずの家にたどりつくまでに、一晩じゅう走りつづけたような気がした。
そのため、家に帰るとすぐに部屋着に着がえてベッドにもぐりこみ、そのままねむってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます