第3話

 そのあと、自分でもどこをどう走ったのかよくおぼえていない。


 坂をくだりさえすれば、自分の家にたどりつくと思い、がむしゃらに走りつづけたが、あかりもほとんどない暗いふなれな夜道だったのでいつのまにか行き止まりにまよいこんだり、坂道をぎゃくに上っていたりした。

 

 かと思えば、同じ道をなんども行き来している。走れば走るほど町のあかりが遠くなり、ふかい山の中に来たようだった。じっさい、暗くてほそい、ヘビのようにうねった坂道を下っているとちゅうで、木や草だけがうっそうしげるところにまよいこんだときには生きた心地がしなくて泣きたくなった。


 見わたしても家もなければ電柱もない。どんなに耳をすましても車や人の声も聞こえないのだ。遠くの夜空に見える三日月と金星だけが、なにもないかのようにこうこうと光っていたけど、ツミキにとっては、それもまるで地球のうら側から見ている景色に感じられた。


 やがて、スポットライトをあびたかのように、しずんだはずの夕日をうけてうす桃色にうかびあがる家が、ツミキの目の前にあらわれた。


 それはまさに自分の家だった。そのときは、あまりにうれしくて大声を出してしまったほどだ。それにしても、ほんの目と鼻のさきにあるはずの家にたどりつくまでに、一晩じゅう走りつづけたような気がした。


 そのため、家に帰るとすぐに部屋着に着がえてベッドにもぐりこみ、そのままねむってしまった。

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