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 父の剛典たかのりが帰ってきたのは、天が塾の宿題を解いている時だった。


「ただいま」


 テレビでアニメを観ていた夢だったが、玄関から父の声がして、「おかえり」と叫びながら出迎えに行った。


「おかえり」


 そらも問題と向き合いながらではあるが、玄関にいる父に声を掛けた。


「ママァ!」


 妹のその声を聞いて、天は思わず顔を上げていた。ママ?


「ママ、ずっと会いたかった」


「夢、やっぱりお前も見えるのか」


 父と妹の奇妙な会話が聞こえてくる。剛典の声はどこか怯えているようだった。


「今聞いた? パパったらママのことお化けみたいに言ってさ」


「パパひどーい」


「てか夢、あなたおっきくなったわね。それに段々ママに似て美人になってる」


「えへへ。前ね、ゆめね、幼稚園のタカシくんにプロポーズされたんだよ」


 天の全身に鳥肌が立っていた。天は勢いよく立ち上がり、廊下まで走った。椅子が転げて床が傷ついたかもしれないが、そんなことはどうでもよかった。


 玄関が見える位置まで着くと、そこには目を剥く光景があった。


「あ、我が息子も二年の時を経て、大分ハンサムになったみたいじゃないか」


「ど、ど、ど、どうして?」


 天の口は金魚のようにパクパクと開閉していた。


「それが、俺にもさっぱりなんだ」


「母さん、死んだんじゃ……」


「なんか生き返っちゃったみたい」


 朱音あかねがぺろっと舌を出す。


「俺も最初びびった。事故があった場所でお参りしてたら急に誰か話しかけてきてさ、見てみたら母さんだったんだ」


「あのね、ゆめがお願いしたんだよ」


 朱音に抱きつきながら夢がいった。


「どういうこと夢」


「ゆめがね、お星様にいったの。ママが帰ってきますようにって。だからママが帰ってきたんだよ」


 剛典と朱音が顔を見合わた。天は、撮影した流れ星に「ママが帰ってきますように」と3回叫ぶ妹の姿を思い出していた。


 どうやら信じられない奇跡が起きたようだ。

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