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もうすぐ帰る。それだけの文字を打って、メールを送信した。
信号が青に切り替わったが、
剛典がこの場所に訪れたのは1年半ぶりだった。しばらく来なかったのは、朱音が死んでから少しして、彼女の墓が立ったからに過ぎなかった。
剛典は目を瞑り、手を合わせた。左手の薬指には、新しい指輪が填められていた。その指輪と同じものを今、菜緒という女がしている。今夜この場所に来る前、彼は人生二度目のプロポーズを果たしてきたばかりなのだ。その報告のためにやって来たわけだが、どのように伝えるべきか剛典は悩んでいた。
とりあえず彼は「再婚することにした」とストレートに心の中で伝えてみた。
当然、返事は返ってこない。なので朱音が言いそうなことを考えてみた。不倫なんて愚かな真似したら絶対復讐してやる、と言ったことがあるのを思い出してしまった。朱音、これは不倫じゃないよな――。
それから何故か、次々に言いたいことを言えるようになった。天と夢は元気にしてるよ、新しい嫁さんは君と違い清楚でおしとやかでか弱い面もあって正反対な人種だけど、君と同じ良い母親になるのだけは間違いないから安心してくれ。
誰がゴリラ女ですって!? という内面と打って変わった美人顔が般若に変貌するのが目に浮かぶようで、剛典の頬は思わず緩む。
あっ、あとそれと――。
「そんなところで何してるの?」
突如した女の声で彼の心は遮られた。野暮なことを聞くもんだ、と思いながら剛典は振り向いた。振り向きながら、彼は聞いたことある声に戸惑っていた。その声はついさっき、頭の中で聞いたばかりだった。
「ど、どうしたの。そんなお化けを見るような顔しちゃってさ」
「え、あ、いや……」
「てかさ、それより聞いて。私おかしくなったのかな。さっきまで昼間だったのに急に夜になっちゃたの。それに知ってる顔がいると思ったら何故か電柱に拝んでるしさ。ねえ聞いてる? おーい」
女は剛典の顔の前で手を振った。剛典が放心状態なのは、手を振るその女が死んだはずの妻だったからだ。
剛典は未だ振り続ける朱音の腕を掴んでみた。
「ちょっと、どうしたの?」
「触れてる……」
「当たり前でしょ」
剛典は手を離した。その手をそのまま自分の頭に持っていった。
「俺は夢でも見ているのか?」
「は? 何いってるのよ」
朱音が笑った。その時にできる笑窪までもが全く一緒だった。
「だって……だって菜緒は死んだろ。ここで車に轢かれて」
そこで初めて朱音は形相になった。
「それどういうこと?」
彼は繰り返すしかなかった。
「菜緒、お前は二年前、この交差点で車に轢かれて死んでるんだ」
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