六月十五日

 一週間後、あゆみとミナが学校に向かって、通学路を歩いていた。


「ねえ、あのマンガ見た? ツイッターでめっちゃバズってるやつ」


 あゆみがミナに声をかけた。


「ああー、口裂け女のマンガのこと? 見た見たー。あれ、めっちゃ怖かったよね」

「ホント、マジ怖かった。あの日の夜、お風呂入れなかったもん」

「いや、お風呂には入ろうよ。まあ、気持ちは分かるけどさ」

「何が怖かったってさー、あの口裂け女の傷口だよね。まるで”本物の傷口”のようで、めっちゃグロかったもん……」

「あれって、本当にフィクションなのかな? なんか、リアル過ぎて怖いんだけど……」


 朝から嫌なものを思い出してしまったと、ミナは後悔した。


「ああいうマンガ描く人ってさ、どんな人なんだろうね? やっぱ、サイコパス? そうじゃないと、あんなグロいシーン、平気で描けなくない?」

「どうだろうね。意外と、どこにでもいる普通の人なんじゃない? 知らんけど…………」


 突然、あゆみは足を止めた。

 顔面蒼白がんめんそうはくし、口を大きく開けている。


「……え? 何? 早く行かないと、遅刻しちゃうよ?」


 隣にいたミナも、同じ方向に視線を向ける。

 二人の視線の先には、病衣を着た一人の女が立っていた。

 長く伸びた赤い髪を揺らしながら、何かぶつぶつと呟いている。

 大きな白いマスクには、ところどころ血が滲んでいる。

 女が顔を上げると、あゆみと目があった。


「……っ」


 あゆみとミナは二人とも身動きがとれず、その場に立ちすくんでいる。

 独り言を呟きながら、女は二人の目の前までふらふらと歩き、立ち止まった。

 それから、ゆっくりマスクを外し、呂律ろれつが回らない口調でこう言った。


「……あたし……キレイ……?」

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