思い

 要約の思いで手に入れたソフトウェアのUSBを手に取り

 パソコンに差し込み携帯をパソコンに繋げて電話をかける。

 電話はかかった。

 コールが1、2、3回と続き強制終了される寸前まで鳴らし続ける。

 もうダメかと思った次の瞬間コール音が収まった。

 電話越しに、ここでは無い生活音が聞こえる。


 「もしもし」と声をかける。

 「もしもし、どちら様?」と機嫌が悪い事を隠すつもりもないらしく

 露骨に不快感を与えてくる。

 「あの落合ケンイチさんのお電話で間違いないでしょうか」

 「そうだけど、何?」

 「よかった。同じ高校だった森本だけど。。」と適当に名前を上げる。

 「誰、覚えてねぇけど、何の用?」

 と不機嫌になりながらも同級生と認めてくれた。

 「警察に捕まってからの後どうしているのか心配になっただけだ」

 「そういうのいいわ。だるいし、それだけ?それだけだった電話切るけど」

 「いや、今の生活どうしているんだ?」

 「普通に働いて暮らしているよ」

 「仕事をして?」

 「ああそうだよ」

 「結婚はしているのか」

 「してねぇよ、なんなんだよさっきから」

 「気になるじゃんか同級生として」と言うと落合は食い気味に返事をした。

 「それは、ただ同窓会とかのネタにする為だろ。そういうのマジで鬱陶しいから

  マジでキモいんだよ」と言い放ち電話が切れてしまった。

 威圧に圧倒されたが本来の目的は達成できていた。

 モニターに示されている住所を携帯のマップで検索をかけ探しに出かける。

 それほど遠くなく、自転車で1時間30分ぐらいのところだった。

 自転車で携帯を片手に向かう。

 目的地付近の周りを見渡す限りボロアパートが立ち並んでおり

 外で見かける人はフィリピン人か中国人の姿しかない

 白い壁が経年劣化により表面が剥がれていたり色が黄色く変色していた。

 隠れるようにしながら目的地のアパートを観察をするが

 数分後に夕立が降り始めたため帰宅した。

 


 ジム終わりにいつものように田口と喫茶店で勉強を見ている。

 田口は一段落したらしくカフェオレを飲む。

 「最近学校はどう?受験を意識してくる人増えた?」

 「そうですね、まだそんなに変化はないですね」

 「それは好都合だね。アドバンテージだね」と励ますように言う。

 「そうですね。でも、学校のテストの勉強はあまりせず

  受験に絞って勉強していると不安になってくるものがありますね」

 と珍しく不安そうに田口は言う。

 学校のテストはある程度できればそれでいいと言ったのは自分だ。

 テスト勉強と受験勉強では違う、先生は自分の事ばかり考える人が多いため

 自分でどこに時間を割くべきなのか判断しなければならないのだが

 それをできる人は元々頭がいい人だろう。

 そういう人は容量がい良く普段のテストでもいい点数を取っているものだ。

 周りと違うことをすることは不安であるのはわかるが

 周りと同じことをすると言うことは周りと同じ結果になると

 言うことでもある。

 それはナッセンスだ。

 「まあ大丈夫だよ」と諭すように言った。


 「もうすぐGWですね」と田口が言う。

 「そうだね。どこかに行ったりするの?」

 「基本的には勉強する予定ですが、

  何日ぐらいかは遊びに行こうかなっと思ってます」

 「それがいいと思う」

 「ですよね。でもまだ予定を決めていなくて」と若干下を見ながら言い 

 こちらを伺うために上目遣いで確認をする。

 これは誘ってくれているのだろうか。それともただの報告か。

 ここで己惚れる程僕の人生経験は浅くない。

 そう思い僕は「休みだし人多そうだよね」と返事をする。

 「そうですね。でも大学生はほとんど休みみたいなものなんじゃないですか?」

 「そんなことないけど、まあでも高校生の時に比べたら

  圧倒的に自由と時間があるだろうな」

 最適な返答は薄々わかっているそれでも真実から目を背けたくて

 失敗のリスクが怖くて変化しない方に流れてしまう。これは自身の悪い癖だ。

 店内にはスーツ姿の男性2人組やおばさん3人組が座っているだけで

 他の客は誰もいない人数はそれほど多くいないにも関わらず

 それほど店内に静けさは無く話すことに抵抗感はない。


 「もしよければ映画にいきませんか」

 店内が無音になる。

 田口の大きな目は僕をじっととらえる。

 目を背けたくなる気持ちをグッと堪える。

 田口には引き込まれる力を持っている。

 お願い事全て受け入れたくなる。

 いつも間にか、この純粋さを守ってあげたいそう思うようになってきている。

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年上女性の余裕 深望幸 @Fukami_kou

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