第15話 最終回(打ち切り)
申し訳ありませんが、この話で打ち切りとさせて頂きます。
続きが全く思い浮かばないのです。
これまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
まったく陽菜子のGWの予定にはなかったが、帰りの荷物もまとめたユイとショッピングモールに出かけることになった。
GW明けに深幸さんこと松代ゆきさんとまたあの喫茶店で会う約束をしていて、そのときに自分が電子書籍でしか読んだことのないオススメの小説を貸したりしようと思いつけたのはユイのおかげだ。
一回はユイが洗濯物を取りに陽菜子の家に帰ってくる予定なので、彼女が持っている荷物はそれほど多くない。
「さて、デートだね」
ユイが玄関で明るく言う。
女二人で出かけるときは「デート」という表現を使うのに、なぜ男同士では使わないのだろう?
陽菜子はそんな場違いなことを考えてしまった。
なにせ、陽菜子というか川原ヒナは自分の小説の中で何度も女の子同士をデートさせている。
最初はお嬢様の方が男装しているのでぱっと見は普通のカップルにしか見えなかったが、少しづつ本当の自分を出していき、ショートカットの女の子の恰好をするようになってからも二人で出かけるときは「デート」なのだ。
最近の百合小説の人気っぷりを見ていると、男は何か女同士の間には侵し難い、ある種聖域のようなものでもあるのだと勘違いしているのではないだろうかという気になってくる。
しかし、自分とユイがお泊り会をして一つのベッドで寝たなどと聞くと男子が興奮しそうな気がするのも事実だ。
ユイは一体どんな気持ちでいたのだろう?
自分は一体どんな気持ちでいたのだろう?
陽菜子にとってユイはあくまで友達だ。相手が深幸さんならそりゃあドキドキもするだろうが、恋人繋ぎをされたとき以外、変な気持ちを持ったことなど無い。
ユイがもし自分にそういう気持ちを抱いているのだとしたら、どんな心境で眠りに落ちたのだろうか。
そもそも、自分は女から見て恋愛対象になるような女なのだろうか?
少なくとも、深幸さんからはそう見えるくらい魅力的な女の子になりたいとは思う。
「ちょっと買い物に行くだけでしょう」
思考の袋小路に入り込んで、ユイへの返事が遅れていたことに気が付いた。
おそらく、ユイは最近の陽菜子のこういうところを心配して、昨日もいきなり泊まりたいなどと連絡をしてきたのだろう。
なにはともあれ、家から移動してショッピングモールに着いた。
「やっぱり、そろそろ暑くなってくるから夏ものの服を見に行こうよ」
「そうね」
そして、何件かの服屋を冷やかしたり、時には実際に試着して良さそうなら買ったりしたのだが、ユイはやたらと陽菜子に「似合う?」「どう?」と感想を求めてきた。
本格的にデート気分の様だ。
陽菜子も次に深幸さんに会うときにどんな服を着ていこうかとか考えると、たしかに気持ちが浮つく。
いっそ、この季節に合わせて服を新調してみようか。
ああ。
わくわくする。
こんな気持ちを小説の登場人物たちにも味わわせてあげたいと思う。
そして、ユイが訊いてくるのに、正直に自分の感想を言うと、ユイはますます張り切って色んな服を選び始めた。
本当に、自分の好きな人に見せるために服を選んでいるようだ。
これが、陽菜子の思い過ごしならどんなにいいかとも思うけど、昨夜のベッドの中でのことを思うと、そうとも思えないのだった。
いつか、本格的にユイの気持ちに向き合う日が来るのかもしれない。
ユイのことは好きだけど、それは深幸さんに向けてる感情とは全く別物で。
そのときはどうしたらいいのか。
どうすればユイを傷つけずに済むのか、陽菜子は悩まずにいられなかった。
自分にはもう好きな人がいることは伝えている。
小説の感想をいつも丁寧にくれる、“ある人”が気になっている、と。
そのことを、ユイはどう受け止めたのだろう?
傷ついたのだろうか。それともたかがネット上の顔も知らない相手だと安心したのだろうか。
「ねえ、ヒナ、またぼーっとしてる」
「え、あ、ご、ごめん」
でも、今回考えてたのはユイのことだよ。
「さ、じゃあ服はあらかた見て回ったから本屋に行こうよ。買いたいのあるんでしょ?」
「うん、そうしよう」
どうも、色々考えてしまうせいでユイへの反応が淡白になってしまっている気がする。
本屋に移動して、自分が電子書籍でしか読んだことのないラノベを探した。
すると、あるある。次々と出てくる。
いつから自分はここまでPCやスマホでばかり小説を読むようになったのだろうと驚嘆するほど、最近は紙の本を買っていないことに気付かされた。
そういえば、深幸さんは読むほうだとどういうラノベが好きなのだろうか?
書いているのはローファンタジーのバトルものだけど、ああいうのを勧めればいいのだろうか。
それとも陽菜子もよく読むような恋愛描写の多い、ややファンタジックなラノベがいいのだろうか。
手紙には確か「陽菜ちゃんがオススメしてくれるものを私も読みたいわ。最近の若い子じゃなくて、陽菜ちゃんがどういうのが好きなのかを知りたいの」という意味合いの文章があった気がする。
うーん、旦那持ちの子持ちの主婦にしてはなかなか女殺しな文章を書いてくる女の人だと思う。
「ヒナ、私、漫画の方見てくる。ラノベコーナーにいるよね?」
「え、ええ。いってらっしゃい」
そういえばユイはそこまで小説を読むほうではなく、漫画の方が好きなんだった。
これで少し自分の世界に入り込んでも大丈夫になったので、陽菜子は深幸さんのことを考えながら、今流行りかつ、深幸さんが「読んだことがない」と言っていて自分が大好きなラノベを棚から何種類かごっそりと抜き取った。
お店側からしたら、迷惑な買い方だろうが、最新刊まで持っていないのも変なのだ。
それに深幸さんに貸した後、自分で読むこともできる。
結局、異世界転移もの、異種族恋愛もの、現代恋愛ものの3つを選んで既刊を全部買った。うち、全社二つはWeb小説が書籍化したものである。
深幸さんはWeb小説を読むことができないみたいだし、まあ、すでに読んだものを貸してしまう可能性は低いだろう。
「ヒナ、あの漫画の最新刊買えたよ。最近売り切れ続出だって聞いてたけど」
「へえ、あってよかったじゃん」
ちなみに、ユイもあまり電子書籍を読むほうではない。昔ながらの、紙に描かれた漫画を集めて読むタイプだ。
もちろん深幸さんみたいな機械オンチな訳ではないので、スマホなどは普通に使えるのだが。PCでネットを見たりするのかどうかはあまり知らない。
陽菜子の家でもPCを見せてくれと言ってこなかったので、今時のスマホがあればすべてネットは事足りているのかもしれない。
そういえば一時期ケータイ小説なるものが流行ったらしいけど、その時期には陽菜子はスマホ、いや携帯電話を親から買い与えられる歳でもなかったのであまりよく知らない。
Web小説は、スマホ・PCから小説投稿サイトを通じて読むのが当たり前という世代だ。
そういえば、一週間後にはあの喫茶店Pearlで深幸さんと会う約束をしているけど、今は松代家ご一行で旅行中のはずだ。
たしかどこか遠くの県の有名温泉に行っているはずだけど、暇な移動時間は文庫本でラノベでも読んでいるのだろうか。
正直、スマホがここまで普及してしまった現在、スマホが使えない人がどんなことをして時間を潰しているのか想像がつかない。
「さ、買う物も買えたし、そろそろいい時間だからいったん私の家に帰ろうか」
「え、食事くらいして帰ろうよ」
どうやら、ユイは陽菜子との“デート”をまだ楽しみたいらしい。
「まあ、いいか」と思いながら、陽菜子はユイとの昼食をショッピングモールのフードコートで済ませることにした。
ワナビ百合少女が恋した女流Web作家はネカマの男子クラスメイトだったと思いきやそのお母さんでした 天野 珊瑚 @amanosango
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