第3話 ボランティアと猫。
午後からは被災地のお宅で後片付けのお手伝い。
ある農家のおうち、ちゃんと交渉して手伝わさせてもらってる姿を録画するっていうんで、カメラマンさんも一人同行してる。
ボラっていうより……。完全にやらせだよね。これ。
できればちゃんと本当にボランティアで来たかった。
こんな企画じゃなくて。
「じゃぁまみちゃんは此処に出した物を外の井戸の所で洗ってくれる?」
「はい。任せてください」
撮影映えするように、わたしは思いっきりの笑顔を作る。
このおうちは床上浸水で一階が全滅だった。泥水が一階腰の高さまで浸かったらしく、畳も家具もドロドロだ。
兎に角みんな水で洗い流すらしい。
幸い、外の井戸のポンプは生きていた。電気もきてる。
洗い場の蛇口をひねるとモーターがウーンと唸り、冷たい水が勢いよく流れる。
運んできたのは細かい物から。わたしが洗ってる姿を撮るのにあんまり大物は無理と思ったのかカメラマンの二村さんの指示だ。
食器棚の下に収納されてたお茶碗とかお盆とか梅酒の瓶とか、そういうものから順に洗っていく。
いまのわたしはジーンズに長靴。長袖にゴム手袋。そんな地味な格好だ。
でも、どこもかしこもまだぬかるんでいる。転んだらすぐどろどろになっちゃうだろうから、こんな所でちゃらちゃらした格好ではいられないよね。
「はいここまで。まみちゃんもういいよ。いい絵が撮れたから」
二村さんの指示で、わたしは手を止める。
椅子とかテーブルを運んできたお家の人が、
「ありがとうねまみちゃん。あとは俺たちやるから、休んでて」
そう言ってかわってくれる。
わたしは言葉少なにその場を離れた。
二村さんは先に戻っていった。
わたしも一緒にって言われたけど、もうちょっと様子を見ていきたいからってわがまま言って。
所在無げにうろつくしか出来なかった。
どこにいってもみんな忙しそうにしてるのに、わたしが何かお手伝いしましょうかなんて言っても、邪魔になるだけなのもわかってる。
何もできない自分が、ちょっと情けない。
ふらふらと歩いているうちに、堤防が見えた。
あの向こうの川の水がこちらに溢れてきたんだな、そう思うと今の水の様子が気になって。
堤防に上がって川を見渡すと。
まだ結構な水量だ。でも。脅威、ではなく、そこにあったのは雄大な水の流れ、神秘的な、生きている川。
ああ。ちっぽけだな。
わたしは自分が本当に小さな存在だと、そう感じて。
そして、時には脅威になり、時には全てを育む雄大な自然、その一端を垣間見た、そんな感慨にふけってそのまま芝生の上で寝転んだ。
にゃぁ
ちょっとウトウトっとしたその時。
か細い声が聞こえてきた。
にゃぁぁ
猫?
下の方から猫の鳴き声。
ちょっと斜め下に突き出ている土管。排水口? なんだろう?
そのあたり、かな。
芝生も滑りやすくなってるみたいで歩きにくかったから注意してゆっくり向かう。
すると。
土管の中に、猫が丸まっていた。
こちらを見て少し警戒している猫。かわいそうにドロドロでベタベタだけど、首輪もしてるしこの子家猫かな。それも、多分お外に慣れてない感じ。
「大丈夫だよ? こっちにおいで」
わたしはゆっくり手を伸ばす。
人馴れしてるんだろうその猫は、わたしの指をぺろっと舐めると、頭を手のひらに擦り付けてきた。
ああ。安心してくれたのかな。
その子を抱き上げ頬ずりすると、わたしは最初の農家さんに戻ることにした。この子、綺麗にしてあげなくちゃ。
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