第2話 やらない善よりやる偽善。

「じゃあ出発だ。屋台の手配は終わってるから後は機材とまみの移動だけだな。後は頼んだぞ時田」


「はいわかりました社長。って社長は来ないんです?」


「まあ。明日の夜の慰問ライブには顔を出すつもりだがな」


「えー。じゃぁわたし、一人ですか?」


「時田は裏方でやる事山積みだからな。まみならできる。頑張れ」


 もう。


 まだろくに説明も受けてないのにどうしたら……。




 結局その日のうちに出発することになった。


 やる事は……。


 昨夜の台風で浸水被害にあった石山市。そこの避難所の公民館の駐車場で炊き出し屋台、片付け掃除のボランティア、夜の慰問ライブ。などなど。


 結局売名行為? 偽善活動、だ。


 ゼロプロのアリマリ、アリアとマリアとか、歌手のFight-Ohとかが被災地慰問とか炊き出し屋台とかやってるのは何時もテレビで見てた。


 大御所俳優の島吾郎さんとかも自らコテ振り回して焼きそばを焼く場面とか印象に残ってる。


 ああいう人達の慰問はやっぱりほんとの慈善活動に見える。だって、そんな事しなくたって充分有名なんだもん。


 わたしなんか、ほんと無名だからなぁ。絶対売名行為だって叩かれる。うっきゅう……。そう考えるとほんと悲しくなる。


 っていうか、もしかしたら誰にも気づいて貰えないかも? それも悲しい、なぁ。




 車に揺られ二時間。石山市の北、山麓山にあるキャンプ場に着いた。今夜は此処で車内泊。明日の朝から炊き出し準備の予定だ。


 外を見ると月が辺りを柔らかく照らしている。確か……、そろそろ満月に近いんじゃなかったっけ。


 かなりまるいけど微妙に欠けてる月が綺麗だった。




 翌日。


 空には雲一つない。気持ちのいい快晴だ。


 そろそろ秋になるのか日差しもそれ程強くない。このまま今夜までいい天気だといいな。綺麗なお月様の下でのライブなんて初めてだ。


 すっごく楽しみ。




 公民館に到着するともう屋台がいっぱい並んでた。全部アオイプロって看板に書いてあるよ……、恥ずかしい……。


 弱小プロダクションの癖にこういう所にはお金をかけるんだから。わたしのお給料なんてスズメの涙しかないのに。


 でも。


 いつも夢を見ているような葵社長、わたし嫌いじゃないよ。


 うん。やらない善よりやる偽善。ほんとこれで少しでもお腹いっぱい美味しいものを食べて貰って元気を出してくれればそれでいい、な。




「美味しい豚汁ありますよー」


「焼きそばはこちらです♪ もっちもちでおいしいですよー。どうぞ食べてくださいなー」


 わたしは宣伝係。


 あちこちの屋台の前で被災者の方にアピールしながら声をかける。


「おねえちゃん。やきそばくださいな」


「はいこちら。あっつあつでもっちもち。美味しいよ♪」


「ありがとうおねえちゃん」


 ああ、子供は可愛いな。


「わしにも一つくださらんかな」


「はい。出来立てで熱いので気をつけてくださいね」


 大人気の焼きそばは出来る側からはけていく。おかげでいっつもあっつあつだ。


 豚汁も、フランクフルトも牛串も、みんな人気。


 いい笑顔。この時だけでも辛い事忘れてくれたら嬉しいな。


 そう考えながらわたしは駐車場内を走り回り、少しでも、と、街の人と触れ合った。




 案の定、


 あれって芸能人?

 売れないタレントだろ?

 売名?

 偽善家か。


 って声も聞こえた。


 そして、


 栗宮まみだって。知ってる?

 えー。しらなーい。


 っていうか何KB?

 何坂?


 え? ソロのアイドル?

 絶滅種じゃない?


 なんて諸々も聞こえ……。




 あ〜あ。モチベーション下がるなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る