第4話 木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)
海岸通り バイト先まで④ 木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)
「あなた、風邪ひくわよ」
四十何年前の悩みの種が声をかけて、ぼくは目が覚めた。
エアコンの冷風が、まともに薄くなりはじめた頭頂部の髪をなぶっていく。
パソコンがスリープになっていたので、マウスをクリックした。画面には、四十何年前、一夏バイトに行っていた町の小さな神社が再建されたニュースが動画サイトで出ていた。
神社は、タンクローリーの事故の巻き添えで焼けてしまった。木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)が御祭神で、浅間神社の末社であった。
「……これを観ているいるうちに眠ってしまったんだ」
「はい、コーヒー。目を覚まして台本読まなくっちゃね」
「台詞は、もう入ってるよ。端役だからね」
「その言葉、痛いわね」
「え……どうして?」
「だって、わたしのことが無ければ、あなた、高卒で、もっと早くデビューできたでしょ」
「よせよ、そんなカビの生えた話。いつデビューしていても、ぼくは、こういう役者だったよ。今の仕事も、ぼくは満足している」
その時、パソコンにメール着信のシグナル。
――おひさしぶり 窓の外を見て。 From その子――
ぼくは、急いで窓の外を見た。大手スーパーの駐車場の上半分が見える。
「……あ」
思わず声が出た。
あのビーチパラソルの上半分が見える。ピョンピョン跳ねながら振られている手の先が見える。
ベランダに出てみた。駐車場の全貌が見えるはずだ。
予想はしていたが、その子の姿もビーチパラソルも見つけることはできなかった。
海岸通り バイト先まで 武者走走九郎or大橋むつお @magaki018
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