第2話 少女A



 「あ」



 娘の声に、思わず母親がベンチから砂場へと視線を向けた。


 立ち上がり怪我でもしたのかと問う母に、娘はなんでもないと返す。



 母親が娘の隣で膝を曲げ、両手を開かせるも、確かに怪我はない。


 スカートから伸びる短い手足に怪我はなかった。



 一安心し、いつも通り綺麗な砂場を視界に収め、またベンチへと戻っていく母親。


 娘は母親に笑顔で手を振って見送ると、再び砂場を視た。



 あの複雑に描かれていた砂場の模様は、一瞬で消えていた。



 触れた時、指先に走ったあのバチッとした感覚は何だったのか。



 顔を上げる。


 空がとても近く感じた。


 振り返る。


 ベンチの母が見える。



 意識すると、その向こうにある自宅もみえた。



 少女はぎょっとし、何度も瞬きした後、きょとんとした顔で再び砂場へ視線を向ける。


 いつもの砂場にしかみえない。



 あの模様は?


 答えは出ない。

 


 「目がよくなった……?」



 深く考えず。


 少女はこの日から、新しい自分自身に慣れていく。


 近くの木の上で、カラスがカー、と嬉しそうに鳴いた。

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