第25話 決戦(2)

「セドナ! 聞いているのですか?」

 セドナがシロイルカとの思い出にふけっている間に、魔法少女たちは魔物らに劣勢を強いられていた。

 奈々は弱い魔物に数で押されて随分と体力を消耗している。

 杏は戦い方を知らず魔法がうまく使えないでいる。攻撃をかわすばかりで反撃できない。

 真惚は攻撃と防御の魔法をタイミングよく使えてはいるが、明らかに力負けしている。

「なんじゃ? へーべー」

「彼女たち、押されているようですよ」

「ワシの知ったことか…………と、言いたいところだが……我が友をみすみす見捨てるわけにもいかん。行くぞ」

「素直じゃないんだから……」

「……? なにか言ったか?」

「なにも言ってませんよ」

「ならよい」

「トウマを呼びます。トウマ! 聞こえますか?」

 へーべーはトウマにテレパシーで連絡をとる。

「なんだい? へーべー」

「私たちもそちらに向かいます。瞬間移動をお願いします」

「わかった」

 変態小動物ことトウマはテレパシーを止め、奈々に女神たちが来ることを伝える。

「奈々ちゃん、僕はいったん離れるよ。どうやら助けが来るようだ」

「あらそうなの?」

「そうなんだ。へーべーが来るよ」

「まあ、私的にはあなたがいない方が変なことされないか心配しない分、戦いやすいんだけどね」

「そんなこと言わないで、戦いが終わったらいっぱいイチャイチャしようね。じゃ!」

 変態小動物が消えたところをシャーロットは見ていた。

「あの小動物はどこに行ったのかしら? きっと怖気づいて逃げたのね。そうに違いないわ」

「さあ、どうかしらね。その老いた脳で考えてみたらいいんじゃないかしら?」

「減らぬ口ね。もうヘトヘトなくせに」


 へーべーたちがいる異空間に変態小動物がやってきた。

「……? あれ? セドナ?」

 異空間にはへーべーはもちろん、セドナもいた。セドナは臨戦態勢とばかりに殺気だっている。空間が揺れる。ツインテールも揺れる。あまりにも迫力がありすぎて異空間を破壊しそうなほどだ。その様子をトウマは不思議に思った。

「居ては悪いかのぉ~」

「悪くはないけど、人間が嫌いなのに助けにいくなんて意外だと僕は思ったんだ」

「勘違いするでない。へーべーにも話したが、ワシは我が友を救うためにいくのだ」

「そう……? まぁ、なんでもいいや。僕は戦えないからね。助かるよ」

「それではトウマ。お願いします」

「わかったよ」

 トウマの瞬間移動で魔物の屋敷に向かった。戦えるのはセドナだけだが膨大な力を持っている。


 瞬間移動。それは一瞬にして今いる場所から別の場所に移動することができる。人知を超えた力である。

 セドナの力は膨大で近くにいる動物は本能的に逃げ出してしまう。森にいる動物たちが騒ぎ逃げ惑う音や声が聞こえてくる。魔物も例外ではないが、屋敷の中には夢見る力を貯蔵している。そのため、魔物は屋敷を離れるわけにはいかない。

「なんだ⁉ この力は!」

「これほどに膨大な夢見る力が存在するとは……いったいなにものだ?」

「ありえない。小娘たちにこんな力があるはずがない。新手か?」

 ウィリアム、オーウェン、シャーロット。3体の魔物は驚きを隠せない。

 突如として現れた力の量は今、相手にしている魔法少女の比ではなかった。その力の影響で身動きをとれないでいる。

 魔法少女もまた、身動きをとれないでいる。真惚、杏、奈々、3人とも動けない。

「え? どういうこと?」

 空中を飛んでいた真惚は圧力に押されて地上に降りてしまう。その姿を見た杏が困惑の中、真惚に声をかける。

「あーちゃん? ……なにか近づいてきてる」

「なにかって……なに?」

「わからない」

 事前に女神が来ることを奈々は知っていた。

 力の正体は女神だろうと思ってはいるが、困惑を隠せないでいる。今まで感じたことのない力だった。

「なんなの? この力は? もしかして屋敷ごと吹き飛ばすつもりなのかしら?」

 セドナは屋敷付近の茂みから屋敷の中に入っていった。

 大きな扉をくぐり奈々とシャーロットがいる場所を通りすぎる。下手の廊下に入っていく。杏とオーウェンを通り過ぎる。真惚の目の前で止まった。

 正確にはシロイルカであるバニラの前で止まった。セドナの視線はしっかりバニラを捉えている。バニラもまた同じだった。

「セドナ……?」

「勘違いするでない。ワシは人間が嫌いじゃ。人間の世界がどうなろうと関係ない」

「……僕はなにも言ってないんだけど……」

「言葉にせんでもわかるわい。どいつもこいつも……」

「それじゃ、なにしに来たの?」

 照れくさそうにツインテールをいじって掌に顕現させた光る玉をセドナはバニラに差し出す。野球ボールほどの大きさだ。

「これを我が友に贈るためじゃ」

「これは?」

「ワシの力が込められておる」

 バニラは黙ってセドナの話を聞く。

「もし……もしもお主がワシのことを友だと思ってくれるのだとしたら…………受け取ってはくれぬか?」

「……僕は実の子供をシャチに襲われて食べられてしまった」

 今度はバニラが語ってセドナが聞く。

「僕は子どもを失う哀しさを知っている。子どもを思う気持ちを知っている。だからこそ真惚ちゃんを守り、真惚ちゃんと戦う。人間はイルカとは違う。僕の子どもではない。でも、同じ生き物として放っておくことはできない」

 バニラはセドナの眼をしっかり捉えて口と眼で思いを伝える。セドナはその言葉を待っているようだ。

「力を貸して欲しい。僕の友達は哀しんでいる生き物を見逃しはしない。類は友を呼ぶって言うもんね」

「勘違いするでない。ワシは人間の哀しみなど、どうでもいい」

「素直じゃないんだから」

 光る玉をバニラが受け取りセドナの力を得る。その際、眩しくも神々しい光を発した。

 セドナがバニラに力を与えた影響から魔法少女と魔物は身動きをとれるようになった。

 力を得たバニラ&真惚の快進撃が始まった。

 まずは目の前にいる夢見る力を強奪する主導者のウィリアムを倒して、杏と対峙していたオーウェンを吹き飛ばして、奈々と戯れるシャーロットをいじり尽くした。

 その後の魔物たちの供述によるところ、なにが起きたのかわからない。気付いた時には縄で縛られていたと言う。

 縄で縛ったのはへーべーだというのにそれすらも知らない。

 魔物たちを縛り上げた後、屋敷のどこかにある夢見る力を捜索した。

 力が貯蔵されている部屋は研究室のようになっている。

 ガラス張りとなったケースがいくつもある。それぞれのケースに張り紙がついておりなにか書いてある。それはごはん、パン、野菜、スープ、果物、お菓子、と大きく分類される。ごはんはさらにわかめ、栗、鮭、カレー、などがある。

 他のも同じようになっている。どうやら、夢見る力によって味が違うようだ。奥の方には一際大きなガラス張りがあり、『未分類』と書かれた張り紙がついている。

 魔法少女では手で覆える程度しか、元ある場所に返せない。そのため、へーべーの力で部屋中の夢見る力を元の場所へと返した。

 そうやって夢見る力を元ある場所に返すという目的を達成したあと、真惚はへーべーにある疑問を投げかける。その場には魔法少女、魔物、女神と集まっていた。

「魔物たちはどうなるの?」

「魔物たちも元ある場所に返します」

「元ある場所ってどこですか?」

「それは人間界です」

「……?」

「魔物は元々、人間です。生きるのに絶望し、希望を失う。だからといって自ら命を絶つことができない。そんな人が魔物となり、他人の夢や希望の源となる夢見る力を喰らって生活をします。ゆうなら……」

「……ゆうなら?」

 へーべーが真剣な面持ちで一拍おいたため、釣られて真惚も真剣そのものとなる。魔物とはなんなのかその真理がここにある。なぜ魔物となってしまったのか。へーべーが躊躇ためらっているのがわずわしい。

「ゆうなら…………他人の不幸で飯がうまい! 飯うま状態です」

「……は?」

 今度は恥ずかしそうにへーべーが言う。

「だ! か! ら! 飯うま状態です!」

「……ん? ん! ん⁉」

「真惚様にもいつかわかる時が来るかもしれません。人生は長いですからね。それでは皆様、私たちはこれで失礼します」

「ちょっと待ってください」

「なんでしょう?」

「人間界に戻ったとして魔物に居場所はあるのでしょうか?」

 自身の兄の夢見る力を奪われ敵対していたにも関わらず真惚は魔物の心配をしている。

 生きるためには衣食住が必要だ。人間は欲深く生きてるだけで満足しない。欲を満たされなければ自ら命を絶ってしまうことだってある。

 対峙した魔物たちは大丈夫なのだろうか。

「心配する必要はありません。あの方たちはすでに死んでいます」

「……? それじゃ、元の場所に返すというのはどういうことですか?」

「それは輪廻転生りんねてんせいの流れに戻すという意味です。地獄へ送り反省させ再び人間界の新たな生をまっとうします」

 人間は罪を犯してしまうことがある。

 生きているうちに取り返せることばかりではない。死んだあとのことは人間にはわからない。ただ、女神たるへーべーにはわかっていた。

 地獄で償い、輪廻転生するということを。

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