第22話 女神

「勝ったな! ラクルト!」

 朝の飯野家いいのけは賑やかだった。

 昨日、ラクルトが久しぶりに勝ったからだ。特に盛り上がっているのは父親だ。

 父は大学を卒業してからずっと今の会社に勤めている。そこに入職してからラクルトのファンだ。その会社はラクルトのスポンサーをしている。優勝すると大いに盛り上がる。優勝記念グッズを会社から貰う。

 Tシャツ、クッション、フェイスタオル、などがある。Tシャツは父や兄が部屋着として使い、クッションはリビングに置いてある。フェイスタオルは母が独占している。グッズが貰えるから応援しているとさえ思えた。

「ん? そうなのか?」

「なんだよ。見に行ったんじゃないのかよ」

 プロ野球観戦のチケットを購入したのは父だ。真惚まほに頼まれたことを機に勤め先から貰おうとしていたが貰えず、やむなしに購入した。

 試合翌日に勝った悦びを分かち合おうと考えていた。そのため、試合翌日は仕事も学校も休みの日にした。それなのにも関わらず、生の試合を見に行ったはずの真守は勝ったことさえ知らない。

 父は哀しい気持ちになっていた。

「7回に同点だったところまでは憶えてるんだけど……そのあとアイスを買いに行ったまま帰ってこない真惚を探しに行って……気づいたらベッドで横になってた」

「なんじゃそりゃ⁉ もしかして酒でも飲んでたわけじゃないよな?」

「そんなわけないだろ。お酒は二十歳になってからだ」

「それじゃ、なんだ? どうやって帰って来たんだ?」

「それは俺が聞きたい」

「真惚はどうした? まだ寝てるのか」

「寝てるんじゃないのか。まだ朝の7時だし」

「そうか……」

 試合に勝った悦びを分かちあえないとわかった父は残念そうにしている。

「まぁ、いいじゃないの。そのうち起きるでしょ」

「そうだけど、早くこの気持ちを分かちあいたい」

「それにしてもよく寝るなぁ~」

「特に用事がないんでしょ? 起きるのは昼過ぎね」

「そうだな」

 真惚は用事のないときは昼過ぎに起きることは珍しくない。大好きな魔法少女アニメは日曜日の朝に放送されるが、録画して見たいときに見ている。そのため、日曜日の朝も用事がない限りは起きない。

「おはよう! 行ってきます!」

「「は⁉」」

 昼過ぎまで寝ているであろう真惚が起きてきたため、3人は一様に驚いた。

「ちょっと! 真惚! 朝ごはんは?」

「いらない!」

「行くってどこに?」

「世界平和!」

 ドタバタと外に飛び出していく真惚を母は止めることができず、「ヨーグルトだけでも食べていきなさい」とさえ言えなかった。閉まるドアに向かって首を傾げた母はぼそっと言葉を漏らす。

「世界平和? アニメの見過ぎかな? でも……元気になったみたいね」

 その様子を見ていた真守まさもりと父も言葉を漏らす。呆気あっけに取られてしまっていた。

「……早い」

「……真惚が出て行ってしまった」

 外に出た真惚は誰かに声をかける。

「変態小動物! 行くよ!」

「だから、変態小動物じゃないって! ……それじゃ、移動するよ」

 変態小動物より今後のことについて話があるということで魔法少女が集められた。場所は異空間となっている。魔法少女には神迫かみさこ奈々なな飯野いいの真惚まほ、そして……

「あーちゃん⁉ なんでここにいるの?」

「なんでとはご挨拶だね。まーちゃん」

 そこには真惚の親友である栗江くりえあんが居た。丸テーブルの椅子に座り、お茶をすすっている。そこには奈々も一緒だ。

「ここには魔法少女が集められてるんだよ」

 杏の代わりに奈々が答える。

「そうよ。真惚ちゃん。杏ちゃんは真惚ちゃんのことが心配で魔法少女になったのよ」

「どういうことですか?」

「真惚ちゃんの元気がないから心配で私のところに相談しに来たの。それで話しちゃった。魔法少女のこと、夢見る力のこと、魔物のこと、寄生虫のこと、全部。そしたら、真惚ちゃんの力になりたいって言うから、不本意ながらも変態小動物に杏ちゃんを魔法少女にしてもらったの」

「そうだったんですね」

「まーちゃんたら塞ぎ込んじゃって心配したんだよ」

「ごめん。でもどうしたらいいかわからなくて……だけどもう大丈夫! 元気だよ」

「いいよ。別に。それで呼ばれた理由、聞いてる?」

「ううん。今後の話をするとしか聞いてない」

「どうやら、集まったようですね」

 透き通るような美しい声音が魔法少女たちに話かける。今後のことを話すようだ。

「トウマ。ありがとうございます。真惚様、どうぞお座り下さい」

 杖を待ち中性的な美しい顔立ちをした美女が奈々や杏の座る丸テーブルの椅子に座り、真惚に席に着くよう促す。驚くことに背丈は真惚と変わらない。

「はい。それで……あなたは?」

「私は女神です。名をへーべーと申します。使い魔のトウマが大変、失礼をしているようですね。まずはお詫び申し上げます」

 へーべーは軽く頭を下げた。凛々りりしさを感じさせどこか安心感がある。オーラから女神であることに信憑性しんぴょうせいを感じる。

「いえ、そんなこと……ありますね」

「もう。まーちゃん!」

「だって~」

「だってじゃないでしょ」

 奈々が咳払いして話を進めるよう促す。

「それで話とはどういったことでしょうか」

「そうですね。まずは魔物が夢見る力を集めているのはご存じですよね?」

「はい。魔物は夢見る力を喰らい生命を維持していると聞いてます」

「その力を貯蔵している場所がわかりました。そこは奴らのアジトです。アジトに潜入しどうか夢見る力を取り戻してきてください」

「いったいどこに?」

「場所は森の中です。トウマの瞬間移動でアジトまで行き、警備に見つからない様、力を取り戻してください」

「ちょっと待ってください」

 話を聞いていた杏がへーべーに質問をする。

「魔法少女は3人だけですか?」

「確かに3人って少なくない?」

 浮かない顔をしながらへーべーはその疑問に答えた。

「魔法少女は全国であなたたち3人だけです。古来より魔法少女は世間に認められた仕事ではありません。いくら魔物を倒そうともいくら夢見る力を取り戻せたとしても報酬はでません。にもかかわらず、生活するのは衣食住が必要になります。それらにはお金が必要です」

「でも魔法でなんとかならないのですか?」

「魔法で作った衣食住は幻です。時間が経てば摂った栄養は消え失せる。服も、家も消える。キツネやタヌキが化けるようなものです。長くはもちません」

「魔法で作る衣食住は意味ないんですね」

「そうです。さらに言いますと魔法少女になる理由は人それぞれです。なんとなく魔法を使ってみたい。本物の衣装を着てみたい。望みを叶えたら皆、普段の生活に戻ります。あなたたちも叶えたい望みがあるから魔法少女になったのでしょ」

 へーべーの問いかけに3人の魔法少女は杏、奈々、真惚の順で答えていく。

「そうですね。私はまーちゃんの元気がないからその原因を知り解決するためになりました」

「私は父が資産家で、夢見る力は経済を豊かにするために必要です。経済が豊かになれば父の懐も豊かに、私の懐も豊かになります」

「私は最初、なんとなく魔法少女になりたいと思ってました。けど、魔物のこと、夢見る力のこと、寄生虫のこと、を聞いてそれがお兄ちゃんの夢を奪ってたことが許せない。だから、もう奪わせたくない」

「皆さんそれぞれ魔法少女を続ける理由があるようですね。しかし、それも望みが叶えたら? 魔法少女をしてても叶わないと知ったら? それでも続けますか? 続けられますか? いつまでも魔法少女でいることは危険です。魔法少女は夢見る力が膨大で魔物に狙われる対象となります」

 へーべーの問いかけに答える者はいなかった。しばらくの沈黙のあと、へーべーは話を続ける。

「真惚様」

「……はい」

「お兄様の夢見る力は取り戻せるかもしれません」

「……!」

「魔物が消費する夢見る力はそこまで多くも早くもありません。にもかかわらず、貯蔵している夢見る力は膨大です。十年以内に奪われた分は取り戻せることでしょう」

「そうなんですか? やった!」

「ただ、危険を伴います。それでもやってくれますか?」

「もちろん。やります」

 杏が溜息をついて言葉を漏らす。

「まーちゃんはいつからお兄ちゃん大好きっこになったの?」

「大好き⁉ そんなんじゃないよ。お兄ちゃんに酷いことする相手を懲らしめたいと思うのは普通でしょ? あーちゃんも草太さんに同じことされたら黙っていられないと思うよ」

「いや、私は別にどうでもいいんだけど……まぁそれは置いといて、まーちゃんが行くなら私も行くよ」

 真惚は頬を膨らませて顔で「別に好きじゃないもん」と抗議している。そんな真惚を置いて話を進める。

「奈々様はどうしますか?」

「もちろん。行きますよ。夢見る力を取り戻して懐が豊かに、真惚ちゃんと杏ちゃんの可愛い姿も見れて一石二鳥。断る理由がありません」

「ありがとうございます。皆様さえよければ今からでもお願いしたいのですが、どうでしょうか?」

 3人はお互いに顔を見合わせる。ただ一人、浮かない顔をしている。

「もう戻って来れないのかもしれないんですよね?」

「そうです。だからこそ、強制することはできません」

「なら、少しだけ待ってもらえますか?」

「なに? お兄ちゃんに行ってらっしゃいのキスでもしてくるの?」

「そんなんじゃない!」

「あら、真惚ちゃんの口づけなんて……私にもして欲しいわ」

「だから、そんなんじゃありません! ただ……一言だけ……行ってきますって言うだけ……」

「わかりました。トウマ! お願いします」

「任せて」

 変態小動物のトウマが瞬間移動しようとしたのを真惚が止める。

「待って! 家に行く前に寄りたいところがあるの」

「寄りたいところ?」

「うん。百円ショップ!」


「ただいま!」

 真惚はリビングへと向かう。そこには真守が受験勉強をしていた。両親は買い物に出かけているのか留守だ。

「真惚か。おかえり。もう用事は済んだのか?」

「ううん。まだ……」

「用事が済んでないのに帰ってくるなんて忘れ物か?」

「……お兄ちゃん! これ!」

「なんだ? これ?」

「青いバラを押し花にして栞を作ったの。これで受験頑張って!」

「こんなに⁉」

 真惚が渡した栞は十数枚あった。それを受け取った真守は困惑している。

「そう! 各教科の教科書、問題集、参考書に使えるでしょ⁉」

「そりゃ……そうだけど……栞にすると多く感じるな」

「私の愛情がたっぷり詰まってるんだからちゃんと使ってよね!」

「おう! ありがたく頂こう」

 愛情といった表現に引っ掛かるものを感じつつも真守は真惚の勢いに押されて力ずよく返事をした。百円ショップで杏にも語った知識を真惚は話す。

「青いバラには夢かなうっていう花言葉があるの。これで夢を叶えて」

「おう! 任せろ! これで合格間違いなしだな!」

「うん!」

 真守は受験の成功を祈ってのことだと感じていたが、真惚の意図はそうではない。

 兄にはプロ野球選手を目指して欲しい。

 真守の本心ではなりたいと真惚は信じてる。なれると。やっていけると。成し遂げられると。

 だからこそ、兄である真守の夢見る力を取り戻しに真惚が動く。

「それじゃ、行ってきます!」

 今まで見せたことのない満面の笑顔を真惚は真守に向けた。呆気に取られた真守はその笑みに答える。

「いってらっしゃい」

 玄関へと向かって行き再度、出掛けるのかと思われた。ところが、真惚は真守がいるリビングに戻ってきた。

「あ! そうだ! いい忘れてた」

「なんだ?」

「お兄ちゃん、奈々先輩のところに行ってたでしょ?」

 真守はなぜバレたのかという疑問とあんなことしていた恥ずかしさから出来るだけ平静に答える。

「そりゃ、同じ部活に所属してたマネージャーに会いに行くことだってあるだろ?」

「そうじゃなくって!」

 真惚は真守が座るソファに近づき、両膝をつく。正座の体勢をとる。

「……? なんだよ?」

 ソファに座る真守よりも低いところから視線を送る。そらすを繰り返す。恥ずかしさからか頬を赤らませて小声で言った。

「ありがとう」

 その言葉を聞き取れたのか真守まで顔を赤くして恥ずかしくなる。

「それじゃ、今度こそ行ってきます!」

 恥ずかしさに耐えられなくなったように真守には見えた。

「……おう」


「準備はいいですか?」

「はい!」

 女神へーべーの元に真惚は戻った。杏と奈々は時間を持て余していたようだ。杏は料理本を読んで今晩の夕飯なににしようかな? といった様子。奈々はそんな杏の様子をかわいいわ~とチラ見しつつ、プロ野球チアリーダーカードを凝視している。余裕があるように見える。

「あーちゃん!」

「まーちゃん! もういいの?」

「うん! あーちゃんはいいの? 家族に一言だけでも声かけて来ればいいのに」

「私はいいの! 父さんも母さんも忙しいし。兄さんに言うことでもないからね」

「そうなの?」

「そうなの!」

「ところでさ……」

「本が逆さになってるけど、読めるの?」

「……え?」

 余裕があるように振舞っていただけで杏は不安でいっぱいだった。それを知られてしまったのかと焦る。顔を赤くしてそっぽを向いた状態で肯定する。今の杏にとって、精一杯に平静を装る姿だった。

「そう。たくさん本を読んでるから逆さでも読めるようになったの! すごいでしょ!」

「そうなの⁉ すごい!」

「そうでしょ! そうでしょ!」

「奈々先輩はいいんですか?」

「私の家族も忙しくしてるし。まともに会話できるような状態ではないから大丈夫よ」

「そういうものなんですか?」

「そういうものよ」

 コーヒーを啜りながら奈々は答える。その手に持つコーヒーカップは震えている。中身はこぼれそうでこぼれない。

 コーヒーもコーヒーカップもへーべーが魔法で作ったものだ。栄養にはならないが、香りや味は楽しむことができる。

「皆様、準備はよろしいでしょうか?」

「はい!」

「……え……ええ……いいですよ?」

「……も……もちろん……いいわよ?」

 真惚の決心は固まっているようだったが、杏と奈々は浮かない顔をしている。その理由は真惚とへーべーの背後に迫る者を気にしていたからだ。だが、背後に迫る者に真惚とへーべーが気づいていない。

「うん! よろしくないね!」

「そうですね。よろしくないですね。それでは少しお話を……」

「わしのことを忘れてはいないかね?」

 口調こそ老婆を連想させられるが、幼い人間の姿をしている。

 真惚よりも小さく小学校低学年にしか見えない。体格通りにツインテールを垂らしている。

 幼い姿に反して、左目は眼帯を付けており、数々の困難を乗り越えてきたという威圧感がある。うっかり下手なことを言うとボロ雑巾のようにされそうだ。

「誰ですか?」

「ワシはセドナ。海の管理をしている女神じゃ。ワシが飯野真惚という者に話があるとへーべーには話しておったのだが……よもや忘れていたわけではあるまいな」

「だって! あなたが絡むと面倒なんですもん! 帰ってはくれませんか!」

 今までへーべーは綺麗な言葉づかいをしていた。だが、セドナが現れると子供のような口調をしだした。

「真惚様は渡しませんよ!」

「ちょんとワシの話を聞いておったのか? ワシが欲しいのはその真惚という者が飼っているシロイルカじゃ。勘違いしないでもらいたい!」

「へ⁉ シロイルカ? バニラのこと?」

 セドナはどこから話せばいいのかと呆れつつ、経緯を語る。

「そうじゃ! あやつはワシの大切な友でのぉ~。人間に捕まり、醜態しゅうたいさらされておると聞いたのじゃ。人形に姿を変え、ワシが購入しようとしておったのに……邪魔しおって! だが、大人しく返して――」

「返さないよ!」

「なん……だと……! お主、誰に向かって口答えをしておる」

 セドナは威圧感を高めた。膨大なエネルギーがセドナに集まり、技を繰り出さんとする。それに対抗すべく、真惚は魔法少女に変身する。変身すると当然のようにバニラが現れる。その姿を見たセドナは威圧感を抑えた。

「……? セドナ? 久しぶりだね」

 バニラの姿を確かに感じたセドナは殺意を剥き出しにした瞳を優しい瞳へと変えた。

「我が友よ……元気そうでなによりじゃ。さあ! ワシのところへ戻っておいで~」

「……セドナ……」

「どうした? 我が友よ。迷う必要はなかろう?」

 重い沈黙が流れる。

 真惚、杏、奈々、はどうしたのかと戸惑っている。

 セドナは柔らかい笑みをバニラに向けている。

 へーべーは嘆息してやれやれといった様子。

「悪いね。セドナ。僕は真惚ちゃんと一緒に戦うよ」

 その言葉を受けたセドナは激怒する。

「な・ん・だ・と~」

「トウマ!」

「あいよ」

「へ⁉」

 セドナは真惚とバニラにクジラの潮吹き並みの水圧を放つ。

 へーべーの合図で変態小動物により、セドナの攻撃が当たらない様に真惚を瞬間移動させる。

 真惚は何が起きているのか理解できずにただただ困惑していた。

「邪魔をするな! へーべー!」

「ここは私の敷地よ。人の地で暴れるあなたこそ、めるべきではないかしら?」

「そんなこと、ワシの知ったことではない。よくもワシの友をはべらせてくれたな~」

「人間の世界が危機に瀕しているのですよ」

「そんなもん知らん!」

「バニラは戦力として必要なんです」

「ワシの方が必要にしている。ワシ以上に必要としている者などおらぬ!」

「真惚様とバニラは相性がいいのです。お互いに水の力を宿し、相乗効果で魔物を退治できることでしょう」

「相性だったらワシとの相性だっていい。最高だ。これ以上にない」

 へーべーが説得を試みるもセドナは聞き入れる様子が一向にない。そんなセドナを止めたのは他でもない。

「セドナ! 止めてくれないかな?」

「我が友よ……?」

 大人しくしていたバニラがセドナを睨みつけていた。

「君はそうやって僕の行動を制限しようとする」

「な⁉」

「僕がいつ助けて欲しいと言った⁉」

「しかし――」

「しかしじゃないよ! 僕は別に人間に飼われるのは嫌じゃなかった。海に比べて危険は少ないし、食べ物だって貰える。なにより人間とたわむれるのは楽しい。セドナに海で拘束されるよりも、真惚ちゃんといる方がよっぽど楽しいよ!」

 バニラの言葉でセドナはショックを受けた。攻撃を止め、膝から崩れ落ちる。視線は何もない床へ向けられ、ガックリと項垂うなだれる。その肩にへーべーは手を乗せ一言だけ発する。

「ざまあ」

「がは!」

 とどめを刺した。

 セドナは膨大な水量を体中から流してどこかへ消えてしまう。どうやら海に帰ったようだ。

 空間は水浸しになっている。痕跡こんせきは残ってはいるが、なにもなかったかのようにへーべーは話を戻した。

「さてと、邪魔者が消えたところで魔物退治をお願いします」

「へーべー、ごめん」

「……? なんですか? トウマ」

「それが……魔力の使い過ぎで、しばらく瞬間移動できそうにない」

「………………また今度ですね」

 へーべーがセドナを拒んだ理由を3人は理解した。もう二度と会いたくないとそこにいる皆が感じていた。

「「え⁉」」

 変態小動物の瞬間移動が使えなくなったことによる問題を杏はへーべーに問う。

「あの……私たち帰れるんですか?」

「それについては大丈夫です。この空間を一度、閉じます」

「閉じて大丈夫なんですか?」

「空間を閉じたあとはこちらに来る前に居た場所に転送されます」

「そうなんですね。よかった~」

「戦いは2週間後とします。日本だとちょうど連休がある日です」

 決戦の日はセドナが暴れたことにより、後日となった。

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