第21話 決断
父がお小遣いで買ったプロ野球観戦チケットを貰った
球場は約3万人を収容することができる。人がごった返しており、気を抜いているとすぐに
「たくさん人がいるね」
「そうだな」
「あ! お兄ちゃん! 見て! 球場前にもお店があるよ」
「キッチンカーだな」
「おいしそう。じゅるり」
「ご飯は後だ。先にグッズ見に行こうぜ」
「そうだね」
2人ともリュックサックを背負っている。購入したグッズを入れておくためだ。
入場口で受付を済まし、球場内へと入っていく。
試合開始前であるためか。グッズや飲食店を見て回っている人が多くいた。
2人はまっすぐグッズ売り場へと向かう。
「なに買ったらいいのかな?」
「基本はユニフォーム、帽子、カンフーバットーー」
「カンフーバット?」
「これだ!」
売り場にあるカンフーバットを手に取り説明する。
「バッドの形をしたのが2つあって、紐で繋がっている。長いのと短いのがあるぞ」
「ふーん。んー」
長いのと短いのを手に取ってどちらにするか真惚は決める。
「短いのにしよう。あとは……これかわいい」
真惚が手に取ったのは
「ユニフォームの代わりにこれ
そんな感じでグッズを購入した。真守はユニフォーム、帽子、長い方のカンフーバット。真惚は法被、短い方のカンフーバット、さらにラクルトイメージキャラがプリントされたハンドタオルを2枚。1枚は親友へのお土産用だ。
購入した法被を早々に羽織った真惚は真守に見せた。
「えへへ、どう? 惚れ直した?」
「いや……元々惚れてないし」
ブーと頬を膨らませて抗議する。
「でも……」
「……?」
「似合ってるぞ」
「えへへ」
欲しいグッズを手に入れたところで次はご飯を買うため、一通りお店を見て回る。見て回る際、球場内に光の玉を見つけた。
「あ!」
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
真惚は光の玉を見なかったことにした。ただ、頭の中は魔物との戦い。
今もなお魔物が夢見る力を人々から奪っている。気にしないようにしていたが球場にいる何人かの背中に寄生虫がいるのが見える。寄生虫は夢見る力が強い人にしか見えない。魔法少女である真惚には見えるが、一般人には見えない。
見たくない光景だ。
考え事をしていること、お店に注意が向いていることで、真惚は真守と
辺りを見回しても真守の姿はない。だが、慌てることはない。
「逸れても大丈夫!」
ポケットに入れていたチケットを取り出す。チケットを持っている右手を高々と上げた。
すると、どこからともなく風が吹き、チケットが飛んでいく。
「待ってー」
両手を精一杯伸ばし、真惚はチケットを掴もうとする。
ひらひらと花びらが舞うような軽やかを感じさせる。
真惚の周囲にいる人々はまるで蝶々を追いかける少女を見ているかのように見惚れていた。
次第にチケットは飛び疲れたのか高度を下げた。『あーもういいや……疲れた』そんな声が聞こえてきそうだ。
誰かがチケットを掴む。掴んだチケットを真惚に渡した。
「すみません。ありがとうございます。え⁉」
チケットを掴んでくれた彼女を見て、真惚は驚いた。
「奈々先輩⁉」
「こんにちは……いえ、こんばんは……かしら?」
「なんでここにいるんですか?」
「なんでって? これでも野球部のマネージャーよ。プロ野球観戦に来ていてもおかしくないはずだけど……?」
「そういえば、そうでしたね」
「その様子だと元気になったのかしら?」
「え? ……はい!」
「そう。心配だったのよ。真惚ちゃんのお兄さんやお友達の杏ちゃんに真惚ちゃんの元気がないって私のところに相談しに来ていたんだから」
「え⁉ お兄ちゃんが? あーちゃんも?」
「……いいお兄さんやお友達を持ったわね。真惚ちゃんは愛されているのね」
奈々の右手が真惚の頬に優しく触れる。
「小さくてかわいいし……私の愛も受け取って欲しいわ」
真惚は断るのと同時に奈々の手を振り払う。
「それは遠慮します」
「釣れないわね。残念……」
奈々はかわいい女の子が大好きだ。魔法少女をしているのもかわいい女の子を守りたい。遊びたい。触れ合いたい。とにかく堪能したいと考えているからだ。
「真惚ちゃんの席はどこかしら?」
「外野席です」
「残念。私は内野席よ」
身を
「それじゃ、またどこかで会いましょう」
「はい!」
チケットを失くさずに持っていたため、真守と真惚は席で落ち合うことができた。真惚が着いた時にはすでに真守がおり、
「ちょっと! かわいい妹と人混みで逸れたっていうのに……なに吞気にご飯たべてるの?」
「おう! 真惚! 開始に間に合ったな!」
「間に合ったな! じゃないよ! 少しは心配してよ!」
「あー、心配だった! 心配だった! 心配しすぎてご飯しか喉を通らない」
ほら見ろ! と言わんばかりに500mlのペットボトルを掲げる。
「いや、それをいうならご飯も喉を通らないでしょ? というかちゃんと水分も摂って!」
席に座り真守が持っているペットボトルを手に取り蓋を開けた。
「ほら! 飲ませてあげるから」
「いや、自分で飲むからいいよ」
「なにー、私の酒が飲めないのか」
「いや、酒じゃないし。おいしそうなお酒がたくさん売ってるけど、飲める年齢じゃないから……」
「飲めるようになったら、おいしいお酒を飲ましてよ」
「いや……俺、お酒を作れないし。作れるようになろうとも思わないのだが……」
「そうじゃなくて…………まぁいいや……」
プロになり活躍しておいしいお酒を飲まして欲しいという意味だったのだが、真守には通じなかった。
買ってきた夕飯を真惚は食べようとする。購入したのはヤンニョムチーズチキンだ。
牛乳、チーズ、バニラ、といった乳製品が好きで普段からよく食べる。鶏肉とチーズを同時に食べるなんてどんな味がするのかと興味を持った。
「なに買ったんだ?」
「ヤンニョムチーズチキン」
「あー、あの辛いやつか」
「……辛いの?」
真惚の手が止まる。辛いのは得意ではない。食べれなくはないが、
「肉だけなら辛い。だが、チーズを付ければまろやかになっておいしいぞ」
パク! モグモグ!
「……本当だ! おいしい」
そうこうしているうちに、試合が始まる。2人はご飯を食べ終え、カンフーバットを構えた。ラクルト対野人の試合。応援するのはラクルトだ。
試合が始まる。すると、観客は立ち上がり、応援歌を歌いだした。バッターボックスに入っている選手や戦況によって応援歌が変わる。
とにかく盛り上がる。2人も釣られて盛り上がる。
1回表ラクルトの攻撃。先頭打者はセンターフライに倒れる。2番は初球をライト線のいい当たりだが切れてファール。打った瞬間は盛り上がるが、ファールだとわかった瞬間に盛り下がる。結局、2番はピッチャー返しでアウト。3番はボテボテのピッチャーゴロ。チェンジ。
1回裏野人の攻撃。ど真ん中の失投を打たれて先頭打者ホームラン。「いきなりかよ」「打たれたか~」といった声が聞こえてくる。2番はショートゴロでアウト。3番は本日、2回目の失投を右中間へ飛んでいく。打ったランナーは2塁でストップ。「ダメダメじゃないか」「いやいや、これから」といった声が聞こえる。4番は左中間へのヒットで2塁ランナーがホームに還ってきて2点目が入る。5番はあっけなくショートゴロのゲッツーでチェンジ。「この回だけで2点取られてしまった。だが、勝負はまだまだこれからだ」
2回表ラクルトの攻撃。4番がライトへの2ベースヒットを打ち、反撃の
2回裏野人の攻撃。ピッチャーの調子がでてきたのか。6番を三振に抑えた。続く7番も三振。次の8番バッターも三振で抑える。かと思いきやライト前にヒットを打たれてしまった。続く9番のピッチャーにも打たれ、ランナーは2、3塁のピンチだ。勝ち越されてしまうのではないかとひやひやとしたが、1番をセカンドライナーで抑えチェンジ。
3回表ラクルトの攻撃。3番からの打順。3番はショートゴロで倒れる。前の打席で2ベースヒットを打った4番に期待が掛けられたが、セカンドフライに倒れた。5番はサードへのショートフライに終えた。チェンジだ。
3回裏野人の攻撃。2番からの打順。2番はセンターフライで倒れた。続く3番に左中間の2ベースヒットを打たれた。ピンチだ。4番は初球を高々とフライを上げ、センターフライで倒れた。5番は粘るも三振。
なかなかいい勝負をしている。どちらが勝ってもおかしくない。
応援しているチームがチャンスだと周囲は歓喜で湧きあがり、逆にピンチになると沈む。チャンスをものにできないと残念がる。意気揚々したと思えば、意気消沈するを繰り返し、見ていて楽しい。
「わ――こんなに盛り上がるんだね」
「そうか。真惚は球場で見るの初めてだったな」
「そうなんだ。お兄ちゃんはお父さんと来てたんだよね」
「まあな!」
真守は胸を張り誇らしげに話した。
「小学校に入学する前からお父さんが職場からチケットを貰う度に来てたぞ」
「それからだよね?」
応援しているチームがチャンスで周囲の人たちが立ち上がり、盛り上がっていたが、真守と真惚は過去の話をしていた。
「プロを目指して、甲子園を目指して、毎日のように練習しだしたのは」
「そうだな。その時は本気でなろうとしてた。なれると思ってた」
「どんな感じだった?」
「……ん?」
「プロや甲子園を目指さないと決めたときどんな気持ちだった?」
「……頭の中に確かなイメージがあった。小中高と部活に明け暮れて、甲子園に出場して、活躍して、プロになる。はっきりとしたイメージが頭の中にあった。でも……」
「……でも?」
「でも、そのイメージが徐々に消えていった。次第にプロになるイメージどころか、甲子園に出場するイメージすら
「……そう思うようになったのは…………お兄ちゃんのせいじゃないよ……」
「ありがとう。真惚にそう言われて目指さなくてもいいんだなって感じる」
「……そうじゃないよ」
「……?」
「……私……行かないと」
「……? どこに行くんだ?」
「……アイス買ってくるね」
「1人で大丈夫か? 一緒に行こうか?」
「大丈夫! お兄ちゃんはここで待ってて!」
真惚は席を立ち歩き出した。お兄ちゃんは悪くない。原因は他にある。
真守はイメージが湧かないと言っていた。だが、真惚にははっきりとしたイメージがあった。魔物を退治して真守がプロで活躍するイメージが湧きあがる。
止まっていた時間が動き出した。一歩一歩、踏みしめて光のある方へと歩みを向ける。
お店を探しまわっていたときに見つけた光の玉の前に着いて拾う。
真惚は両手で光の玉を包み込み呪文を唱える。
「本来あるべきところへ戻りなさい」
光の玉は放つ光を強め天井へと消えていった。
魔法少女特有の匂いを漂わせた。匂いに釣られてやってくる。
「……匂うわね……魔法少女の……
カタカタとヒールの音を立てながら40代そこそこの女性が真惚に近づいてくる。170cmほどの身長だ。人差し指を真惚に向けて要求した。
「……あなたね……夢見る力を差し出しなさい!」
「……悪いけど……負ける気がしないわ! これ以上、奪わせない!」
女性を睨みつけ殺意を剝き出しにした真惚は女性の後ろに若年男性の姿があることに気づく。
「……!」
「……シャーロット? なんだ? この前のガキじゃないか」
「そう。ウィリアムが止めるのも聞かずにあなたが戦いを挑んだ相手よ。あれ、返り討ちに合うとわかっていたから止めたのわかってる?」
「そうなのか⁉」
「そう! でも今なら2対1で……」
夢見る力を奪うことができるとシャーロットが続けようとすると1人の魔法少女が現れた。神迫奈々だ。
「奈々先輩!」
「真惚ちゃん! 覚悟を決めたのね」
「はい! 私はこれ以上、あいつらの好きにはさせたくない!」
「いい目をしてるわ。かわいい。後で抱きしめさせてね」
「それは遠慮します」
真惚と奈々が女の子同士でいちゃついているとシャーロットが割って入ってきた。
「もう勝った気でいるのかしら?」
シャーロットは異空間に真惚、奈々、オーウェン、シャーロットを移動させた。
球場を破壊して夢見る力を無駄に破壊してしまわないためだ。力を付けた魔物なら使うことができる。シャーロットには使えるがオーウェンには使えない。
「さあ……始めましょ」
「ここどこ?」
「異空間よ。そんなことも知らないの? ガキは嫌いなのよね。なんで、なんで、ってうるさいったらありゃしない。オーウェン! 私はあのチビを
「承知した」
「真惚ちゃん。気をつけて……
「大丈夫です。負ける気がしません」
しばらくの沈黙あと、オーウェンが動き出した。
「ダークネスヘイズ!」
オーウェンが右手の平から黒いもやを真惚と奈々の間に放つ。それを避けるため、2人は別々の方向へ避けた。真惚はシロイルカに乗っているため宙に浮いている。奈々は地面を蹴って避けた。
「ファイヤーボール!」
奈々がオーウェンに向けて火の玉を放つ。軽く弾かれてしまう。
「効かぬわ」
「ならこれならどう? ファイヤーブレス!」
右手の平から炎を放つ。それをオーウェンが
「ダークネスヘイズ!」
「ック!」
呪文を唱えるのが間に合わない。左手に光の盾を無詠唱で作る。呪文なしで魔法を使うことができるが、防ぎ切れずに吹き飛ばされてしまう。
「フッ! この程度か」
「オーウェン! 殺してはダメよ。あくまで夢見る力を奪うことが目的なんだから」
「わかっている」
「奈々先輩!」
「あなたの相手は私よ⁉ いちゃつくのは後になさい!」
「いちゃついてません!」
「ダークネスヘイズ!」
右手の平から黒いもやをシャーロットが真惚に向けて放つ。オーウェンよりも数段上の威力だ。それを真惚は瞬間移動でもしているかのような速さで避ける。
「早い!」
シャーロットは真惚を見失った。見渡してもどこにもいない。
「どこ⁉ どこに消えたの?」
「ここよ!」
顕現させた剣をシャーロットに頭上に振り下ろす。ぎりぎりのところで硬化させた腕で防ぐ。防がれたタイミングで真惚はシャーロットととの距離をとる。
「どういうこと? これは? そのシロイルカのせい?」
視線をシロイルカに向け信じられないという形相をシャーロットした。
「シャーロット! なにをしている……ガキ相手に手こずりやがって」
「わかってるわよ! 少し油断しただけ! 私が負けるわけないでしょ」
「ダークネスヘイズ!」
「ウォーターウォール!」
シャーロットの攻撃を防ぐため、真惚は水の壁を作った。それがとても分厚く強大だった。
「なに⁉」
シャーロットの背後に真惚は一瞬で移動し、剣を振りかざす。それを防ぐため、硬化した腕で防ぐ。先ほどと同じだ。
真惚は連続で剣を振り攻撃する。シャーロットは防ぐばかりで防戦一方だ。
次第に息を切らすようになるシャーロット。そんなとき、声が聞こえた。
「真惚? どこまで行ったんだ?」
「お兄ちゃん⁉」
なかなか戻ってこない真惚を心配して真守が探しに来ていた。
異空間にいるとはいえ、現実世界を映像で見ることができる。
「いいもん見っけ!」
そう言ったシャーロットは映像に黒いもやを放ち、真守を捕まえる。
「ん? なんだ?」
突然と現れた黒いもやになすすべなく捕まってしまう。
「お兄ちゃん!」
「なんだ⁉ どこだここ? 真っ暗だ」
真守には魔法少女や魔物が見えない。状況を飲み込めず真守は混乱していた。
ギャーギャーとうるさい真守をうざく感じたシャーロットは不思議な粉をかける。眠りに落ちていく真守を見て真惚は言った。
「お兄ちゃんをどうするつもり?」
「決まっている。夢見る力を奪わせてもらう。加減を間違えて死んでしまうかもしれないわね」
ゆっくりと夢見る力をシャーロットは奪う。
「助けたければ、あなたの夢見る力を差し出すことね」
「卑怯者!」
「卑怯? 私たちだってね生活が懸かってるのよ。いいからサッサと奪われなさい」
「真惚ちゃん?」
「いいぞ! シャーロット! よくやった!」
勝ち誇った顔をしているシャーロットとオーウェン。真守を人質に取られて真惚と奈々は身動きが取れない。為す術がない。
「……わかったわ……好きなだけ奪いなさい……」
「真惚ちゃん……」
「素直でよろしい」
夢見る力を奪うため、黒いもやが真惚に近づく。
もうダメかと思われた。そのとき、奴が現れた。
そいつは一瞬でシャーロットの背後を取り、真守に触れて真惚と奈々の元へ瞬間移動した。真守を真惚は抱きかかえる。
「「変態小動物⁉」」
「その呼び方は止めてくれないかな? ……それにしても奈々ちゃんがついてながらこのざまはなんだい?」
「悪いわね。頼りなくて……」
「おのれ……あともう少しだったのに……」
「許さない! よくもお兄ちゃんに酷いことを!」
「うるさい! どうせお前らは私たちに喰われるのよ。いつかは喰われるんだから今、喰われても同じこと」
「そんなことない! 喰わせはしない!」
真守を抱えていた腕を離し、真惚は魔法を繰り出す。
「ウォーターウェーブ!」
途轍もない水量の波がシャーロットとオーウェンに襲い掛かる。
「なに⁉ この水量⁉ 有り得ない!」
「シャーロット! 一度、引くぞ!」
波が当たる前に2人はアジトへ逃げていった。それと同時に異空間は無くなり、元の世界に戻る。野球球場に戻って来た。
魔法少女を一般人は見ることができない。
厳密には人知を超えた存在であるがゆえに認識することができない。
球場に訪れている人々は真守が一人で倒れているように見えている。生きてるのか? 死んでいるのか? 寝てるのか?
遠目ではわからず近づこうとする人もでてくる。長らくその状態を続けるわけにはいかず、移動する。
「まずいわね。変態小動物!」
「だから、変態小動物って呼ばないでくれるかな?」
変態小動物の瞬間移動で真惚の部屋にやってきた。移動したのは真惚、奈々、真守、変態小動物だ。真守は眠ったまま、真惚と杏は胸を撫で下ろして変身を解いた。
「ふ~。ここまで来れば大丈夫ね」
「よかった」
真守を抱いたまま、真惚は涙を流している。脇にはシロイルカのバニラを置いている。
「真惚ちゃん。ごめんなさい。私の不注意だわ」
「ううん。元はといえば、あんなところで変身した私が悪いんです」
「それにしても、真惚ちゃん! 君はすごい力を持ってるね」
「そうね。私も驚いたわ」
「……そう……ですか?」
「奴らが尻尾を巻いて逃げていったのがないよりの証拠だよ。素晴らしい。その力は真惚ちゃん自身だけでなく、そのシロイルカの力が大きいんだね。そのシロイルカはどうしたんだい?」
「……水族館で買いました」
「売ってたの⁉」
「はい」
シロイルカは全長1mほどある大きなぬいぐるみ。これにそんな力があるのか。見ただけではわからない。
奈々がシロイルカに触れようと手を伸ばすと、見えない壁に阻まれた。
「なに? これ?」
「どうやら、このシロイルカが奈々のことを拒んでいるようだね。変態なのを見透かされたんじゃない?」
「な⁉ そんなわけないでしょ!」
『僕の
「……! 喋った⁉」
正確にはテレパシーを送っている。だが、意思疎通できることには変わりはなく喋っていることと変わらない。
『君たちは真惚ちゃんのなんだい?』
「私は真惚ちゃんの…………愛人よ」
「違うでしょ」
奈々が質問に答えたのを即座に真惚が否定する。
「僕は真惚ちゃんに魔法少女の力を与えた。名はトウマ」
「「名前、あったの⁉」」
変態小動物に名前があったことを知らなかった真惚と杏が驚いた。変態小動物で通じてしまうため、必要としていなかった。
「失敬な! 僕のことを変態小動物。変態小動物。なんて読んでるから忘れるんだよ」
「変態小動物! そもそも、名乗られた記憶がないんだけど……」
「そうだよ! 変態小動物! 人の記憶力に問題があるような言い方しないで!」
「だから、トウマだよ!」
変態小動物もといトウマは嘆息し話を続ける。
「そして、彼女は神迫奈々。真惚ちゃんと同じ魔法少女。愛人ではない」
『敵ではない。ということだね』
「敵ではない。というよりも味方だね」
「そうね」
『よかった。これからも真惚ちゃんをよろしくね』
「任せてよ」
「お安い御用よ」
一区切りついたところで真守を隣の部屋のベッドへ移動した。真惚の隣の部屋は真守の部屋になっている。
その後、解散して今後のことは後日、話すことになった。
喉の渇きを潤すため、真惚は台所に向かう。その際、母親と真惚は出くわす。「あれ? いつ帰ったの?」と聞かれるも「さっき!」と適当に答える。不審がってはいたが、それ以上なにも聞かれなかった。
ちなみにこの日のラクルト対野人の試合は3対2でラクルトが勝利した。8回表に4番がホームランを打ったことが勝負の決め手となった。中継ぎと抑えが貴重な1点を守り抜いたことも大きい。
ラクルトが負け続けていたにも関わらず、真守と真惚が応援した日は勝ったことにより、応援しに行けば勝てるんだと父が言い出した。だが、真惚は「一度見れば十分だよ」と言い父の誘いを受けることはなかった。
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