第17話 遊園地
夏休みということで人が多いことと気温が高いことが相まって暑い。
なぜ遊園地に来ることになったかというと真惚が行きたいといったからだ。
「兄さん、なんであんなことしたの?」
杏が兄の草太に問う。あんなことというのは真惚の食べかけおにぎりを草太が食べたことだ。
「なんでって……あのままだと梅干しがかわいそうだったから……」
「まーちゃんより梅干しの方が大事だっていうの? 信じられない! どんだけ梅干しがすきなの?」
「わかった! わるかったって! 謝るよ」
「まーちゃんに直接いってよ! 今度は遊園地に行くことになったから、そこで謝って!」
「……もう……次の行先が決まってるのか……」
「まーちゃんに聞いたら遊園地に行きたいって。準備しといてよね」
「なんの?」
「謝る準備よ!」
謝る準備とはなにか。草太は土下座かな? なんて考える。一言、謝ればいいよね。
「まーちゃん、本当にごめんね。家のバカ兄が変態なばかりに」
電話越しで杏は何度か真惚に謝っていたのだが、対面でも謝った。
「いいよ。あーちゃん、気にしてないから」
「本当に?」
「本当に」
「よかった。ほら兄さんも謝って!」
「おう。すまなかった」
素っ気なく謝る草太に杏は問う。
「本当に悪いって思ってる?」
「思ってるよ。思いすぎて頭がおかしくなりそうなぐらいだ」
「……そう? ならいいけど……これ以上に頭がおかしくなられても困るから程々にしてね」
一通り謝罪を終え、遊園地を満喫する。
この前いったプールとは違い、今いる遊園地は一通り揃っている。その中で真惚が目当てとしているのがある。
「キャラクターショーが見たい」
一通り揃っているアトラクションの中で真惚が外せないのはキャラクターショーだった。魔法少女アニメが好きで今日はその作品のショーがある。遊園地でショーが行われるほどに人気を博している。
「子どもが見るのだろ? 退屈じゃね?」
「兄さんは別に無理して見なくてもいいのよ」
真惚への謝罪を含めての遊園地なのにも関わらず、草太は本音をぶっちゃける。
「真惚は昔から好きだったもんな」
「うん。マンガ、アニメで見るのもいいけど、ショーも好きなんだ」
真守の言葉を受けて兄はわかってくれてるという嬉しさを真惚は表情にだす。
「
「……そうだな」
キャラクターショーを見ることは決まったが開始まで時間がある。
時間まで他のアトラクションを回ることにした。
回る。回る。コーヒーカップ。遊園地の定番の一つで回しすぎると目も一緒に回ってしまい、まっすぐ歩くことができなくってしまうアトラクションだ。
複数人で回していると手と手が触れてドキドキが止まらなくなってしまう。ただ、そのドキドキがアトラクションに乗っていることによるものだと言うこともできる。そのため、誤魔化しが効く。
「わーい。コーヒーカップだ。回すよ。どんどん回すよ」
「まーちゃん、元気だね」
夏休みで人がたくさんいるのだが、運よく待ち時間なしで乗ることができた。
初めのうちは真惚だけが回していたのだが、勢いが足らないということで4人で回すこととなった。ただ狭い。
「回れ! 回れ! 飛んでいけ!」
「飛んでくのはマズいだろ!」
「えへへ……それにしても狭いね……手と手が当たるよ! お兄ちゃん! ドキドキしない?」
「妹の手が当たってドキドキする兄はいないと思うぞ」
「そんなこと言って! 本当はドキドキしてるくせに」
「そうだな……ドキドキしてる」
「へ?」
真惚は本気で言ってるわけではない。兄と過ごす時間。友達と遊ぶ時間。この時が幸せでテンションがあがったことでの発言だったのだが、兄の真守は妹の手が触れてドキドキすることに同意した。
「本当に?」
「……ああ」
ふたりは兄妹のはずだが、まるで恋人同士のような雰囲気がある。
「コーヒーカップはドキドキするな」
「そっちか」
お化け屋敷には不気味な雰囲気が漂っている。訪れる人々に恐怖を与えて楽しませるための工夫が施される。お化けなんて存在するはずがない。存在を信じていなくとも暗闇の中、確かになにかがいる空間は娯楽として有能だ。
「兄さん、なにかいる?」
「そりゃいるだろ」
「そうだけど……まーちゃんは大丈夫?」
「……だ……だいじょうぶ……」
ガタガタ震えながら、真守に真惚はしがみついている。
怖いのが苦手な真惚だったが、遊園地に来たことでテンションが上がっているため、お化け屋敷に勢いで入ってしまった。
言葉では大丈夫だと言っているが、まったく大丈夫ではない。
「苦手なのになんで入ったんだ?」
「……なんとなく……きょうは……だいじょうぶな……きがしたの……」
足は震えているが前に進むことはできる。ただ、お化け屋敷は黙ってはいない。不気味な笑い声で恐怖を誘う。
不審な物音や不気味な笑い声が聞こえる度、真惚は「え⁉ なに⁉」と足が止まる。なかなか前に進まない。
そんな状態で後ろから肩を掴まれたりしたら、大変なことになる。決して後ろから声を掛けてはならない。突然と触れてはならない。
「おい! 進まないと出られないぞ!」
草太が真惚の肩を無慈悲に掴む。
真惚は走り出した。悲鳴を上げながら駆け出す。出口を求めて突っ走る。脅かす側のはずのお化けは逆に驚いている。
光が見えた。出口だ。真惚は息を切らし呼吸が荒い。
「真惚、大丈夫か?」
お化け屋敷に入ってから出口までずっと一緒にいた真守が真惚に声を掛ける。
こうなる予感がしていた真守が真惚の走る速さに合わせて付いて来ていた。といか、なにかが繋がっている。
「…………ハァハァ……だ……だいじょうぶ……」
「そうか?」
「……そう……それより……」
真守と繋がれていた手を胸の高さまで上げて真惚は言う。
「……えへへ……仲良し♡」
満面の笑みを真守に向けて嬉しそうだ。
「よし! 元気なことはわかった」
「いやーーすまん。すまん。あんなに驚くとは思わなかった」
「もう。兄さん、わざとやってるでしょ」
「わざとじゃねぇよ。手が勝手に動いたんだ」
「なおさら悪いわ!」
「いいって、2人とも気にしてないから、それよりショーが始まるよ」
コーヒーカップ。お化け屋敷。2つのアトラクションを堪能したら、キャラクターショーが始まる時間となっていた。
ステージ前は広場となっており、4人はそこにビニールシートを敷いて座っている。
ステージが見やすいように緩やかな坂となっている。見晴らしがいいが、日射しが痛い。4人は特に気にしてはいないようだ。
真惚は座り方をコロコロと変えモゾモゾとしている。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
「お兄ちゃんはどんな座り方がお好み? 体育座り? 正座? 女の子座り? ねぇ、どれがいい?」
「……ん~、
「……ふーん」
真守の回答を聞いて真惚は胡座をかく。
ステージ側は広場に着いた時点で人で埋め尽くされていた。そのため、広場の中程に座っている。
ショーが始まれば、ステージに観客の視線は向く。真惚の方を見ることはないとは思われる。思われるのだが、もし誰かが後ろを振り向いたら、ステージ側に座ってる人が真惚の方を向いたら、真惚のスカートの中が見えてしまう。
これはいかんと真守は感じる。
「……や……やっぱり、女の子座りがいいなぁ」
「えーーそうなの?」
「そう。そう。まじで女の子座り好き」
それを聞いた真惚はスカートの中が見えてしまう胡座からスカートの中が見えない女の子座りに変えた。
そうこうしているとショーが始まった。
司会のお姉さんが広場の観客に向かって
挨拶を終えそそくさとステージ裏に隠れる。すると
悪者が会場の子供たちの夢を壊すことをアピールしてステージ裏に消える。
魔法少女3人の声が聞こえる。3人がそれぞれ自己紹介をして、ステージに現れた悪者と戦う。
逃げる悪者を追いかけて消える魔法少女3人。
魔法少女3人はステージに戻って来て、悪者を逃したこと、魔法少女だと会場の子供たちにバレたこと、魔法少女であることを秘密にして欲しいことを話す。
魔法少女であるとバレてはいけないことを話し、会場に秘密にして欲しいとお願いする。会場からの返事はない。真惚も「ん? 秘密だったっけ?」という顔をしている。
魔法少女の3人は「ブルーは元々、悪い魔法少女だったんだよね」という話をする。
ブルーは「そうなの! だけど、ピンクのおかげで変われた。本当のお父さんとお母さんに会えたし、子供たちの夢見る力も取り戻せた。ピンク! 本当にありがとう」
いい雰囲気の3人はステージ裏に消える。
悪者がステージに現る。
「子供たちの夢見る力を手に入れたいけど、魔法少女が邪魔だ! …………そうだ! ブルーのこの幼き頃の恥ずかしいアルバムはどうだ? 彼女は元々、私たちの配下だった。幼き頃に誘拐し、育て上げたのだ。にもかかわらず、小娘に奪われてしまった! だが、このアルバムがあればブルーを取り戻すことができる」
悪者は高笑いしている。
魔法少女2人が現れ「見つけた!」と悪者を指す。
「あなたたちの思い通りにはさせないわ!」
ビシッと決め魔法少女2人と悪者1人との戦いが始まる。
やられそうになった悪者が言う。
「ブルー! このアルバムが目に入らない?」
下から覗くようにブルーは悪者が手に持っているアルバムを見る。
「……そ…………それは⁉」
大げさにブルーは驚く。
「ブルー? あれはなに?」
ピンクが怪訝にブルーに問う。
「……あれは…………アルバムよ!」
「アルバム?」
「そう! これはブルーの幼い頃を記録した恥ずかしいアルバムよ!」
悪者は「恥ずかしい」のところをわざとらしく強調した。
それを聞いたピンクは元気に反応する。
「え⁉ 見たい!」
「見ちゃダメ!」
「フフフ……これのアルバムに入っている恥ずかしい写真を会場にバラまかれたくなければ、大人しく言うことを聞きなさい!」
ブルーは
「なにが狙いなの?」
「ブルーよ。私たちのもとに戻りなさい!」
「そんなことさせない!」
ピンクが悪者を阻止しようとする。魔法少女2人と悪者1人がやり取りに夢中になっているとき、悪者の後ろから黄色のなにかがこっそり近づいている。悪者にはバレてない。
「あら? 動かないことね。さもないとこのアルバムがどうなるかわかるわね?」
「そんな!」
「仕方がないわ。ピンク! 今までありがとう。私、行くわ!」
「……そんな…………ブルー!」
「イエローによろしくね」
「そう! そう! イエローによろしく? そういえば1人たらないわね?」
ブルーの「イエローによろしくね」を合図と
「「イエロー!」」
「
「卑怯はどっちよ!」
「もう。許さない!」
「ちゃっちゃと片付けましょ! 時間が押してるわ!」
1人だけ魔法の世界ではなく現実世界にいるのか。終了予定時間が迫ってることを伝える。ショーを終えた後に「なんだ。予定時間すぎてるじゃないか」とクレームが来ないようにしている。
本当にクレームが来るのかはわからない。終了予定時間が過ぎようとしているのかもわからない。
ただ、魔法少女3人と悪者1人の戦いはそこからすぐに終わった。
魔法少女が必殺技を悪者に放つ。悪者はちゃっちゃと退散。
イエローがブルーの幼い頃の恥ずかしいアルバムを見ようとする。見られる前にブルーが阻止する。ピンクとイエローが「見たかったのに」と残念がる。
開始に司会を務めたお姉さんが現れ挨拶をしてショーが終了する。
「遊園地で食べるおにぎり、おいしい」
ショーが終わったあと、真守、真惚、草太、杏の4人が広場で昼食のお弁当を食べていた。
お弁当は杏が持ってきた。おにぎりは塩で味付けがされており、中身は入っていない。
おかずは甘い卵焼き、骨ありスパイシーチキン、梅干しがある。
お弁当を食べながら、午後に回るアトラクションについて話し合う。
「俺はジェットコースターに乗ってみたいんだよな」
真守が実は目当てがあることを伝える。
「乗ってもいいけど、真惚ちゃんは身長制限に引っかからないのか?」
「まーちゃんはそんなに小さくないよ! いくつだと思ってるの?」
「一寸?」
「140cmよ! そもそも大して変わらないじゃない!」
「……草太…………それは人間ではない……
「わかってるよ! それで? どっちに乗るんだ?」
「どっちって?」
「この遊園地には2種類のジェットコースターがあるの。
「一周って、園内をか?」
「ううん」
真守の疑問に対してジェットコースターの説明をしていた杏が首を横に振る。
「こう、縦にグルっと垂直ループするの」
「なるほど! いいな!」
杏が指を空中でなぞりながら説明する。理解した真守は興味を示した。
「まーちゃんはどうする?」
ショーの余韻に浸ってご機嫌だった真惚に杏は話を振る。
「ん? なにが?」
「聞いてなかったのね」
「うん」
真惚は大きく頷き、満面の笑みを見せる。
「ジェットコースターに乗ろうと話してたんだけどまーちゃんは行く?」
「……んーー? 身長制限に引っかからない?」
「140cmで身長制限に引っかかるって、どんだけ危険なジェットコースターなんだよ」
「兄さんは黙ってて!」
「
「身長制限は120cmだから大丈夫だよ」
「ふーん、みんな行くの?」
「俺は行くぞ!」
「
「私はまーちゃんが行くなら」
「……そう……なら行く」
お昼のお弁当を食べたあと、絶叫ジェットコースターへと向かう。
絶叫ジェットコースターへ向かうと列ができていた。30分ほど待つと順番が来た。
真守と真惚、草太と杏、それぞれ隣り合う形で乗り込む。
荷物を足元に置き、安全バーを下げる。ジェットコースターは動き出し、上へ上へと昇っていく。頂上に到達すると次第にスピードが上がり、落ちていく。緩やかな速度のあと、再度スピードを上げ垂直ループする。そのままの速度で進み、気付いた時にはレールを一周して終えた。
「わー! 楽しかった!」
「ジェットコースター、楽しかったな!」
真惚と真守がジェットコースターを楽しかったと話す。対して、草太と杏は好きにはなれなかった。
「……殺人コースターだ」
「……心臓……置いてきたわ……」
ぐったりとベンチに座りしばらく2人は動けそうにない。
「心臓がいくつあっても足らないわ」
「実際に心臓が2つ以上あったら循環器系おかしくなりそうだけどな」
「2つ一緒に体内に入ることはないから移植になりそうね」
「ジェットコースターに乗るたびに移植って……それじゃ本当に殺人コースターだな」
真守と真惚には理解できない会話が草太と杏の間で飛び交う。
普段、こんな会話はしないのだが、ジェットコースターに乗ったことにより、頭がおかしくなってしまったようだ。
「ここでしばらく休んでるから好きに回って来てくれ」
「そうか? なら飲み物でも買ってくるぞ。何がいい?」
「おう。なら炭酸系で頼む」
「私はお茶がいいわ」
「私は……」
「いやいや、真惚も行くぞ。一人じゃ持ちきれん」
「そっか! じゃあ、あーちゃん待っててね」
真守と真惚は飲み物を買いにベンチを離れた。
ベンチに残された草太と杏が何気ない会話をする。
「なんでこの4人で遊ぶようになったんだ?」
「いまさら? ……流れよ。なにも不自然なことじゃないでしょ?」
「そうだな。友達と遊ぶようになるのは流れ以外のなにものでもないよな」
「そうそう。たまたま私とあーちゃんが友達で、兄さんと真守さんが友達だったからこうなったのよ」
「それにしてもあの2人仲いいな」
「そう? 普通でしょ?」
「普通か? プールで抱き合ってたぞ」
「あれはぶつかった拍子に抱き合っただけでそれ以上のことはなにもないはずよ」
「じゃあ、なんでデートに誘ったんだ?」
「……兄さん?」
「……? なんだ?」
「もう知らない!」
「は?」
草太の発言はデリカシーに欠けていた。
杏も草太をデートに誘ったことがある。その誘いを草太は即座に断った。ここでの会話はそのことを杏に思い出させた。
膨れっ面の杏を見た草太は怒っていることを理解した。ただ、なにに怒っているのかはわからなかった。
「どうしたんだよ。急に怒り出して」
「なんでもないよ」
「なに話してるんだ?」
飲み物を持って真守と真惚が戻って来た。
「なにも話してませんよ」
「……? そうだっけ?」
なにやら不穏な空気が漂っていた。草太は気にせず言葉を続ける。
「友達と遊ぶのは楽しいって話してなかったか?」
「確かに話してたわね」
「ねぇねぇ、あーちゃん、これ見て!」
真惚が会話に割って入っていく。その手に紙袋があった。
袋の中に手を突っ込んで1つ摘まんで杏に見せる。かわいらしい笑みが止まらない。
「えへへ、くまさんのカステラだって! かわいいでしょ!」
「へー、かわいい」
「でしょ! でしょ! 一緒に食べよう」
「もう。まーちゃんくっつき過ぎ」
「えへへ、いいじゃん! いいじゃん!」
杏の隣に真惚が座る。2人はベタベタと恋人同士のようにくっつき食べさせあう。不穏な空気はどこかに消え去られていた。
しばらくベンチで休憩したあと、一通りアトラクションを満喫した。
4人は遊園地を後にし、今日はお開きとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます