第11話 チケット
「ただいま」
「おかえり。雨、大丈夫だった? あんた、傘忘れていったでしょ」
真惚は家に帰った。帰って早々、傘を忘れたことを
「大丈夫! あーちゃんの傘に入れてもらったから」
「もう。あーちゃんも大変ね。こう何度もだと」
母は呆れ顔をして真惚を見る。真惚と杏は中学生からの付き合い。中学生時代にもよく真惚は傘を持って行くのを忘れて杏の傘に入れてもらっていた。
「それで、試合はどうだったの?」
「あー、負けたよ。ただ、楽しそうに試合してた」
「そう。雨なのに試合できたのね」
「雨が降ったのは試合が終わってからだから問題なかったよ。それより、お父さんいる?」
「いるわよ。リビングでテレビ見てる」
真惚は母に言われ、リビングをみる。ソファーに横になっている父の姿があった。寝ているのか。テレビを見ているのか。どちらともとれる様子だ。
「ねぇ、お父さん」
「ん?」
父は寝ぼけ顔してる。真惚の方を向いて軽く返事をする。父は体を起こし、ソファーに座ったまま大きく伸びをする。真惚はそんな父の姿を気にせず、続ける。
「プロ野球の観戦チケットって貰えたりする?」
「……ん~あ~あ~」
父は大きくあくびをする。これは真惚の質問に対する答えではなくただのあくびだ。
「ねぇ、聞いてる?」
「ん? プロ野球? 今日あるんだっけ?」
「そうじゃなくて、チケット! 職場から貰えるのかってこと!」
「あ~、貰えることもあるぞ」
「そう。なら欲しいんだけど」
「話はしておくけど、貰えるとは限らないぞ」
「それでいいよ」
「あら、プロ野球を生で見に行きたくなったのね」
会話を聞いていた母が嬉しいような、寂しいような、どっちともつかない顔をして割って入ってきた。
娘が何であれ興味を示す。その姿は母としては嬉しい。だが、その興味の先が野球である。母は野球に興味がなく、自分だけ置いて行かれた気がして寂しい。
「うん。まぁ~ね」
真惚は野球に興味があるわけではない。魔法少女の衣装を手に入れるべく、兄からの愛を感じる必要がある。
嘘をついているという後ろめたい気持ちからひきつった表情を真惚はしてる。本当のことを言ってもいいのだが、両親に話すのは気恥ずかしくて伝えてはいない。
「気にしてるの?」
母の問いに一瞬、真惚はドキッとした。しかし、冷静に返す。
「なにを?」
「女の子なのに野球観戦に興味があること。気にしなくていいんだよ。女の子でも野球が好きだって子はいるんだから」
「うん」
真惚は安堵する。
「ただいま!」
兄が帰ってきた。兄の様子を確認しに母は玄関へと向かう。
「ずぶ濡れじゃない! すぐにシャワー浴びなさい!」
母の言葉を受け、素直にシャワーを浴びに行く。
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