第2話 魔法を試す

 真惚まほが魔法少女となったその日の夜、自室のベッドにて一人で座っている。

 魔法少女になったあの後、小動物からたとえ全裸であっても魔法が使えることを知らされた。

 本当に魔法が使えるのか真惚は試そうとしている。

 すぐにでも試したかったのだが、母が買い物から帰り、夕食の準備を始めたため諦めた。

 母が夕食の準備をしている間に自分の部屋で魔法を試してもよかったのだが、真惚はそうしなかった。

 母が部屋に突然、入ってくることはない。しかし、念のため、夕食後にした。

 一口に魔法といっても色々とある。火、水などを出すのは物騒だし。瞬間移動は全裸では止めざるを得ない。空を飛ぶのは部屋の中では危険だ。

 結局、物を手に触れず動かすことにした。

 小動物から貰ったプラスチックのカバーが付いたボタンを取り出し、カバーを開けてボタンを押す。もちろん部屋の窓にあるカーテンは閉めている。自室のため、誰かに見られる心配はない。

 真惚は全裸になるのは分かっていたが、恥ずかしい。

 早めに終わらせようと思いつつも、動かす物を何にするか決めていなかったことに気づく。

 部屋を見回し動かす物を決めた。そこで真惚は気づいた。

「……で? どうすれば物を動かせるの?」

 魔法を使うにはどうすればいいのか聞いていなかったことに気づく。

 全裸であることの恥ずかしさは消え、代わりに虚しさが残った。

 ボタンを長押しして元の姿に戻ろうかと思いつつ、本棚の上にあるほうきまたがっている人形を見る。すると……


 人形が宙に浮いた。


 魔法少女が箒に跨っていたら、宙に浮くのは当たり前だ。

 そんな一般的なイメージを真惚も持っており、頭の中で浮いている光景を思い描いたことで人形を宙に浮かせることができた。

 頭の中にあるイメージを具現化したという事実を真惚は理解していない。

「なんでかわからないけど、できた!」

 真惚は嬉しそうにしている。全裸で。

「わぁー、ハハハ」

 喜びのあまり舞っている。真惚も人形も舞っている。全裸で。

「私、魔法少女になれた」

 ドアがノックされる。騒ぎすぎたかと思いつつ……

「なに?」

と平静を装い真惚は返事をする。

「デザートあるけど、食べる?」

 ノックしたのは母親だった。

 夕食後、早々に部屋へ向かったため、母は真惚に声が掛けられなかったようだ。

 デザートの準備していたため、今になって声が掛かった。

「食べる!」

 意気揚々に真惚は答えた。真惚は変身を解き、一階に降りる。

 父、母、兄はすでに食べ終わったのか食卓には真惚の分のみプリンが置かれていた。

 プリンが乗っているお皿には苺、さくらんぼ、キュウイ、生クリームとお店に出てきそうなほど豪華だ。

 父、兄はリビングでくつろぎながらテレビを観ている。番組はプロ野球だった。

 真惚はプロ野球に興味はない。

 食器洗いをしている母も興味がない。

 特に興味はないがなんとなく真惚は父と兄に問いかける。

「勝ってる?」

 真惚は父と兄が応援しているチームを知っている。

 そのため、この一言だけで通じてしまう。

「……うん。勝ってるよ」

 勝ってると言っているにも関わらず、父はうれしくなさそうだ。

 即座に続けて父は言う。

「相手が」

 遠回しな言い方を父はしていた。

 結局、応援しているチームは負けている。

 負けが続くと気持ちが落ち込んでしまう。ならいっそのこと勝ってることにすればいい。負けてる事実は変わらないのだが、気休めにはなる。

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