魔法少女は愛を力に変えて夢見る人を救います。

越山明佳

第1話 魔法少女になる

 魔法少女は幼き少女たちの憧れの存在だ。

 可愛い衣装をまとい、可憐かれんかつ勇敢ゆうかんに悪の組織に立ち向かう。なりたい職業ランキングでは常に上位に君臨くんりんするもどうしたらなれるのか。どういった人がなっているのか。いくら調べてもわかるものではない。そんな状況であってもなりたい一心で調べる者が確かにいた。

「ん~。どの本を読んでもどうしたらなれるのかわからないなぁ~」

 小学生に間違われる程に小柄な高校一年生の飯野いいの真惚まほは学校の教室で魔法を舞台にしたファンタジー小説を読んでいた。髪を胸の辺りまでストレートに伸ばしている。甘えん坊な性格で家族や友達にわがままを言うことがある。

「また、小説を読んでるの?」

「うん。どこかに魔法少女になる方法が書いてないかな? と思って」

「もう。書いてあるわけないじゃん。それより、もう放課後だよ。一緒に帰ろう」

 真惚に声をかけたのはクラスメイトの栗江杏くりえあんだ。短髪で、キリっとした目をしている。クールな性格の常識人だ。

 真惚と杏は中学時代からの友達で家が近い。お互いをあだ名で呼び合うほど仲がいい。真惚はまーちゃん、杏はあーちゃん、と呼び合っている。学校から電車を使って約1時間で家に着く。

「ねぇ。あーちゃん。家でアニメ見てかない?」

「ん~。また、魔法少女アニメ?」

「そう」

「今日はめとくよ」

「夕飯の支度もしなきゃだし」

「ふ~ん。大変だね」

 杏の両親はクリニックを経営している。忙しいことを理由に家事はほとんどしない。家政婦を雇おうかと話をしていたことがあった。だが、杏自らが家事をしたいと申し出た。そのため、家政婦を雇わず、杏が家事の大半をしている。

 夕飯の支度をしないといけないのは事実だ。だが、真の理由は別にあった。前に一度は真惚と魔法少女アニメを見たことがあった。その時、杏の感想は何が面白いのかわからない。そんなド直球に親友の好きなものを否定するようなことが言えずにいる。

「それじゃ、また今度! じゃあね」

「うん。じゃあね」

 駅からは真惚の家の方が近い。

 杏は家に入っていく真惚を見送り、自身も家に帰る。真惚の家から5分とかからない。


「準備は順調ですか?」

 玉座に座り、片手に杖を持った美女が問う。美女は中性的な顔立ちで、背筋を伸ばし凛々りりしさを感じさせられる。

「準備は順調に進んでるよ」

 美女からの質問に答えたのは小動物である。毛並みは白く、パッチリとした目が愛らしい。丸っこい耳をしている。

「具体的にはどのような状況ですか?」

「すでに数名から積極的な協力を得てるよ」

「そうですか……わかってますね! 奴らを止めねば世界は。人間の世界は滅んでしまいます」

「わかってるよ。任せてよ」

「ええ。頼みましたよ」

 小動物は姿を消し、任務遂行すべく行動する。

 

 真惚は大好きな魔法少女アニメをリビングでくつろぎながらテレビの画面越しに観ていた。

 今日は平日で学校から帰って来てすぐにテレビをつけ、録画を再生する。

 父は仕事、母は買い物、兄は部活をしており、家には真惚まほが一人だ。

 オープニングが流れ、軽快なリズムに乗りながら真惚はご機嫌である。曲が終わると同時にテレビの画面からなにやら奇妙な生き物が飛び出してきた。

 うさぎのように白く、パッチリとした目が愛らしい。小動物で丸っこい耳をしている。何を言われても可愛らしさにやられてだまされてしまいそうだ。

「君は魔法少女になりたいのかい?」

 テレビの画面から出てきただけでも驚きなのにその小動物はしゃべりだした。

「……へ!? なれるの!?」

 真惚は驚きつつも目をキラキラとさせて興味を示す。

「なれるとも!」

 舞うように小動物はよろこびをあらわにする。

 たった一つしかないボタンが突然あらわれる。ボタンには透明なプラスチックのカバーに覆われており、間違って押せないようになっている。

「……? なにこれ?」

「カバーを外してボタンを押してごらん!」

 真惚はボタンを手に取り、カバーを外す。カバーは落ちてしまうかと思ったら、片側がくっついてる。キャッチしようかと出た手が居場所を失くし恥ずかしくなった。

 恥ずかしさのあまりほおを赤く染める。

「……これを……押せばいいの?」

 動揺しているのかボタンは一つしかないないにもかかわらず問いかけた。

「そうだよ! グイッと押しちゃって!」

 小動物の声に従い、真惚はボタンを押す。

 これで魔法少女になれると真惚は胸を踊らせる。すると……

 ――真惚はになった。

「…………!?」

 顔を真っ赤にさせて真惚は絶句する。屈みこみ恥部を全身で隠した。

「どういうこと!?」

「www笑」

「笑ってないで早く元に戻して!」

「ボタンを長押しすれば元に戻れるよ」

 言われるがまま真惚はボタンを長押しする。

「……ハァ……ハァ(泣)」

 鋭い眼光を小動物に向けて絞殺さんばかりの勢いで真惚は掴みかかろうとする。

 真惚の攻撃を小動物は素早くかわした。

「いやー(笑)ごめん。ごめん(笑)」

 小動物は楽しそうに笑っており、全く悪いと思っているようには見えない。

「忘れてたよ。テレビに出てるような魔法少女になるにはを感じる必要があるんだ!」

「……? なんて?」

「愛さ! 兄からの愛を妹が感じる必要があるんだ!」

 妹は困惑するも、小動物の言葉を信じることにした。

「お兄ちゃんからの愛なんて……どうすればいいの?」

「そんなの知らないよ。自分で考えな!」

「一緒に考えてよ!」

 期待していたのに残念な気持ちを小動物に向けた。そして、小動物はとんでもないことを口走る。

「デートすれば?」

「……は⁉ お兄ちゃんとデートなんて……」

 真惚まほはしばらく考えた。

 兄とは一緒に住んでいるにも関わらず、接することが少なくなっており、寂しい気持ちを真惚まほは抱えている。これが大人になるということなのかと受け入れてはいた。受け入れてはいたのだが、さらに年を重ねて大人になる前に兄との思い出をもう一度、作っておきたいと常々考えている。

 デートしている姿を想像して真惚はほおを赤らめて嬉しそうだ。

 真惚まほの表情を返事と受け取ったのか小動物は勝ち誇った声色で真惚に言う。

「どうやら決まりのようだね!」

 小動物はまるでこうなることがわかっていたかのようだった。

「うん! お兄ちゃんとデートする」

 こうして真惚まほは魔法少女になるため、兄とデートするべく動く。

 なにやら目的がすり替わっているように思えなくもないが、真惚まほは魔法少女の衣装を手に入れるべく兄をデートに誘う。

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