第18話 おっさんとコレオス警備隊長
コレオスから御者が戻って来たのは日が既に高くなってからだった。
小次郎の車に気付き警戒したが、御者とクラウスのお陰で事なきを得た。
先行して到着した騎馬のうち数名が襲撃受けた地点まで辿って行った所、倒された傭兵たちも全員発見されたそうだ。
現在は生き残った盗賊への尋問が行われている。
その様子を眺めながらクラウスを交えての食事を終えて、物件に付いての話をしている所へ檻の付いた馬車と武装した兵を連れてきた。
兵達は手馴れているのか、盗賊達を馬車へ入れると隊長らしき男と少ない言葉を交わした後、傭兵の遺体を回収する班と別れてさっさと街へ戻って行った。
残った隊長らしき男と御者は小次郎達の元へやって来た。
言葉が通じないのでクラウスに任せようと席を外そうとした時、男に声を掛けられた。
『どうぞ、そのままいらして下さい』
男は品の良さそうな顔立ちの中年だ。
年は50歳位だろうか、革の鎧と剣を身に着けている。
聞こえた声はアイリスに掛けてもらう魔法と同じく頭の中に直接伝わって来た。
「あなたも魔法が?」
小次郎は驚いて応えたが、よく考えてみればアイリス以外にも使える者が当然いる筈だった。
驚く小次郎に鷹揚に頷き応える。
『私の名はジョルジュ・ルフトハウゼン、コレオスの街で警備隊の隊長をしている』
と、ジョルジュは言った。
「はじめまして、大平・・・いえ、小次郎・大平と申します」
『先日、ポルテ村における魔物の襲撃を退けたのは君か?』
いきなり先日ポルテ村での戦闘に付いてジョルジュは尋ねてきた。
『見た事も聞いたこともない、馬で牽く事無く走る白く大きな乗り物に乗った男だったと昨日報告が来たのだ。見れば正しく見た事も聞いた事も無い白く大きな乗り物だ』
車を見上げながら言うジョルジュに意外と情報の足は速いんだな、などと思った。
「放って置く事が出来ない状況でしたので」
そう答える小次郎にジョルジュはにやりと笑みを浮かべ『オークを率いたワイルドバーを一太刀で斬り伏せたとも聞いたが?』と続ける。
「車で体当たりをして、動けなくなった所を襲いましたので・・・」
『ふむ・・・実はな、こんな格好をしているが、元は騎士でなぁ強そうな奴がいると気になって仕方が無いのだよ。どうだ、一戦やってみないか?』
腰に下げた剣を叩きながら、人懐っこい笑顔を浮かべて言った。
強い相手と戦いたいと言う思いは小次郎にも解るが、仕事中にこんな事していいのだろうかと正直思わないでもない。
「激しく打ち合っても怪我をしないで済む稽古用の剣でならお受けしますが、真剣でと言うのでしたらお断りします」
生活の拠点も無くこれから生活費を稼がなければならない小次郎にしてみれば、怪我をする可能性は少しでも減らしておきたい。
『なに?そんな便利な剣があるのか』
そんな小次郎の思いを他所に、ジョルジュは食い付いて来た。
車から袋竹刀を持ち出して渡すと、ジョルジュは手にとって不思議そうに眺めた後、ブンブンと振り回してから会心の笑みを浮かべた。
『確かに、これならば大怪我をすることはないが、少し軽すぎんかなっ!』
言うと同時にジョルジュは小次郎に打ち掛かった。
半身を切って竹刀をやり過ごした小次郎はすっとジョルジュの脇下に竹刀を当てるとそのままするりと通り過ぎた。
「あくまで稽古用ですので、上級者になると木刀を使います。技術が未熟な者が木刀を使えば大怪我をしかねません。ですが、これなら打ち身などは出来るかもしれませんが、大怪我する事は避ける事ができます」
そう答え、正眼に構えた。
ジョルジュは一瞬何が起きたか解らない様子でいたが、満面の笑みを浮かべて打ち掛かってきた。
小次郎の頭目掛けて真っ向から打ち落とされた竹刀は、遅れて振られた小次郎の竹刀によって逸らされ逆に打ち込まれた。
袈裟に打ち込んだと思えば防御した筈の小次郎は既におらず、横から首筋に打ち込まれる。
突きを入れたと思えばいつの間にか地面に転がされていた。
時間にして30分ほど打ち合ったジョルジュは地面に体を放り出していた。
何度も打たれ投げられ、転がされたジョルジュの息は荒れていたが顔は笑っていた。
「満足頂けましたか?」
汗も掻かずに言った小次郎に目を向けたジョルジュは
『ああ、大満足だ!ここまで徹底的にやられたのは子供の時以来だよ』
ジョルジュは息を切らせながらも嬉しそうに答えた。
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