第19話 おっさんコレオスの街へ行く
小次郎はコレオスの街へクラウスを護衛し、送り届ける事になった。
道中、ジョルジュから剣技について質問攻めに遭い閉口したが退屈はしなかった。
街の入り口では相変わらず警戒されたが、街の警備隊長が同行しているので咎められる事無く街に入ることが出来た事にほっとした。
コレオスの街は活気が有り多くの人々でにぎわってる。
クラウスの商館に到着した小次郎はその立派な建物を前に少し気圧されていた。
商館は石造りの建物で、高さだけなら5階建て位は有りそうだ。
1階は受付と馬車止めや倉庫が有り、通常なら2階が有りそうな部分まで吹き抜けだ。
「でかいな」
思わず呟いた。
小次郎の呟きに『クラウス殿はこの国でも有数の商会経営者だからな、ここは本店だから大きいのも当然さ』と、ジョルジュは笑いながら言った。
商館のさらに奥にある建物へ通された小次郎はリビングルームと応接室を兼ねた様な大きな部屋へ案内された。
クラウスの指示でメイドの格好をした女性達が淀み無い動きで飲み物を運んでくる。
その間にクラウスは部下と思われる男性数名に次々と指示を出している。
『さて、コジロウ・オオヒラ様…この度は命をお救い頂き誠に有難うございました。改めて、お礼申し上げます』
そう言うとクラウスは深く頭を下げた。
「偶々近くに居たから助けられたに過ぎません。それよりも奥様が急病で急ぎ戻られたと聞きました。私の事は後回しで構いませんので、奥様の所へお急ぎ下さい」
『有難いお申し出ですがそれには及びません』
クラウスを気遣って言った小次郎だったが断られてしまった。
急病ならばさぞ気を揉んで居る事だろうと思っていたのだが、クラウスは笑顔を浮かべている。
すると、メイドを連れた女性が部屋へ入ってきた。
女性は小次郎達に一礼した後、席の中央にあるテーブルにランプのような物を置いた。
『ジョルジュ様、アイリス様、もう魔法を解いて頂いても大丈夫ですよ』と、クラウスは言った。
『このランプは魔道具で、言葉が通じない異国の商人たちと商談するのに使っています。これがあれば魔法が使えない我々でも言葉を交わすことが出来るようになるのです』
『さて、ご紹介が遅くなりましたがこれが私の妻です』
クラウスが言うと女性は『クラウスの妻ニィーナと申します』と一礼してからクラウスの隣に座った。
「ご病気と聞きましたが?」小次郎は思ったことを率直に口にした。
『どうやら嘘の情報だったようです、恐らく・・・私を呼び出す為の』
真剣な顔になったクラウスはそう答えた。
『では、暗殺…若しくは誘拐が目的だったという事か、クラウス殿は命拾いしましたな』
ジョルジュが言うと
『まさしく、腕一本折る程度で済みました。オオヒラ様のお陰です』
クラウスは再び頭を下げた。
「そう何度も頭を下げないで下さい、なんだか尻の辺りがむず痒くなる」
そう言うとクラウスとジョルジュは同時に笑い出し、釣られてニィーナも笑い出した。
『オオヒラ様は変わった方ですな、こういう時はもう少し恩着せがましく偉そうにしても良いと思いますよ』
にこやかにクラウスは言った。
当の小次郎は元居た世界では除者に近い扱いを受けていたので、どうもこう云う事には慣れておらず居心地が悪かった。
「私の居た国では非常に学問が進んでいまして、体に頼る技術職の者は低い扱いを受けるのです。
私程度の中途半端な者は特にね。
ですから、ちょっとした事でいい気になっているとすぐに嫌がらせを受けたり仕事の邪魔をされたりと…そういう事が多かったので」
小次郎が答えるとクラウスとジョルジュは顔を見合わせて意外そうな顔をした。
『手に職を持つ事の何がいけないのです?技術を身に付けていれば何処でもやっていけるでしょう』
そうクラウスが言うと小次郎以外の全員が頷いた。
「私の国では紙の上で全て処理することで仕事が出来る人が多く居たのです。
決してそれが悪い訳ではないのでしょうが、学問が進んでいますので産業も機械化された部分が多く良い製品よりもまあまあな品質で、より多くの製品を作る事の方が商売として良いという傾向になっていたのです。
そんな時代が数十年続いていましたので、良い物と悪い物の区別が付く人が少なくなり品質の悪い安物が多く出回った事も相まって職人が食べて行けずに困窮する事態が起きていました。
特に私が学んだ刀鍛冶の技術は戦争が60年近くない事や剣や槍に代わる兵器の開発が大幅に進んだ事に因り非常に貧しい暮らしをしている人が殆どでした」
小次郎が日本の現状を語ると何とも暗い雰囲気になった。
マズいと思った小次郎は何とか話を変えようと目に付いたテーブルのランプに付いて尋ねた。
「所で、このランプは多く出回っている物なのですか?私はここの国の言葉をまだ話せないので、こういった物を購入した方が良いかと思うのですが」
『この魔道具はご覧頂くとお解かりになると思いますが、火を灯す部分に宝石が有りこれに魔力が込められている事によって効果を発揮しています。宝石自体は大きな物ではありませんが、それなりに高価な物ですから制作は受注製産になります』
つまりは、すぐには買えないと云う事か。
「手にとって見ても」と聞くと『どうぞ』と言われたので手にとってまじまじと見てみる。
通常火が灯る部分に固定されている宝石の周りに炎が纏わり付くようにして淡い光を放っていた。
「この宝石は、エメラルドでしょうか…」
淡く輝く宝石は透明な緑色で周りに同じく緑の炎を纏っている。
『はい、オオヒラ様は宝石の知識がお有りになるのですか?仰るとおり中の宝石はエメラルドです』
クラウスは宝石の名前を当てた事に少々驚いたように答えた。
「友人の家が宝石の問屋をしているのが居たので、詳しい訳ではないけど多少の知識は有ります」
小次郎の答えにクラウスは驚きと感心が混ざった唸りを上げた。
「インクルージョンが結構有る様に見えますが、石自体はそんなに上質な物でなくても良いんですね」
『インクルー?何でしょうそれは』
「ああ、済みません。石の中に見える不純物や傷の事です。私の国ではこれが無く透明度が高いほど価値が有ったので」
『成程、それに付いてはこちらも同じです。ですが、この程度の簡単な魔法に用いる魔道具では十分過ぎる石なのですよ』
そう答えるクラウスに小次郎は銀物のアクセサリーと別で箱に入れっぱなしの人工宝石やガラス製ジュエリーがあるのを思い出していた。
「クラウスさん、宝石って扱っておられますか?」
『え?……はい、扱っております。オオヒラ様は宝石類をお持ちなのですか?』
「ええ、私の国では宝石を人工的に作る技術が既に確立していましたから結構な量を積んでいると思うのですが見て頂くことは出来ますか?」
『ぇえっ?』
『何だと!』
クラウスとジョルジュはほぼ同時に驚きの声を上げた。
見ればアイリスもニィーナさんも驚愕と言った表情を浮かべていた。
あ~やべっ、やっちまったかな。
何しろ中古の人工ダイヤ…ジルコニアとかなら数十カラットの大きさで数百円とかだし、2mm位のやつなんて中古の流れ物なら1000個入って1500円しないんだもんよ、気軽に言ってしまったがそりゃそうだよな、科学が発達してなけりゃ理解する事すら不可能な話しだ。
「まあ、見て頂くのが一番ですね…家をお貸し頂くのにも換金をしなければいけないので多少買取をして頂こうかと思っていましたし、誰か手伝って下さる人を貸してもらえますか?」
そう言うと小次郎は建物の外に止めた車へ向かった。
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