第6話 魔物の襲撃
村長と話を終え、部屋を出ると俯いたアイリスが立っていた。
ワンピースの裾を両手でぎゅっと握り、床を見つめている。
「聞いていたのか」
『私があまり離れてしまうと魔法の効果が切れてしまいますから・・・』
「そうか、済まない・・・君への配慮が足りなかった」
『いいえ・・・助けて頂き、さらに村まで送って頂いて・・・何もお返しが出来ない私の身まで案じて下さいました、それだけで私は・・・』
床を濡らしながら震える少女にどうしたら良いのか迷ったが、思い付く言葉も無くただ頭を撫でる事しか出来なかった。
少しして、落ち着きを取り戻したアイリスの家に案内された。
『何も有りませんが精一杯のおもてなしをさせて下さい』
そう言うとアイリスは夕食の準備に取り掛かった。
アイリスは慣れた手つきで準備を進める、その後姿を眺めながら
あ~こんな幼な妻貰えたら最高だよな・・・。
などと不謹慎な事を考えていた。
『大平様?どうかしましたか』
幼な妻とキャッキャうふふな生活の白昼夢から呼び戻された小次郎は慌てて言った。
「あ、ああっ、車にっに荷物を取りに行きたいのだが良いか?」
『はい、まだ出来上がるまで時間が有りますので、暗くなる前にはお戻り下さいね』
妄想を見咎められた様な気がして小次郎は適当な理由を付けて家を後にした。
「さてと」
後部座席と荷室いっぱいに詰め込んであるダンボールから商品になりそうな物を探す。
ダンボールにはそれぞれ、どの様な商品が入っているのかが判る様にマジックで大きく中身が書いてある。
銀物のアクセとか小物はシルバー925だし純銀扱いになるかな・・・。
安い磁器のセットも行けるんじゃないか?
段ボール箱を引っ張り出して中を確認する。
うん、ショボいけど、溶かせば銀だし価値はあるだろう。
日本円はニッケルと白銅だから無理だよな・・・。
バイクの部品やアパレル系は無視して、すぐに取り出せそうな所にある換金率の高そうなものを探した。
「ま、こんなもんかな。 あとは、俺の装備だな」
こんな世界に来てしまったのだ、多少は武装をしていないと危険だろうと思い昼間使った刀ともう一振、さらに角帯と棒手裏剣の包みも取り出した。
売るつもりで積んでいた革ジャンと革パンツ、ライダーブーツも取り出す。
装備はこんな所かな、ヘルメットは視界が悪くなるしな・・・革グローブはどこかに入れてあったかな?
外が薄暗くなってきたので、取り出した段ボール箱を持ってアイリスの家へと戻った。
「戻りましたよっと」3段積みの段ボール箱を抱えて家に入ると良い匂いがしていた。
『お帰りなさい、どうしたんですか?そんなに荷物を抱えて』
「ああ、ちょっと色々とね、すぐに使えそうな物を出してきたんだ」
『そうですか、夕食の準備はもうすぐ終わりますのでテーブルに着いてお待ち下さい。』
そう促されるままに小次郎はテーブルに着いた。
「食事はいつもこんな感じなのか?」小次郎は聞かずに入られなかった。
薄いが味は悪くない、だが少々物足りない・・・と言うか足りない。
ジャガイモっぽい物とベーコンが入ったスープ、目玉焼きに固いパンと野菜に塩を振ったサラダのみだった。
大食漢である小次郎にはとてもではないが満足出来るような量ではなかった。
精一杯のおもてなしをすると言ってこれだと言う事は相等貧しいんだな・・・とてもお代わりとか言えん。
『あの、足りませんでしたか?』
そっとアイリスは自分のパンを差し出して来た。
その姿に小次郎は自分を恥じた。
「アイリス、有難いが君の食べ物を奪ってまで自分の腹を満たそうとは思わない」
『ですが、命の恩人でお客様です、おもてなしをすると言って置きながら満足に料理も出せないなんて』
「心は満足している。だからそんな済まなそうな顔をしないでくれ。所で、教えて欲しい事があるんだ」
暗くなった雰囲気を変えようと小次郎はわざとらしい事は承知で違う話を振った。
「私はこの辺りに不慣れなんだ、この国でのお金の価値が全く解らない。 貨幣がどの様になっているかを教えて欲しい」
『はい、ここエルン王国では銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の順で価値が上がっていきます』
アイリスによると、銅貨4000枚=大銅貨40枚=銀貨16枚=大銀貨4枚=金貨1枚、金貨4枚=大金貨となるらしい。
「なるほど、銅貨何枚有れば街で食事が出来る?」
『普通の食事でしたら銅貨30枚から40枚位だと思います』
「ふむ・・・」イマイチ良く解らん、銅貨1枚10円と同じような考えか?
「1年働かずに暮らすには最低でも幾ら必要かな?」
『1年・・・ですか? 私達のような暮らしでしたら金貨10枚で一家3人がなんとか食べて行けると思います。 街で暮らす場合は金貨15枚は必要だと思います』
「そうか、ありがとう」
夕食後、する事も無くのんびりとした時間が流れる中、小次郎は生活に必要な知識をアイリスから吸収した。
夜も更けてそろそろ寝ようとした時、激しく叩かれる鐘の音が響いた。
『ひっ』
「おっ、火事か?」
『まっ魔物が襲ってきた合図です』
「魔物が?」
『協会に逃げます、準備しましょう』
「戦わないのか?」
『私のような女子供は足手纏いになります、ですから協会に籠り魔物が居なくなるのを待つんです』
「なるほど、だが俺はただ隠れて敵が去るのを待つってのは性に合わんな」
そう言うと角帯を腰に巻き締め、刀を差し込み手裏剣の包みを懐に入れた。
「さて、古流武術と日本刀がこの世界で通用するか試してみるとしますかね」
死ぬかもしれないと言う恐怖よりも今まで積み上げて来た技術がどれ程の物か試す機会が訪れた事に小次郎は興奮していた。
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