第5話 孤児の行く末

森を抜け丘をいくつか越えて暫く進むと遠くに建物らしき物が見えた。


「アイリス、あれが君の住んでる村か?」


『はい、あれがポルテ村です』


なんか、鳩の人が居そうな名前だな・・・。


そんな事を考えていると村の入り口が見えてきた。

入り口の辺りには数人の村人らしき姿が見える、槍や鋤を持って集まっているようだ。


「人が集まってるみたいだけど、今日は村で何かあるのか?」


『え、特にそういう話は聞いていません』


「ちょっと、物々しい感じだが」


『この辺りは魔物の襲撃が頻繁に起こるんです、もしかしたら近くに魔物現れたのかも知れません』


いや・・・こっち指差してるし、違うんじゃね?


そうこう言っている内に入り口に着いてしまった。


「ほら、鋤をこっちに向けてるぞ、大丈夫か?」


『私が出て行けば解って貰えると思いますので、大丈夫だと思いますが』


「じゃあ、サンルーフ開けるから顔出して声掛けてみな」


そう言いながらサンルーフを操作した。



村は物々しい雰囲気に包まれていた。

近くの森で魔物の集団を見掛けたとの報告が有ったからだ。

10匹以上のオークが移動していたらしい。

頻繁に魔物の襲撃を受けるこの辺りでもそれは珍しい事だった。

通常なら数匹、10匹単位など今までに無い集団が居たの言うのだ。

被害を恐れて村の周りに人を配置し、警戒していた時それはやって来た。


「おい、何だあれは」


村のい入り口に立っていた一人が叫んだ。

その声に警戒中の村人達が振り向き、入り口に向かって来る白い大きな塊に目を奪われた。


「魔物か?」


「ドロドロって変な音がしてるな」


「おい、村長を呼んで来いっ」


村人達が警戒を強める中、白い塊は村の入り口の前で停止した。

村長が慌てて駆けつけ、警戒中の若者に声を掛ける。


「どうした、魔物か?」


「村長、あれを見てください」


村長は目を見張った。

それは見た事の無い代物だった。

「ゴクリ」と固唾を飲んだその時、白い塊の中から見覚えのある顔がひょこっと飛び出した。


村に入った小次郎はアイリスを通訳に事情を説明していた。


『街で売る筈だった商品も奪われず、持ち帰ってくれたのでお礼を出すと言っています』


「そうか、それは助かる」


何しろこの辺りで使える金を持っている筈も無く、無一文状態なのだから。


『お礼は明日お渡しするそうです、魔物が近くに居るかもしれないので今日は家に泊まって下さい』


「そうか、ありがとう。所でアイリス、君はこれからどうするんだ?村の人達が面倒を見てくれるのか?それに、君の御父上の葬儀と埋葬もしなければなれないだろう」


『それは・・・』


「言い難い事か?」


『・・・・・・。』


「ふむ・・・所でアイリス、君が使ってくれた魔法で村長さんと話が出来るようには出来ないか?ちょっと詳しく話がしたんだが」


『はい・・・それは出来ますが』


「では、すまないが頼む」


そう言うとアイリスはまた歌うように言葉を紡いた。


「村長殿、私の言葉がわかりますか?」


『はい、聞こえております』


「礼を頂ける事をまずは感謝致します」


『いえ、こちらの方こそ助かりました。あれが奪われていたら暫くの間、村は収入を得る事が出来無くなる所でした。この子の父親は残念な事になりましたが、商品が戻ったのはせめてもの救いです』


「そうですか・・・所で、アイリスは今後どの様な扱いになるでしょうか、孤児となってしまった様ですし、誰かが村で引き取り面倒を見て貰えるのでしょうか」


『それは・・・』


村長はアイリスに目を向けると『アイリス、済まないが席を外して貰えないだろうか』と言った。

アイリスが席を外して暫く黙っていた村長は大きく溜め息を付き話し出した。


『この貧しい村で子供を余分に養うだけの余裕はありません。さらに、あの子の親は村に対して借金があるのです。そして、何よりエルフ族との間に生まれた子だ。私は差別する気は無いが、村には快く思わない物が居る事も事実です』


「では、どうするおつもりなのですか?」


『借金の件もあります、奴隷として売るしかないと思っております。エルフの血筋故でしょうが、幼く見えてもあの子は来年16歳、もう成人です』


おいおい、ちょっと待て。奴隷?金が有るなら俺が買いたいわ!


「奴隷・・・ですか、数年掛けて返済させると言う訳には行きませんか?」


『保障が有りません、どの道この村で少女が稼げる金額はたかが知れています。街に出て稼ぐしかないのです、短期間でそれなりの金額を稼ぐ、そうなれば自ずと道は限られます。』


「だったら、売ってしまったほうが良いと?」


『はい・・・犯罪奴隷ではありませんし、年季が明ければ自由の身にもなれます。奴隷とは言え少ないですが賃金も出ますから』


「残債はどの位あるのですか?」


『あなた様が肩代わりして引き取って下さるので?』


「いや、期待させたら申し訳ないが私は今無一文なのだ。だが、車に商品を幾つか積んでいる、こちらではあまり見ない物も有るだろう、物によっては高額になるのではと思ったのです」


『それは・・・見て見ないとなんとも言えませんが』


「明日、明るくなってからで良いので一度見て下さいますか?」


『はい、見知らぬ者に金で売られるより、命の恩人に引き取られるならあの子もどれだけ救われる事でしょう』


そう言って村長は頭を下げた。


「村長殿、まだ価値があるかどうかも判らないのです、まずは明日見て頂いてからです」


そう言って小次郎は席を後にした。

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