第4話 村への道
馬車を牽きながら森を進む。
森といっても道は確保されていて、枝が車体に当たる様な事も無い。
それなりに道として整備されているようで薄暗い印象も無かった。
アイリスからこの辺りの情報や身の上を聞きいていた。
もう1時間も走っているだろうか。
『森に薬草を摘みに行った時、魔物に襲われたんです。母は私や他の子供達を庇って・・・』
「じゃあ、お母さんが亡くなられてからはずっとお父さんと2人で?」
『はい・・・この辺りの村はどこも暮らしはあまり良くありません、それでも父は私に精一杯の事をしてくれました』
と言う事は、この子は孤児になってしまうのか。
アイリスによると、ここはノール大陸にあるエルンと言う国らしい。
エルンの王領北部に当たるこの辺は森が多く主に林業と農業で成り立っているらしい。
道が有る程度整備されているのは木材を運搬する為か・・・。
等と考えていると、「く~」と音がした。
アイリスを見ると目が合った瞬間、真っ赤になって俯いた。
うーん、かわいいな!
「お腹すいたのか?」
『ご、ごめんなさい、朝から何も食べていないので。。。』
車を止め、後部座席の足元からビニール袋を引っ張り出してアイリスに渡した。
「パンとか色々入ってるから好きなの食べな、飲み物もあるから」
『えっでも、これは大平様の。。。』
「いつも多めに買ってるから気にしないでいい、子供なんだから変に遠慮するな」
『はい、ありがとうございます』
ゴソゴソと袋の中を探っている。
『あの、これは何でしょうか?』
「ん?」アイリスに目をやるとおにぎりを持って不思議そうにしている。
「ああ、これはおにぎりだ」
『おにぎり、ですか』
「米を握ってまとめた物だよ」
『こめ?ですか・・・こめってなんですか?』
だよな・・・米って言って解る訳ないよな。
「米とは麦みたいな物だよ、水を張った畑で育てる穀物で、水に漬けてから炊いて食べるんだ」
『れは大平様のお国の食べ物なのですか?』
「そうだよ、俺が住んでいる・・・いや、住んでいた国の主要農産物で主食だ、食べてみるか?」
『はい、ではこのおにぎりを頂きます』
「貸してごらん、開けてあげるから」
そう言ってアイリスの手からおにぎりのパックを取りラップを剥いで渡した。
「おにぎりをひとつ食べたらこの黄色い沢庵をひとつ食べるんだ、これは少し甘い漬物だよ」
『はい、頂きます』そう言うと一つ目を食べ始めた。
ゆくりと噛締める様にしててべている・・・すると、とても愛らしい笑顔を向け言った。
『すごくおいしいですっ、中に何か入っていました、お魚ですか?』
まだ目元は涙で腫れているが、まるで彼女の周りに花が咲いたかの様な感覚に捉われた。
まだ幼さの残る笑顔に可憐と言う言葉はまさしくこういう子に言うのだろうなと感じた。
その笑顔にドキドキしながら「中に入っているのは鮭と言う魚でサーモンとも呼ばれている」と答えた。
一つ目のおにぎりを食べ終えると言ったとおりに沢庵へ手を伸ばす。
「ポリポリ」と沢庵を食べる姿が小動物を連想させる。
う~ん、かわいい。
「飲み物がないと喉が詰まるだろ、お茶も飲みな」
そう言ってビニール袋からお茶のペットボトルを取り出し、蓋を開けて差し出す。
『ありがとうございます、頂きます』
うんうん、中々礼儀正しくていい子だ、クソ生意気な最近のガキ共とは大違いだ。
『ああ・・・この飲み物とおにぎりは凄く合います、とてもさっぱりした味でなんと言ったら言いのでしょうか、とてもおいしいです』
「お茶とおにぎりのセットは王道だからな、お茶の入れ物はそこのドリンクホルダーに入れとくといい」
『ドリンクホルダーですか?』
「ああ、目の前にある小さい机みたいなのに開いてる穴だ、そこに入れておけば走っていても零れたりしないで済む」
『は~、この穴はその為の物だったのですね、』
そう言ってアイリスはドリンクホルダーにペットボトルを差し込んだ。
うれしそうに2つ目のおにぎりを食べ始めた時、アイリスの表情が急変した。
『んぅ、ん~~~~っ』
「おい、どうしたっ」
『ん~~~~』
目をきつく閉じ、手足をパタパタさせている。
喉にでも詰まったのか?
あせりながらお茶を取って口元に持って行ってやると慌ててお茶を飲む。
『ふ~っ』
「どうした、喉に詰まったのか?」
『あ、いいえおにぎりの中がさっきのお魚ではなく、なんだか違う物が入っていたんです』
ああっ梅干か、そう言えば外国人が始めて梅干を食べると凄い反応をするって聞いたことがあるな。
「それはな、梅干って言うんだ」
『うめぼし・・・ですか、なんだかお酢みたいで塩みたいで今まで口にした事が無い凄い味でした』
「ぶははっ、梅の実を塩漬けにして干した物だよ、凄く保存が利くんだ」
『そうなのですか・・・』
「どうする?たべられそう?無理なら俺が食べるから無理しなくていいよ?」
むしろ譲って下さい、お願いします。
『ですが・・・一度口を付けてしまった物です、食べ物を頂いて置きながら失礼では・・・』
「気にするな、サンドイッチもあるからそれにしたらどうだ?これなら多分大丈夫だと思うぞ?」
願いです、譲って下さい、お願いします、お願いします。
心の中で土下座をしている俺がいた。
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