第7話 魔物の襲撃2

大平小次郎は関東地方の内陸部に程近い都市に生まれた。

建設業を営む両親のお陰で生活レベルは中の中位、特に不自由なく育った。

中学生位から武道や武術に興味を持ち稽古に熱中した。


高校に上がりバイクに興味を持ち、乗る事よりもエンジンなどの機械に強い興味を覚え技術と知識を吸収した。

それによって学校の成績は見るも無残な物となったが、建設業の世界を幼い頃から見続けている小次郎に学歴はあまり意味の無い物だった。

勿論、大学には進めず浪人するが勉強は興味が無く、武道以外はバイクや車を弄り倒していた。


その頃には形骸化して命のやり取りを忘れ、ポイントの取り合いに明け暮れる武道から興味が失せ、より実践的な古武術の世界に深く嵌っていた。

日本刀にも強い興味を示し、刀匠の下へと通い詰め通い弟子の扱いでの入門を許された。


それから数年に渡り修行を続けたが、実家が不況の煽りを受け倒産してしまう。運悪く、その頃現場作業中に事故で腰を痛めて手術が必要な程に体を壊してしまった。

刀匠認可の受験費用と旅費も工面出来ず、刀匠としての独立の道を閉ざされたが希望を捨てられず、現在まで10数年修行を続けていた。


今まで居た世界では日本刀は美術品で武器ではない等と言い、本来の目的を忘れ下品な刀が流行っているが、この世界ならば本物の良さを解って貰えるかもしれない。

そう思わずにはいられないのだった。



家から外に出た小次郎は辺りを見回した。

村の出入り口には男達が集まり出している。


「アイリス、君は協会に行きなさい」


『大平様』


「大丈夫、君を助けた様に車で蹴散らす事も出来る、さあっ早く」


『だったらお傍にいさせて下さい』


小次郎は少し考えて「よし、なら車に急ごう」アイリスの手を取り車へ走った。

アイリスを抱きかかえ助手席に乗せると、自身も運転席に乗り込みエンジンを掛ける。


「シートベルトを締めて、これを被っときな」


フルフェイスのヘルメットを渡し被らせる。


「魔物を撥ねる時に強い衝撃が有るかも知れない、前にある握りをしっかり掴んでいなさい」


そう言うと村の出入り口に向かいアクセルを踏んだ。


村の出入り口では男達がそれぞれ武器や農具を持ち迫り来る魔物を待ち構えていた。

数人が弓を打ち放っている。


「アイリス、村の人達に入り口を開けてくれるように言ってくれ、突撃して少しでも数を減らすと」


『はい』


アイリスが窓から声を掛け、入り口を明けて貰っていると村長が駆け寄って来た。


『大平様、どうなさるお積りです』


「村長殿、これより私が魔物に突撃を行い蹴散らします。村の人達は村への侵入阻止と動けなくなった魔物を仕留める事に専念して下さい」


『しかし、あの様にに多くの魔物をお1人で相手にするなど無謀です』


「まあ、見ていて下さい」


そう言い残し村の外に出た小次郎は全ての灯火を点灯し、魔物の群れに突入した。


「しっかり掴まっていろよ、突っ込むぞ!」


魔物の群れに突入した小次郎は無慈悲に魔物達を撥ね飛ばす。

一撃では死なず起き上がる魔物もいるが、車体に巻き込まれた魔物は激しく変形し無残な姿を晒す。

数回に渡り突撃した事によって魔物の群れは最早集団とは呼べない程に目減りした。


『あれは!』


アイリスが1匹の魔物を見て叫んだ。


「どうした」


『あの魔物は・・・お母さんが殺された時に村を襲った魔物と同じワイルドバーです』


「どいつだ」


『左側に居た色が違う魔物です。あの時は村の人達総出で戦いましたが逃げられたんです。片目が潰れていますし、間違いありません。』


「よし、仇を討つぞ!」


イノシシ型の魔物の正面に回り込んだ。

目が眩む強い灯火の照射を浴びてもイノシシ型の魔物は怯む事無く突進してきた。


「いくぞ!しっかり掴まってろ」


アクセルを目一杯踏み込みフル加速で魔物に向かう。

魔物と接触した瞬間激しい衝撃が小次郎とアイリスを襲った。


「ん゛、おっ」

『きゃあああっ』


100キロ近くまで加速した車体が急ブレーキを掛けた様に減速した。

魔物は激しく地面に打ち付けられながら転がった。


村人達はまるで夢でも見ているかのようだった。

魔物の群れに突入した異人が操る乗り物が次々と魔物を弾き飛ばして行くのだ。

群れはあっという間に散り散りになる。

逃げつつある魔物も容赦なく追いかけて弾き飛ばし踏み潰す。

あっという間に魔物の群れは壊滅状態になった。


「あの、ワイルドバーを一撃で・・・」


ブタ頭の魔物、オークを率いたイノシシ頭の魔物、ワイルドバーは村人総出どころか、町の兵士10人で取り囲んでも倒せるかどうか怪しい強力な魔物だった。


「おい、まだ動いてるやつが居るぞっ止めを刺せ」


熱に浮かされたように村人達は一斉に必死にもがく魔物に襲い掛かった。

村人達が死に切れず、もがく魔物に集団で襲い掛かるのを確認した小次郎はイノシシ型の魔物の傍に車を止めた。

魔物は四肢が折れて立ち上がる事が出来ないがまだ息は有り、戦意は失っていない様だった。


「ぐおぉ、首が痛てぇ、アイリス大丈夫か?」


『うう、なんとか・・・しっかり掴まって居ましたし、貸して頂いたこれのお陰で』アイリスはヘルメットを指差しながら答えた。


「アイリス、君は車の中に居なさい」返事を待たず刀を手に小次郎を車から飛び出すと鞘を払った。


「刀がお前らに通用するか試させて貰うぞ」


八双に構えた小次郎はもがく魔物に奇声を上げて走り寄り、一撃を入れた。

刀はまるで紙を切るかの如く深々と魔物の体を切り裂いた。

飛び退って刀を構え直し、絶命したのを確認した小次郎は辺りを見回し、近くに倒れている魔物を探し次々と止めを刺していった。

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