第19話 還ったあの人、忘れられた物語

 草木も眠る丑満時、行方知れずだった三人の青年も無事に見つかり、五人の青年が揃って眠る病室に音もなく何者かが現れた。扉が開いた様子はなく、ただ本当にそこへ突然現れたように見えたそれは、五つあるうちの一つのベットに近づくと、ベットサイドの机の上にあるノートを覗き込んだ。そこには以下のことが記されていた。


[還魂者 藤枝 柊一郎

生年月日 一八八一年

死亡 一九〇二年(時期詳細は不明)

作品『星月夜』(詩集)

  『花梢』(恋愛小説)

  『桜木の武士』(歴史小説)

  『月隠』(怪奇小説)]


 そしてなにを思ったのか徐にそのノートを優しく一撫ですると、満足気にふわりと微笑み現れた時と同様に突然姿を消した。

 いつのまにか件のノートの上にはほのかに光る1枚の柊の葉と、藤の房が一房横たわっている。空に輝くまぁるい月だけが、その贈り主を知っていた。

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忘れられた物語 幽宮影人 @nki

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