第18話 保護者会と迷子のアイツら

「なぁ蒸し返すようで悪いんだが今回のえっと、藤枝さんだっけ。あの人と本ってどうなったんだ?」

 夕食を終え、二人きりになってから目覚めた時と同じように佐野は中垣内に尋ねた。残りの三人は外の空気を吸いに行ってくるといって数分前から姿を消している。

「藤枝さんは恐らく成仏したよ。この世に戻ってきた魂は成仏するか、私のような者が強制的に祓うか、『彼方人』に取り込まれるかの三択なんだが、基本的に彼等は自身の事を思い出してもらえたら満足して成仏してくれる。まぁ思い出してもらってもこの世に残ろうとする『人』が時々いるんだが、そういった場合は容赦なく祓っているな。誰にも思い出されなかった『人』はやがて『彼方人』に飲み込まれる。そしてその『人』自身もただの人喰いのバケモノになってしまうんだ。あ、ちなみに本は思い出されたとしても、一度消えてしまったらもう戻れない。そのまま忘れられた物として消える。」

「……そうか。あ、そういえばどうして中垣内はあの時に本のことを思い出せたんだ?」

「私の一族は昔からこの『書籍が消失する』という現象に関わっているらしくてな、ある時に対抗策が生み出されたらしいんだ。それの詳しい内容までは知らされてないんだが、その対抗策を埋め込まれるんだ。産まれた時に」

「対抗策?」

「あぁ。呪いみたいなものだ」

「……まじ?」

「まじだ」

「……」

 予想だにしなかった中垣内の答えに佐野は開いた口がしばらく塞がらなかった。中垣内の口から『呪い』という言葉が出たことと、そんなものを扱っている者がこんな令和の時代にもいたのだな、という二重の驚きによって。

「まぁ信じられないかもしれないだろうがな。だが今回はそれのおかげで助かった。基本『魂現書』に捕われたらほとんどの場合助からないんだからな」

「そっか……」

 目が覚めてからというもの色々と衝撃的な事実を突きつけられてきた佐野は放心気味にそう言った。そうして今までは話をするために起こしていた上半身からふっと力を抜くと、背中から勢いよくベッドに倒れ込んだ。いきなり倒れた友人に中垣内は「大丈夫か⁉︎」と焦ったように声を上げた。

「中垣内、ありがとうな」

 礼を言うにしては些か失礼な格好だが佐野は中垣内に向かって言った。

「?」

 心配をして声をかけた友人に、いきなり礼を言われた中垣内は何のことか分からずぽかんとした顔をしている

「いや、お前がいなかったら俺達、もれなく死んでたかもしれないから」

 そう言って佐野はゆっくりと上半身を起こした。

「いやいや、礼を言うのは私の方だよ! 皆がいなかったらあんなにたくさんのヒントを得られなかっただろうし、それこそ出ることなんてできなかったよ」

「じゃあお互い様ってことで」

「あぁ、そうだな」

 やがて知りたかったことを知れた佐野は満足そうに笑った。話がこじれることなくなんとかまとまった中垣内も、ほっとしたかのように笑みを浮かべている。

「そういえばあいつらどこに行ったんだ?」

 それからふと思い出したのか今は病室にいない三人のことを佐野は口にした。

「そういえばそうだな。『外の空気を吸ってくる』とは言ってたんだが……」

 中垣内も佐野に言われて三人のことを思い出し不安になったのか、その声には心配するような色が見えた。

「迎えに、というか探しに行くか?」

「そうだな。迷子になっているかもしれないしな」

 佐野の提案にすんなり中垣内はのった。が、佐野は聞こえた不穏な言葉にぴたりと動きを止めた。

「……お宅の二人はもしかして方向音痴か?」

「……もしそうだと言ったら?」

「残念ながら俺のとこもそうなんだよ。スリーアウト、だな」

 二人はそう言って乾いた笑いを病室に響かせた。が、すぐにそれどころではないと病室を勢いよく飛び出した。頼むからこの院内にいてくれよ、心中でそんなことを思いながら。

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