第15話 思い出した
「優成は月のない大きな平安風の屋敷。佐野は森と崖。英はレトロな街と木のある公園。太一は雪と月と星」
全員から話を聞き終えた中垣内は、先ほど聞いた話をまとめるかのようにそう呟いた。
「そして私は柊」
それから自身の体験を加えて呟くと、顎に片手を添えて何かを考え込み始めた。
「俺たちはきちんと話したぞ。そっちもいい加減……」
そんな様子をしばらくじっと眺めていた四人だったが、やがて痺れを切らした佐野が先程のように少々荒く言葉を口にした。が、それも中垣内の焦った声に遮られて最後まで言葉になることは叶わなかった。
「待ってくれ、もう少しなんだ。もう少しでここから出られるかもしれないんだ」
唐突に中垣内の口から語られた朗報に四人は驚き、そして瞳を輝かせた。
月の無い夜、大きな屋敷、池、平安風
陰鬱な森、その先の急な崖
レトロな街並み、公園
月、星、雪
四人がやったと声を光らせる中、中垣内だけはひたすら上の言葉を順繰りに呟いていた。
「大丈夫ですか、中垣内さん」
瞳を閉じ、眉を潜めて唸る中垣内を見かねたのか、『柊さん』はそっと彼に声をかけた。
「あぁ、はい。大丈夫で……」
わざわざ声をかけてくれたのだから返事くらいはきちんとしようと、中垣内は思案をするために閉じていた瞳を開けた。そこには声をかけてくれた『柊さん』がいた訳だが、彼はその『柊さん』を見た途端はっとしたような顔をして、結局ままならない返事をしてしまった。
「柊と藤……」
彼の、中垣内の視線の先には確かに『柊さん』がいた。美しい藤の花が描かれている着物を纏った『柊さん』が。
「『
中垣内が嬉々としてそれらを口にした。瞬間あたりに突風が巻き起こった。強すぎる風に全員が目を閉じ、風が収まるのを待っていると、風に乗ってどこからか甘く優しい香りと「ありがとう」と言う声がした気がした。五人はそれを機にまたもや意識を失った。
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