第12話 バケモノと、友人と
奥村、二柏、萩原は恐怖に支配されたかのようにその場から動けなかった。その間にもバケモノは彼らとの距離を縮めてくる。対し、いち早くバケモノの出現に気付いた佐野はこう言ったことに慣れているのか、それとも強がっているだけなのか、いつものように三人に話しかけた。
「三人ともアレがやばい奴だってのは分かるな? ……よし、なら逃げるぞ。考えたくもないが、おそらくアレに捕まれば最期だ」
佐野が冷静でいてくれてよかった。さもなくばおそらく誰も助からなかっただろう。
「行けるか?」
冷静で、それでいて優しく諭すかのように語りかけてくる佐野の声に、三人は徐々に冷静さを取り戻し、そうして佐野の問いかけにコクリと頷いた。バケモノはもう直ぐそこまで近づいてきている。
「よし、なら行くぞ」
そう言って佐野は先頭切ってバケモノとは反対の方向に走り出した。本人もどこへ向かって走っているのかは分からないが、取り敢えずアレから逃げようと必死になった。それに続くように萩原と二柏も駆け出した。体力に自身のない二人であったがそんな悠長なことも言っていられない。とにかく駆けた。最後に走り始めたのは、この状況に最も順応できていない奥村だった。
奥村の頭は未だ先程の化け物のことで埋め尽くされている。「なんなんだアレは」「イヤだ、怖い」「逃げなきゃ」。抜け切らない恐怖に奥村の足は何度も縺れそうになった。だが、「捕まれば最期」と言った佐野の声もしかと頭に残っている。
なんとしても走らなければ。
「あっ」
しかし気持ちだけが焦った奥村は、遂に自身の足に躓き、白い雪の中へと盛大にダイブした。
「……太一!」
奥村の悲鳴のような声を聞きつけた二柏は、振り返り目に入った友人の姿に大きな声をあげた。先を走っていた佐野と萩原も二柏の声に足を止めて振り返ったが、奥村の後ろに見えるモノに顔を恐怖に染めた。
「太一!」
「太一クン、後ろ!」
雪から起き上がり、奥村がゆっくりと振り向いたそこにはいつに間にかあのバケモノが悠然と立っていた。
目の前のモノに途方もない恐怖を感じる。黒くて、大きくて、輪郭がおぼろげな、人じゃないモノ。どんな形とも言い表せないモノ。
あぁ、オレはもうここで終わりなのかな。
「ごめん、みんな……」
誰にともなく謝った奥村は、恐怖から来る涙をつうと一滴、頬に滴らせると、次に訪れるであろう衝撃に備えギュッと目を閉じた。三人は口々に奥村の名前を叫んでいる。誰がみても彼はもう助からない、そう思った時だった。奥村と二柏が古くから聞き親しんだ懐かしい声が、冬の冷たい空気を裂いて、雪よりも凛として響き渡った。
「そいつに触れるな!」
絶望の淵に立たされていた四人の前に、どこかで聞いたことのあるようなセリフを口にしながら現れたのは、今の今まで誰も姿を見ていなかった中垣内だった。
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