第5話 チビとつり目とのんびり屋
中垣内と長身の二人が行ってしまい、残されている三人は特にすることもなく、カウンターの近くで二人の帰りを待っていたのだが、暇を持て余したのかやがてそのうちの一人が声を発した。
「オレ、一年一組の
そう言って奥村は人懐っこい笑顔を浮かべた。この年にしては少し足りないような身長も相まって、どこか小型犬を彷彿とさせる少年……いや青年だ。しかし青年と言うには声も些か高く、違和感があるように思われる。
「ボクは三組の萩原優成だよ。よろしくね〜」
萩原も中垣内にした時と同じように自己紹介をした。相変わらずのんびりとした話し方である。
「ほら、
順番になされていく自己紹介に、そう言って奥村は隣で沈黙している友人を肘でコツンと突いた。が、友人はいつものようにもそもそと応える。
「……優成と僕は、既に知り合い」
「え、そうなのかっ⁉」
「うん。ボク達、同じ吹奏楽部に所属してるんだけど、担当楽器の性質上、一緒にいることが多いんだ〜」
予期しなかったカミングアウトに奥村は驚いていたが「まぁいいじゃねぇか、もう一回やろうぜ、流れに乗って!」と言って、結局その友人も自己紹介をする羽目になった。
「……知ってると思うけど、六組の
奥村とは対照的な印象を与える二柏は、やはり呟くように小さな声で自己紹介をした。
「うん、今更だけどよろしくね〜」
それでも萩原は彼の声を聞き取りそれに応えた。自身の声が届かないことが多々ある二柏にとってこれは嬉しいことらしく、顔を綻ばせている。
「にしても英に知り合いがいたなんてな」
すると今まで知らなかった友人の友好関係を始めて知った奥村は、随分と失礼な感想を言い放った。
「……高校で、一番初めの友達」
「あれ、さっきは『知り合い』って言ってなかった?」
「……友達じゃダメ、か?」
「ううん。嬉しいよ〜!」
そう言って二人はニコニコと笑い合った。
「おい、オレも混ぜろよー」
二人の仲良さげな様子にいてもたってもいられなくなった奥村はそう言って二人にじゃれ付いている。カウンターの上にはいつのまにか誰かが片付けたのだろう、貸し出しの手続きをするための台帳や筆記具は姿を消していた。が、そのかわりに一冊の本がそこに横たわっていた。誰が置いたわけでもない、音もなく自然に湧いて出てきたともすら見て取れるそれは四六判サイズのもので、カウンターを背に話している三人はその存在にはまだ気づいていない。
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