side 女の子②

 話に夢中になりすぎてお察しの通り魚は一匹も釣れなかった。はっつーにはこっぴどく怒られた。彼女を怒らせたら怖いなって改めて思った。結局女の子同士で料理を作ってそれを食べた。私はなぜか盛り付けだけ手伝ってと言われた。料理得意なんだけどなぁ……太陽も美味しい美味しいっていつも食べてくれるのに。





 空腹を満たして今は皆と満天の星を眺めていた。そんな中、私は言葉を発した。




「皆で花火しよー!持ってきたんだぁ」


「ほんとですか!?」


「たまにはいいかもしれないわね……」


「だな……」




 彼女も彼も賛同してくれた。それだけで心が温かくなる。


 せっかくだからときぃちゃんが「浴衣に着替えてやりません?」と提案してきた。夏休みシーズンだけ浴衣をレンタルできるみたいで、誰も拒まなかったので着替えに向かった。




「どう?このしだれ桜」


「うーん。葵ならひまわりとかそれこそタチアオイとかの方が似合うだろ……ま。似合ってるけど」




 着替えを終えて彼に浴衣を見せつけてから花火を開始。最初は手持ち花火を楽しんだ。きぃちゃんは二本持って彼の方へと駆けていく。




「お兄ちゃん見て見てー!とう!二刀流!」




 と言いながら振り回し、




「おい、危ないからやめろ!」




 と、彼にちょっかいを出し怒られていたり。




 花火で『Love』という文字を書き、




「お兄ちゃん撮れたー?」


「いや、撮れん」


「何やってんの!」




 と、口喧嘩していた。




 鼠花火から逃げ回ったり、小さな打ち上げ花火を眺めては胸を弾ませた。やっぱり打ち上げ花火が大好きだと強く思った。





 最後にしたのは線香花火。




 ふと彼を見ると彼は彼女を見つめていた……と言うより彼女の浴衣姿に見蕩れているように見えた。その視線に気づいた彼女。互いにはにかみながら線香花火を見つめる二人が微笑ましく思いながら、あたしも線香花火に火をつけた。




 線香花火には四つの変化があるらしい。


 点火して最初の現象である『牡丹』。短い火花が重なり合い真ん中の丸い玉と共に本当に牡丹のようだ。


 次の現象は『松葉』。一番激しく、美しく輝きながら広く飛び散る様は松葉のよう。


 三番目の現象は『柳』。火花が垂れるように、下に伸びる。風に舞うかのように、身を任せるかのように描かれる孤が趣を醸し出す。




 そして最後は──『散菊』。菊の花が咲いては散って、咲いては散ってを繰り返し、物語の終焉を迎える。




『命短し恋せよ乙女』━━この言葉は昔のものっぽいけど、小さい頃に耳にしてからずっと私の座右の銘。




 線香花火はまるで恋する乙女のようだ。好きという想いが芽生え、どんどんその想いは強くなる。でも、その想いを告げることが出来ずに実ることはなく諦めようと終わりにしようと思う。だけど、どこかに想い人がいて踠いて足掻いて苦しみ続けるそんな儚い物語。


 線香花火はどこか私に似ているけど一つだけ違うのは私が彼に思いを告げたことだろう。 座右の銘も、線香花火も私にピッタリ。そう思うだけで心が満たされるはずなのに空虚感で覆われる。




 ひまわりとか、立葵とかそんな真っ直ぐじゃないよ私は……




 あぁ……私が先だった、なんて我が儘ももう言えない。




 その想いを、二文字を言ってしまえば、今までの私の気持ちがないものになってしまうと分かっていてもなおその言葉を口にした。




 でも、届かなかった。





 線香花火が嫌いだった。 打ち上げ花火みたいに派手じゃないから。 直ぐに消えちゃうから。 長く持たせる方法があるらしいけどそんなの知らないから。 小さい頃は地味で早く終わらないかと思っていた。




 でも、明日からは新しい私で彼と彼女に声をかけられると思うから。二人のそばにいられると思うから。せめて今だけはこの炎が、心臓が止まるようなこの想いが長く続いて欲しい。終わらないで欲しい。 やっと線香花火が好きになれたから。 そう思わせてくれたのは彼のついた最初で最後の優しい嘘のおかげだから。




 だから……だから──






 夏、終わらないで。

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夏が終わらなければよかった。 美海未海 @miumi_miumi

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