side 男の子

 今日はいつもよりだいぶ早く目が覚めた。


 別に予定もないのに、夏休み最終日まで昼まで寝ているのはもったいない気がしたので久しぶりに早起きした。


 窓の外をぼーっと見る。隣の家にはあいつがいる。危なっかしくて世話が焼けるちょっとドジだけど、いつも笑顔で背中を押してくれるあいつが……


 ―――




 階段をたらたら下りてリビングに入ると朝食の支度をしている桔梗ききょうと目が合った。仕事で忙しい親の代わりにいつも妹の桔梗が食事を作ってくれる。ありがたやーと見つめているとふと目が合う。めちゃくちゃ目を見開いている我が妹。別に目と目が逢った瞬間に恋に落ちたわけではない。




「え?えぇぇぇぇ?おっ、お兄ちゃんがこんな朝早くに起きてる!?えっ、何!?今日雪でも降るの!?」とろくに挨拶をされるでもなく珍しがられる俺……妹にいつもどう見られてんだよ……




 そんなやりとりをし終えて食卓を囲む。囲むと言っても二人しかいないけど……妹の笑顔が見れるだけで十分だ。




「で?今日何かあるの?」




 料理を堪能していると、桔梗は話を戻してきた。別に夏休み最終日だからと言って特に予定はないのでそう説明しようとしたところでスマホのバイブ音が響いた。画面を見ると1件のメッセージが届いていた。


 送り主は──




『今日暇?』




 喧嘩してから口ひとつ聞いていなかった幼馴染の立花葵たちばなあおいからだった。




「誰からだったの?」




 気づけば長々とメッセージを送りあっていて、桔梗がニヤニヤと笑みを浮かべていた。




「んー?あぁと。葵からだ。忙しくて遊べてなかったから、今日バーベーキューしないかってさ」


「マジで!?いーじゃんいーじゃん。バーベーキューしよーしよー。お兄ちゃん、あたし松阪牛食べたいなぁ♡︎」




「可愛い妹の願いは叶えてあげたい」と思うのは全世界のお兄ちゃんの夢だろう。だから俺がお年玉貯金の諭吉をそっと財布に入れたのはこいつには内緒にしとこう。




「場所どこ?」


「夜に満天の星が堪能できるって宣伝してるキャンプ場あんだろ。そこでやるみたいだ。時間は11時半バス停待ち合わせだ。俺らが来るのは決定事項だったらしくもう予約入れてたみたいだ」


「さっすがあおちゃん!仕事が早い!さっ準備しよー。おー!」


 ―――




 時刻は午前11時20分。一足先に俺と桔梗は待ち合わせ場所のバス停に到着した。10分前行動を常に心がけている。散々あいつらに言われてきたからな。面倒臭いのはごめんだ。てか、あいつらまだいないじゃん。人に言っときながら自分たちはやらないとかなんなんですかね……まぁ、これが男の宿命なのだろうか……などと男に生まれてきたことを嘆いていると、ずっと見てきた向日葵みたいな眩しい笑顔が手を振ってやって来た。




「おはよう二人とも!」


「おはようあおちゃん!」




 いつも通り幼馴染感のあるフレンドリーな挨拶を交わす二人。ここで変に意識してるなんてバレたら面倒くさくなるのは目に見えてるので俺も普通に返そう。




「おっ……おっ。おは……う」


「う……うん!おはよう太陽!」




 互いにどもってしまたけどいつもより元気だな葵は……




 そんな葵はモノトーンのボーダー、白色のパンツスタイル。ベーシックながらも夏の爽やかさをアップさせるフレンチシックなコーディネート。普段の派手で可愛い系をチョイスする葵とは違う印象を受ける。案外白も似合うんだな……




「ごめんなさい。待った?」


「全然ですよー葉月さん!今来たところですから。ね?お兄ちゃん?」


「あぁ。大丈夫だ。」




 第一声に謝罪をしてきたのは、青海葉月あおみはづきだ。まず、謝罪を述べるところが律儀なこいつらしい。そんな彼女は、ネイビーシャツに黒パンツのシンプルコーディネート。ネイビー×ブラックでクールな青海の印象を引き立たせている。オシャレには疎いと青海から聞いたことがあるが、最近はやけにオシャレに気を使っているのが見て取れる。まぁ、葵か桔梗あたりにでも聞いたんだろう。




 と、それより大事なことがある。そのことを葵に聞く。




「おい。雪村は!?雪村は来ないのか!?」


「うん……ゆきむー来れないってさ」




 雪村……唯一の男友達であるお前が来ないのかよ。男一人とかどうすればいいんだよ……




「あー。行こう行こう。時間だー。さー急げー」


「ゆきむー来ないだけで落ち込みすぎじゃない!?あんたどんだけゆきむーのこと好きなの?バカ……」


「なんか言ったか?」


「別に!さっ行こう皆!」




 葵が最後にボソボソ言っていたが、たぶん俺への愚痴だろう。


 まぁ、声が小さすぎるのと雪村が来ないことで頭がいっぱいで聞こえなかったってことにしておこうか。

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