第10話

支配人に移動手段を頼んだところここに来るときに使った車を貸してくれた

いや、実際には頂いたというのが正しい

国を渡るのに徒歩で移動している旨を伝えると


「それはいけません。渡り鳥の方々は大抵乗り物を使っています。こちらで型は古いのですが車をご用意いたしましょう。」


確かに国に入るまで周囲に何もなく目覚めた場所からここまで相当な距離があった

渡り鳥は国から国へと渡るのだから徒歩は耐えられないだろうなと思っていたのだが、まさかここまでしてくれるとは思いもよらなかった

先人の渡り鳥はこの国でどれほどの功績を残したのだろうか、それが気になる

機会があれば調べてみようと心の隅に留めておくことにした


しかし問題はそこではない


「ヒイ、これって操縦できるの?」


そう、何を隠そう僕らには操縦技術が無い

どうしたものか

操縦士を雇うにもお金が必要だ、仮に学ぶとしてもお金が必要になるだろう

支配人から鍵を渡されている

中を見ると操縦桿が付いた席、その隣の席、後ろにも二人ほど座れる席がある

最初の席の扉に鍵穴があり持っている鍵を挿すとカチリと回り扉が開いた

乗り込んでみる

足元にはペダルが二つ、隣の席との間に操縦桿とは別の鉄棒が刺さっている

僕は不思議な感覚に襲われた


(知ってる、この車の操縦方法を知っている。何故だろう?記憶はないのに体が自然と動く感じだ。)


「動かせるの?」


シイの質問に答えず操縦桿を握り、刺さっている鉄棒を弄る

棒を前に倒し足元にペダルが二つある

扉を閉め右のペダルを踏んだ

するとこの鉄の車は前進した

そう、こうやって動かすんだ

しかし、なんでわかるのだろう?

理由がわからないがこれで移動に問題ないのだが、どの引き出しからこの技術が出てきたのか

もしかしてここに住んでいたのかもしれない

住んでいたのであれば見覚えのある人もしくは僕を覚えている人が居て声をかけてくれるかもしれない

自分の過去を知る道が一つ見えた気がする

そんなことを思いながらシイの居る場所へ操縦しながら戻る


「すごい!乗ったのは初めてじゃないの?それとも自分のこと思い出した?」


彼女の言葉に首を横に振った


(覚えているわけじゃない、それに操縦技術は持っているみたいだけどどういった原理で動かせているのかもわからない。)


「なんだかわからないけど動かせるんだ。不思議だけどこれでいろんな障害が解決するわね!」


僕の表情を読み言いたいことを全て理解してくれるシイには感動すら覚える

一緒に居るのが彼女でよかった

意思疎通も出来ない僕が一人で旅なんて出来るはずもない

それに読み取ってくれる彼女だからこそこの短期間で信用できたのだと思う


笑顔の彼女は足早に反対側へまわって扉を開け着席した


「ヒイ、とりあえずどこに行こっか?」


無邪気な笑顔に僕も笑顔で返し最初の目的地を決めた

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