第8話
扉が開き廊下へ老紳士と共に出る
先導され一つの部屋の前で止まった
番号は千七十七号室
鍵を開け中へ入る
玄関も広く綺麗な花が品の良い花瓶に活けられていた
その先へ進むとまた扉があり扉を通ると大きな部屋がそこには広がっている
どうやら一等いい部屋なのかもしれない
右手には二人でも広すぎるほどのベッド、左手には大きなテーブルにイスが二脚添えられている
老紳士が部屋の説明をしてくれた
要約すると中にあるものは壊さなければ何をしてもかまわないということ
何かあるのではないかと思ったためシイをベッドに寝かせ理由を聞く
『何故そのようなことになったのですか?』
「渡り鳥の方への対応はこれが普通なのです。以前はここも小さなどこにでもある宿でした。しかし渡り鳥がこの国を変え、そしてこのホテルがここまでになるようなことをしてくださったと伝えられています。当時の支配人はお礼をと申し出たのですが、彼は一言こう伝えたのです。」
『これからこの国に訪れる旅人のために宿を使ってほしい。もしお礼をと言うのであれば彼らのために助けてあげてくれ。僕らは気持ちだけで充分、ありがとう。』
「なのでそれ以降渡り鳥の方々には最低限の報酬で最高のおもてなしをしております。すべての渡り鳥様が良いわけではございませんのでその時の支配人の采配によるのですが、お客様は大丈夫だと思います。私の直感でしかございませんが。」
微笑む老紳士に言われ僕も自然と頬が緩む
口ひげを蓄え、白髪で小柄な老紳士の笑顔はこの宿の名物なのかもしれない
「ではごゆっくり。何かございましたらそちらの電話でお申し付けください。」
と言い鍵を置いて部屋を出ていった
やっと文明のある場所に来てゆっくりできるということに安堵し椅子に腰かける
部屋の中を見渡す
棚に小さな扉付きの箱が置いてある
その後ろから何か黒い紐が出て棚の裏に伸びていた
あれはなんだろう?
近寄りその先を追う
どうやら片方は箱の後ろから生えていて逆側は壁の白い板に刺さっていた
先端の形状が変わっていて四角というか長方形というか、そんな形をしている
尻尾の生えたこの箱は宿にあるべきものなのか?
首をひねりながら箱を眺めていると脇腹にとてつもない衝撃が!
「寝てる間に何かしたでしょ!」
声が出たのなら
「ひゃあ!」
とか
「ひい!」
とかそんな声が出たことだろう
僕はいろいろ考えていたはずなのにシイの人差し指で全てが飛んだ
地面に膝をつき脇腹を抑えながらシイに待ってくれと言わんばかりに手で静止を促す
シイはまだ眠いのか目を擦りながらこちらを見ている
「ベッドの上に寝かされてたけど何しようとしたの?それとももう何かしたの?」
あらぬ誤解を受けているというのだけは理解した
弁明しようにも声が出ない
このままではいけない、何か無いか何か
僕は思考を巡らし一筋の光明を見出した
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