第7話

中に入ると驚きの連続だった

扉の中には高層ビルが建ち並び、記憶にはない四輪車が数多く走っている

青年に黄色い車に乗せてもらい目的地である宿へ

そこも高い高いビルで外観はとても高級そうで現在無一文の僕らが泊まるには明らかに分不相応に思えた

しかし、青年の話では僕らが持っていた硬貨を収集家に売ればここの宿代以上のお金を手に入れることが出来るとのことだった

その収集家の住所を聞いておく

本当に大丈夫なのだろかと一抹の不安とシイを抱えながら宿の中へ入る

青年とはその場で別れた

ここへ向かう途中、周囲を見渡していたが甲冑を着ているような人は居ない

実に平和そうな国なのだが彼は何故そのようなものを身に着けていたのだろうか?

周囲に国が無いなら戦争や紛争といったこともないだろうし治安が悪いといった様子も見られなかった

少しだけ、そう少しだけ注意を払うことにしよう

用心することに越したことはないはずだ

そう心に留めて宿の扉をくぐり中へと入ろうとした

するとそこには身なりの整った男性が立っている

彼は満面の笑みで


「いらっしゃいませ、渡り鳥のお客様ですね。お話は伺っております。」


と言ってきた

甲冑の青年が話を通してあるとは言っていたから特徴を伝えていたのだろう

笑顔の男というのは構わないのだが僕らは何かに騙されているのではないか?

少女を抱きかかえた青年

むしろ僕の方が怪しい人物に見える

人を疑う前に自分を疑いたい

彼からはどう見えているのだろうか?

確かに兄妹として伝えてあるのだから不審ではないはず

気にするのはやめよう

何かあったらシイを起こして弁明してもらえばいいことか

などと不安を抱えつつではあるが青年に近づく

赤を基調としたスーツはこの宿の制服だろうか、目立って覚えやすいのは助かる

土地勘も無い僕らからすれば一度見たら覚えられる目印は必須だ

しかもそれが滞在場所であれば尚更有難い


「中の者がお部屋へご案内します、どうぞ。」


笑顔で頷き中へ入り中を見渡す

内装も豪華で大きな硝子を使った照明だ

正面に受付がありその両脇には通路がある

受付には先ほどの青年と同じ制服を着た老紳士が一人こちらを見て笑顔で出迎えてくれた

彼と違うのは胸に名札で支配人と書いてある

なるほど、最高責任者自ら出迎えるほど渡り鳥とは随分と大事にされているみたいだ

受付まで行くと老紳士の柔らかく穏やかな声が耳に入った


「ようこそお越しくださいました。とてもとても久しいお客様なので全身全霊でおもてなしさせていただきます。」


両手の塞がった僕では笑顔で応える他無いのが残念だ

老紳士は鍵を一つ取りだし


「お部屋までご案内いたしましょう。」


そう言うと受付から出てきて左手の通路へと誘導され進んでいく

通路も綺麗で床には赤いカーペットが敷かれ、白い壁にランタンを模した照明が灯されている


「ではこちらにお乗りください。」


そこには扉があり小さく音が鳴ったと思うと開いた。

中は十人ほどが入れる小部屋で入り口付近には数字の書かれたボタンがついている

ここがどこなのか聞こうにも声は出ず、筆談しようにもシイを抱えているため出来ない

老紳士は十のボタンを押し下にある『閉』とかかれているボタンを押していた


「最上階のお部屋でございます、ここ十数年渡り鳥はこの国へ立ち寄ることも無かったものですから老人の私も恥ずかしながら心が躍っております。何か粗相がございましたら申し訳ございません。」


はにかんだような笑顔でこちらに会釈をした

それに合わせ笑顔と会釈で返す

そのうち小部屋がガタンと揺れ、体が一瞬重くなったと思うと機械音が聞こえた

そしてここが何か動いているのだと理解することになる

後ろの壁が硝子張りで外が見える

どうやらこの小部屋は上に移動しているようだ

シイが見たら大はしゃぎするところだろうに勿体ない

起こしてあげようか?いや、起こしたら起こしたで何か言われるに違いないからこのままにしておこう


しばらくすると目的の場所に着いたのか小部屋が止まった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る