第4話

電灯の明かりを頼りに進んだ先には扉があった

取っ手もあり今度はこちらから開けられるようだ

先頭のシイは物怖じせず扉を開ける

開かれた先には先ほどの『モニター』に映し出されていた部屋そのままがあった


「ようこそいらっしゃいました、ここは始まりの国。いや、発明の国という方が正しいかもしれません。とにかくよく辿り着いていただけました。」


先ほどの青年がにこやかに出迎えてくれた

歓迎の言葉とここが国であることはわかったのだが始まりや発明と呼ばれているのは謎だ

同じく疑問に感じたシイが口を開く


「歓迎してもらえたのは嬉しいのだけど、ここはなんで始まりとか発明って呼ばれているのかしら?」


「それは簡単ですよお嬢さん。ここは毎日何かを発明することを生きる糧にしている国なのです。発明は始まり、だから始まりの国もしくは発明の国と呼ばれております。」


(なるほど。)


彼の言葉で腑に落ちた

この国の人間たちは生み出すことで生活しているのだろう

生産性のある国のようだし生活水準は高そうだ、少なくとも水や食料は手に入るはずだ

しかし、入国審査とは何を行うのだろう?


「ここまで来ていただいたのですからお座りください。入国に必要な書類を書いていただきます。特に難しいことはありませんよ、名前に年齢、出身国や過去にかかったことのある病など長いだけで面倒なものはないはずです。」


僕らを椅子に座るように促しながら書類を取り出しに棚へ向かった

シイは疲れていたのもありすぐに座りそれに続くように僕も腰を下ろす

この椅子や机は低い位置だからだろう、先ほどの『モニター』では見えていなかった


「お兄さん、お水が欲しいわ!あと何か食べ物もあると嬉しいのだけど?」


シイのなんとも不躾な要求を聞き彼は苦笑しながらも


「これは気が付かなくて失礼しましたお嬢さん。ここはあくまで入国管理室なので大したおもてなしは出来ませんが水とクッキーをどうぞ。」


と言いながら書類と共に用意をしてくれた

コップ一杯の水、白い皿に数枚のクッキーが置かれるとともに書類も渡された

内容は青年の説明通り簡単なものだ

名前、年齢、出身国、過去にかかった病、あとは滞在期間と滞在目的などの項目である

シイは青年に感謝の言葉を述べながら水を飲みクッキーにかじりついた

目覚めてから初めての食事だ

僕も会釈しつつ水とクッキーに手を伸ばす

まず一口水を啜ろうとしたのだが舌に触れた瞬間一口では済まなくなった

余程乾いていたのだろう、砂漠に零れた水のように染み渡りそのまま全身に行き渡らせようとコップを傾け中身を全て飲み干してしまった

生き返るとはこういう感覚なのだろうかと思うほど水分を欲していたのだろう

次にクッキーをかじる

あまり力を入れずともほろほろと崩れ口の中に小麦の味と砂糖の甘さが広がっていく

数回口の中で咀嚼し飲み込む

先ほど得た水分が持っていかれるため水を欲した

しかし飲み干してしまったためそれがない


「お兄さん、お水のお替りいただけますか?」


隣から救済の声が聞こえた

彼女のコップも空になっているのを見ると僕のためだけではないのだろうが有り難い


「水差しを置いておきましょう。見たところとても軽装で荷物も無いところを見るとどこからいらしたのかわかりませんが乗り物を持つかもう少し装備を整えた方が良いと思いますよ?小さなお嬢さんもお連れですし。」


彼の言うことはもっともだと思う、しかし先ほど目覚め記憶がないなどと言って信用してくれるかは怪しい

愛想笑いを浮かべつつ書類と対峙することにした

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